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人工楽園／２ 【３】 太乙を何度も絶頂近くまで追い上げながらも、玉鼎は彼が達するのを、許さなかった。 さりとて、彼の内部に入れた器具を抜いてやる事もなく、荒い息を付く太乙に、玉鼎は軽くキスをする。 「まずは……絵を写さねばな……」 先程のトレーから、細い筆を取り出すと、墨に浸け、さっき自分が指し示した所に、その穂先を降ろした。 「……あっ」 すっかり器具を入れられ、もう紐しか出ていない状態のその場所に、一瞬与えられた冷たくくすぐったい感触に、太乙は声を上げる。 玉鼎は、太乙の隠れた所に、小さな十字架を描き出した。それは、玉鼎の剣の鞘の留め金と同じような、端に装飾のある小さな十字架だった。 「さて……と」 今度こそ玉鼎は、あの細い針を取り出し、別の筆にやはり墨を付けたものも、用意した。 「太…乙｣ 「……あ」 玉鼎の指が先程絵を書いた所を押さえ、太乙の身体に緊張が走る。次の瞬間、ピシッと音がした。 「あっー！ひっ…！！ひぁー｣ 太乙の悲鳴に臆することなく、玉鼎は針を刺しつづけた。そして、一緒に添えられた筆から、墨が送り込まれ、太乙の綺麗な肌に、黒い点を彫っていく。 「太乙……綺麗だ…｣ 玉鼎は合間に、太乙を犯している器具を動かし、太乙の身体を…心を、朱に染める。そうして、その肌に、黒い……自分の欲望を具現化したような染みを、刻んでいった。 一刺しした所で、一瞬それた気を戻すように、玉鼎は太乙の秘部をつつき、中の器具が彼の最奥を、最も感じる所を刺激するように動かしていく。そして、彼の口から、再度嬌声が漏れ出したのを確認すると、その仕上げのように、次の場所へ針を刺していった。 「ああ……ぎょ…玉…て…ぇ……い、いい……ああっ！」 それが、玉鼎が書いた線をなぞり、小さな十字架を形作る。 何度も絶頂近くまで追い上げられ、その度に鋭い針をさされた太乙の身体は、もう限界近かった。 「……玉…鼎……｣ もう自分が、どれほど浅ましい状態でいるかなど、関係なかった。ただただ、玉鼎が欲しくて……彼に、いかせて欲しくて。 潤んだ目で、彼を見つめる。 それを合図に、今まで、冷たいくらいの光を宿していた玉鼎の瞳が、やわらかくなる。 「……太乙｣ 玉鼎は、今までの残忍な物言いではなく、心から愛しそうに、その名前を呼んだ。 「あと……一刺しで…終りだ」 「……」 「一緒に……」 玉鼎は、悲鳴をあげ疲れた太乙の口に、優しくキスをした。 太乙を犯していた水晶珠を引き抜く。 そこに自分の、限界まで猛っていたモノをあてがい、力を入れた。 「あっ…ああッ！｣ 太乙の熱い声に導かれ、以外にあっさりと奥まで収まってしまった。 「はっ……はあはあ……ぎょ…く……ああっ！｣ 一瞬息を吐いた太乙は、だが、動かされた玉鼎のモノに、また悲鳴をあげる。 「……太…乙｣ 自分もイってしまいそうな中、玉鼎は太乙の身体に、最後の一針を刺した。 「ああっ！いいっ……」 太乙のよがり声の中、玉鼎は彼を抱きしめる。 「太乙……愛している……」 「………わ…た……し…もっ｣ 既に、自分の肉体も認識できないほどに、全ての感覚が熔けてしまったような錯覚に太乙は陥る。 だから、玉鼎が自分の縛めを解いてくれたのにも気がつかなかったし、自分が必死になって、彼に抱きついているのも、判らなかった。 ただ、自分の意識が向こう岸に行き、その直前に玉鼎の意識が、流れ込んできた気がした。 その熱さに、焼かれてしまうかと、思うほどに。 その日。珍しく、本当に珍しく、太乙の方が先に目が覚めた。 ベッドから抜け出すと、その寒さに、冬が近い事を思い知らされる。 「……」 結局、言うべき言葉もなく、太乙は一人部屋を後にした。 何十年後の為に。 『当分……会えないね』 寂しそうに言う太乙に、『とんでもない！』と、玉鼎は言った。 『この刺青が……薄くなる前に……』 言いながらも、今まで毎日のように会って寝ていた事から考えると、とても長い時な気がする。 『薄くなる前に、必ず“さらい”ます』 刺青は何時かは薄くなるものだから、定期的にその上から同じように刺さねばならない。その事を玉鼎は言っている。 それを聞くと、太乙はくすくすと笑った。 『同じ方法で？』 いたずらっぽく聞かれて、玉鼎は彼らしくなく、言葉に詰まった。 『貴方が……望むなら』 本当は、玉鼎がしたいんじゃないかという考えが頭を掠めたが、その事は口に出さずにいた。 『……考えとくよ』 どうせ、弟子を取ったら、その事しか頭になくなるのに……と、思いはしたが。 「玉鼎は……すっかり、いいパパだねぇ」 珍しく、赤精子と自分の洞府で茶を飲んでいた太乙は、ボソリとそんな事を言った。 「ああ。随分自慢の弟子らしいな」 相変わらず、目の前の麗人は綺麗だと思いながらも、赤精子はそわそわしていた。 「なんか…さ、ヒマだよねぇ。ねぇ……赤精子｣ 思いついたように、太乙は目の前の侍ゼンとした、凛々しい彼を見る。 「な、なんだ？太乙……」 「私と……しない？」 赤精子は一瞬思考が止まり、目をしばたたかせる。 「……そ、そんなコトしたら……玉鼎に殺されちまう｣ 別に、彼より力が劣っているとは思わないが、怒り狂った彼に、勝つとは思えない。 「……大丈夫だよ。彼は……｣ そこで太乙は、少しばかり遠くを見る。そして、思い人に恨みをぶつけるように、口を開く。 「可愛い弟子に……かかりっきりで、私が何をしようと……」 「そんな事はないぞっ」 太乙にみなまで言わせず、赤精子は勢い込んだ。 「……何の為に…俺がここに…来たと思っている？｣ 「……そ…それって｣ 「まったく。お前らにも困ったもんだ。言いたい事があるなら、直接言う癖をつけろ｣ 何の事はない。彼は玉鼎に頼まれて、太乙の様子を見に来たのだ。“今度会いたい”と言う伝言も、携えて。 「……ごめん」 「……まったく」 考えれば、自分が太乙とどういう仲になろうが、黙っていればいいのだが。 赤精子は、自分自身にため息を付く。 「赤精子ってさぁ……」 そんな彼に追い討ちをかけるように、太乙が口を開いた。 「……面倒見……いいよねぇ」 「……フン。乗りかