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「あっ、そっそーじゃなくて、あの……」 さすがの太乙も、自分がとんでもない事を言ったと気が付いたが、後の祭だ。 玉鼎は太乙の座る椅子の、すぐ斜め横に立っていた。太乙は，玉鼎を見上げたまま、視線が外せなくなっていた。 「では……お前の期待に、応えなくては、悪いな」 「……！玉鼎！」 逃げようと思ったかどうかはともかく、玉鼎の勢いに押され、太乙は立ちあがった。その勢いで、椅子が倒れる。 だが、立ちあがった太乙は、いきなり玉鼎に、抱きすくめられた。 「約束を破ったら、おしおきが……必要だな」 「いっ、いやー。ごめんなさい。もうッ……しな……」 太乙の悲鳴は、そこで止まってしまった。玉鼎の意外に細い……しかし武人らしく骨ばった指が、太乙の顎を捕らえたからだ。 「玉鼎……」 「……そんな目をしても……駄目だ」 久々に味わう絶望の為に、太乙の目には、涙が浮かぶ。だがそれを否定され、もう太乙には逃げ場がなかった。 太乙達がいるのは、玉鼎の洞府である金霞洞の彼の私邸だ。いつもはそこのダイニングルームで、夕食を取る事になっていた。 基本的に、白木を基調とした家具が置かれた、明るいキッチン＆ダイニング。床は、大理石のタイルが敷き詰められ、大きめのセンターラグが敷かれている。その上に置かれたメインのテーブルは、結構広いものの、椅子は二つ。 だが、太乙が座っていた椅子は既に倒れ、その側で、太乙はラグの上に、手を捻り上げられ、うつぶせにされていた。 玉鼎の膝で押さえられ、衣服を剥ぎ取られる。 さらに、自分の纏っていた布で、後ろ手に縛られ、残ったもう一本の布を、胸に回され、腕もろとも縛り上げられた。 「せっかくだ。少しは……その身体に、思い出してもらわねばな」 そして、玉鼎は更に太乙を、絶望に追い込むような、言葉を言う。 「……お、思い出すって……」 玉鼎が言う言葉の意味を、解りながらも、太乙は聞き返さずには、いられなかった。 おびえる太乙をよそに、玉鼎は更に、どこかから出した革のベルトで、太乙の後ろに回した腕を更に縛る。そこにロープを通し、それがちょうど垂直になる長さで、天井の梁に通した。 この建物は平屋のため、天井は屋根の形に斜めになっていて、所々に、太い梁が通っているのだ。 そして、そうする事で、太乙はダイニングとキッチンの間に、立たされる形になった。 「私を……どうする気？」 「お前の……好きな事だ」 笑った玉鼎は、とても怖かったが、太乙は何とか、身体が震えるのを、我慢して聞き返す。 「な…何がっ？」 「……お前はこれが……好きだろう？」 カチャカチャと音がして、太乙の首に、以前嵌められていた首輪が付けられた。 「いやだよ！こんなっ……」 今度は、恐怖で体が硬直する。玉鼎の言わんとしている事は、わかっている。またこうして、自分の身体に、彼の存在を、知らしめる儀式。 自分が、何度も溺れた行為。我を忘れるほどに。 思い出したくもない。もう二度と、あんな事をされるなど御免だ…。そう思っていたはずなのに、考えた途端、身体を甘く切ない感覚が、走り抜けた。 （違う……！そんな事……） どうにかなりそうな身体を鎮める為、太乙は頭を振る。 そんな太乙の仕草を、玉鼎は変わらぬ表情で、見つめている。 通されているロープの所為で、太乙は、その場から動く事が出来なかった。 そして玉鼎は更なるベルトで、太乙の身体や腕や脚を、きつく縛る。 「玉鼎……いた…い」 太乙は訴えてみるが、それは逆に、彼から手加減と言う言葉を、奪ったようだった。腕以外に付けられたベルトのいくつかにも、ロープを通し、それも梁と柱の交わるところに止める。 「綺麗だよ。太乙……」 彼の言葉には、耳を貸さず、玉鼎は言う。 「本当に……他人に見せるなど、もったいない身体だ」 全てを縛め終わり、彼の耳元で、囁いた。 「その上、こんなにも淫らで……」 「あ……」 「……感じやすい」 言いながら、玉鼎は白い肌の上に、指を滑らせた。 「ちが……っ」 「そう言う割には……身体は、その気ではないか」 そこだけはわざと露わにさせる縛り方によって、明かりにさらされた太乙自身は、最初萎縮していたのとは違い、今は玉鼎の言う通り、昂ぶりを見せていた。 結局は、太乙は自分の身体の反応に、抗いきれなかったのだ。 それは、玉鼎が太乙を縛りながら、何度も彼が感じる様に、太乙を刺激したから……とも言えなくはなかったが、それだけではない事を、太乙は残念ながら、認めざるを得ない。 その事実に太乙が打ちひしがれているのを、知ってか知らずか、、玉鼎は更に、太乙の敏感な所に、指を這わせる。 「あ……やめ……｣ 「止めて欲しいのか？｣ 「あ……う、うん。お願い……｣ 「じゃあ、止めさせてあげよう。お前が“イク”のをな｣ 玉鼎が取り出したのは、細めのサテンのリボンだった。 「あ……」 指先で、太乙の昂ぶりを再度なで上げる。それがビクンっと跳ね、玉鼎はうっすらと笑った。 「な…何？……そんな…」 そして、玉鼎は手に持っていたリボンで、キツく太乙自身を縛り上げた。 「やっ、やだ……あぁ」 玉鼎に哀願する言葉は、そのまま太乙が感じている事の、証だった。 「いいのだぞ。イキたければ、そう言って｣ 「……くっ｣ さすがの太乙も、ここで最後の抵抗を見せるが、もう既に感じている身には、かなりきつかった。 そして、そんな太乙をあざ笑うように、わざと音を立てて、玉鼎の舌が太乙の身体を愛撫する。 首筋から肩を通り、胸の飾りを、丹念に舐める。 「あ……あぁ……｣ 押さえきれず漏れる声を止め、感じる身体を紛らわそうとして、太乙は、唯一動く頭を振った。 それに気が付いた玉鼎が、太乙に嵌めていた首輪の鎖を掴み、引っ張る。 「い……や……｣ 「おや。この程度で……我慢できないか？｣ 玉鼎は楽しそうに言いながら、中心を避けつつ、太乙の腰の辺りに、唇を這わす。 「……あっ、あ……｣ 玉鼎は、愛撫の手を止め、苦しそうな太乙の顔を覗き込んだ。 どうせ、この程度ではいかせてもらえない事がわかっているから、太乙は必死になって、その感覚に耐えた。 「……く…」 何とか身体を落ち着かせようと、大きく息を吐く。 そして時折、淫らな声が、その唇から漏れる。 「そういえば、夕飯がまだだったな」 そんな状況の太乙を目の前に、玉鼎はのんびりとそんな事を言う。 「食べるか？」 言葉とは似ても似つかない、残忍な表情で。 「そ…そ…んな……いらないよ。それより……」 すこし、放って置かれた事で、太乙の身体から熱が冷めていた。そして何とか、この状況から、解放してもらえないものかと、太乙は考えた。だが玉鼎にはその気は微塵もないらしい。言い出した太乙の言葉は、行き場を失った。 「私の作った物は……食べたくないと？」 「そんな事を言ってるんじゃ……ないよ」 玉鼎の行為に、抗議する太乙の言葉も、力ない。 「心配するな。私が食べさせてあげよう」 先程、自分で運んで来たトレイから、玉鼎は器を取り、スプーンに一口取る。 「桃のスープだ……｣ 玉鼎の言う通り、そこからは甘い香りが漂う。 「……ん｣ 仕方なく、差し出されたそれを、太乙は口を開け受け入れる。 冷たく冷やされたそれが、熱い身体に心地いい。 「……太乙｣ 何口か含まされ、やっと一息付けるかと、太乙が安心した頃、玉鼎が不意に声をかけた。 「……なに？｣ 一瞬気を抜いたのを、悟られたかと思い、太乙はぎくりとする。 「これからだ……｣ その台詞に、別の意味で、もっと心臓が跳ねた。 「……あ｣ ベルトで縛られた脚を、一旦外される。そして、左の足の膝の辺りに、外したベルトを再度巻きつけられた。そこに通したロープを、今太乙を繋いでいるロープが掛けられている梁と、直角に交わるそれに掛ける。 左足を持ち上げられ、太乙の秘部が露わになった。 恥ずかしさに、太乙はそれを隠すように、右足を寄せる。 「往生際が…悪いぞ｣ 足首を掴まれ、右足を引かれる。足首にベルトを掛け、ロープで引っ張り、反対側の柱にそれを結ぶ。 先程以上の恥ずかしい状態で、太乙は玉鼎の前に、全てをさらされた。 「いやぁ……見ない……でぇー｣ あまりの自分の格好に、太乙は恥らって、身をよじり顔を背けようとする。 だが、さすが十二仙の玉鼎の手によるそれは、太乙が身動きする事を、許さなかった。 太乙は無意識に、目をキツク瞑り、動く範囲で首を振る。そうすればするほど、自分が今どんな状態でいるのか思い知らされ、羞恥で顔が赤くなった。 「そろそろ……だな｣ 太乙は気が付かなかったが、そんな彼を、玉鼎は静かに観察していた。そして、おもむろに、口を開く。 「……な…に？まさか……」 そう言えば、先程から、玉鼎が触っていないにもかかわらず、身体が熱くなってくるのを、太乙は感じていた。 玉鼎の物言いにも、思い当たる事がある。 何故彼が、あんな時に夕食の事を持ち出したのか。 それは、あの中に何か入っていたからに違いない。 そういえば、一瞬、皿を取るときに、彼が背中を向けていた事を、思い出す。あの時は自分も、身の内を焦がす熱で、そんな事は考え付かなかった。 「……何か……入れたの？」 「さあ…な」 冷たい観察者の目で、玉鼎は太乙を見る。実際は、玉鼎もこんな太乙の状態に、かなり興奮しているのだが、さすがに、それを表情に出すような事はしない。だから、太乙だけが、恥ずかしさの中、翻弄される惨めさを味わっていた。 「その身体で、確認したらいい」 「あ……」 その言葉が言い終わらぬうちに、太乙も、自分の身体が熱くなっていくのを、確実に認識しはじめた。 「……お酒…とか…入れたの？」 「……正解だ」 玉鼎は、以外にあっさりと、手の内を明かす。だがそれは、太乙にとって別の意味を持っていた。 太乙は、実はあまり、お酒に強くはない。そして実は昨日も、お酒でほろ酔い気分になってから、あんな風に抱かれたのだ。 「当たった、御褒美に……その熱……冷ましてやろう」 「何……？」 勿論、それが額面通りの意味でない事くらい、太乙にもわかっていた。 玉鼎が、台所の方で何やらごそごそとしている。 程なく戻ってきた彼は、手に透明な何かを持っていた。 「玉…鼎？」 太乙の質問には答えず、それを太乙の目の前に出し、そっと口に触れさせた。 「……氷？」 その冷たい感触に、最初何をするのか不思議がっていた太乙も、玉鼎の意図を察知する。 「あ……」 太乙の唇から、頬に滑らし、胸へ降りる。太乙の体温で溶けた水が、生き物のように、身体を滑り落ちた。 溶けたばかりでまだ冷たい水の感覚が、玉鼎が直接与える、痛いような冷たさとあいまって、太乙に声を上げさせる。 「あ……あ…ん」 太乙の身体から滴り落ちる雫が、床にぽたぽたと落ちて、染みを作る。それは、ただの水だとわかっていながらも、太乙にはまるで、玉鼎に露わにされた、自身の欲望を見せつけられた様で、居たたまれなかった。 そして実際、太乙の秘部も、今までの行為で、濡れはじめていたのだ。 玉鼎は、太乙の身体をなぞらせ、小さくなったそれを、ぺろりと舐める。 「この位なら……入れてもいいな」 「い…入れるって、まさか……」 太乙は、青ざめる。 「い…や、いや！やめてっ！そんな……」 身を捩るが、こんな状態では、逃げれる範囲など、知れていた。そして、ロープで上げられている、足を掴まれる。玉鼎は、太乙の露にされた場所の周りを、氷の塊で少し愛撫し、太乙の予想通りに、濡れている秘部に入れた。 「ひ……あぁ、つ、冷た…い、いや……」 太乙の中に入れた物を、玉鼎の指が更に奥に進ませる。その間にも、氷は太乙の熱で溶け、玉鼎の指を、冷たい水が伝って落ちる。 「お前の内部が、いかに熱いか、証明するようだな」 太乙が感じる場所でそれを止め、玉鼎は押しつけるように、氷を動かす。 「あー、いや……はぁ、あ……」 「お前の中が、どんどん熱くなってくるな」 氷はすぐさま溶けてしまい、残された玉鼎の指が、執拗にその一点を責める。 「もっと、大きいのを入れても、良かったかな」 「あーああぁ……もう…だ…め」 玉鼎の言葉など、もはや太乙には聞こえていなかった。 太乙のそんな様子を見て、玉鼎は一旦指を引き抜く。 わざと、ゆっくりと。 そして太乙の秘部も、ああ言いながらも、それをまるで抜かせないとでも言うように、やわらかな肉が玉鼎の指に、からみつく。 「玉鼎……」 そして、お願い……と、あからさまな様子で、太乙は玉鼎を見る。 「どうして欲しいか……言って見ろ」 微妙な感覚で、太乙の肌の上に、指を這わせながら、玉鼎は言う。 「……玉鼎……キス…し…て」 「おや。嫌だったんじゃないのか？」 「あ……ちが…うの。お願…い」 「……」 「お願い……玉鼎…真人……さま」 「……ん」 玉鼎が太乙の顎に、軽く手を添えると、今度は素直に上を向いた。 そこに、やさしく、口付けをする。 こちらが促さなくても、太乙自ら唇を開いて、舌を絡めようとする。 それを知っていながら、わざと唇を、掠めただけで離す。 「……もっと」 それだけで、この状態の太乙が満足するわけはなく、切羽詰った表情で、玉鼎にねだった。 「淫乱だな……太乙」 そう言われても、こんな身体にしたのは、玉鼎だ。 本当は、太乙はこういう事には、うとかった。ただ、崑崙の連中には逆に、すごく慣れていると、思われていたようだが。 「あ……ふ。もっ、もっとぉ」 もう一度、玉鼎が唇を近づけ、今度は彼の望む通りに、舌を絡めた。 「あ……、んん…」 玉鼎は、太乙の胸の飾りに手を伸ばし、軽く摘む。甘い感覚が走り抜ける。 「ん……んふ…」 だが、まだ『いかせて』もらえない身体は、それ以上の快楽が苦痛になっていた。今度は、逆に太乙から、唇を離した。 「……あ、はぁはぁ…」 「まだだ」 「い……いや。もう……いか…せ」 「口付けしてくれと言ったのは、お前だ」 「して……いいから、いかせ…て」 太乙の目には、涙が溜まっていて、さすがに玉鼎も、気の毒になったのか、太乙に掛かっているリボンを、外してやる。 「まだ……気をやるなよ」 「あ……」 そんな無謀な事を言う玉鼎に、太乙は健気にも従おうとする。 だが、そのために力を入れた為、逆に吊るされている身体を、上手くバランスを取る事が出来なくなった。そのため身体中に、自身の重さが加えられ、太乙は痛さにうめいた。 「……玉鼎…じらさないで…」 その傷みを、何とかやり過ごし、太乙はもう一度、玉鼎にねだる。 玉鼎はうなずき、太乙をやさしく抱きしめ、頬に口付けた。そして、やさしく指を、太乙の、今は何の戒めもない昂ぶりに、這わせる。 「いって……いいぞ」 いつもなら、少しの罪悪感とためらいの中、玉鼎に“いかされる”のに、今は太乙は、玉鼎の与える快楽の全てを、受け入れていた。そしてその事で、これほどに快感が増すとは、太乙には驚きだった。 「あ…あぁ…玉…鼎」 指先まで、しびれるような快感が突き抜ける。 玉鼎に促されるまま、太乙はあられもない声を出し、彼の手の中に、欲望の証を放つ。 「まだ……足りないだろう？」 玉鼎の問いかけに、太乙は頷くしかなかった。そしてそれは、偽らざる思い。 「外して…やろう」 先程とは比べ物にならないやさしさで、玉鼎は太乙を、その縛めからはずす。 そして、ダイニングの椅子をどけ、そのラグの上に、太乙を横たえた。 「太乙……愛している」 優しく、玉鼎が言う。そして太乙も、恥ずかしさに瞳を閉じることなく、彼の顔を見る。 「私も……」 何度言ったかわからない言葉も、今日は違って響いた。 それだけで、自分の内部が、濡れるのを太乙は感じていた。 （私……どう…なっちゃうんだろう） そう思ったのは一瞬だけで、太乙はうっとりと、玉鼎の唇を受けた。 「太乙……私だけを…見ろ。今だけは……」 そして、いつもの姿勢を太乙にとらせ、玉鼎は彼の濡れた蕾を、自身の楔で貫いた。 「ひどい事をして……すまなかった」 結局、あの後数えきれないほど玉鼎にいかされた後、ベッドの中で、太乙は玉鼎と一緒にいた。 「そ…う思うなら、もう少し……」 疲れ切った身体を、玉鼎が清め、ここに運んでくれた。その事は太乙に幸せを感じさせたが、いかんせん、その前が前だ。 「だが、お前は……ああされるのが、好きだろう？」 「…玉鼎！」 言ったものの、太乙は否定できないでいる。 「時々……してもいいか？」 ちょっと照れながら、玉鼎がしょうもない事を言うのを、太乙は呆れた顔で見る。 「い……いや…その、お前を悦ばせたいと……」 先程とは打って変わって、ひどく頼りなげな表情で、弁解と言うか、お願いする玉鼎に、太乙は吹き出してしまった。 「……考えとくよ」 結局、彼の言う通りになるんだろうな…と思いながら、太乙は、彼の手の中で、寝てしまった。 終劇 |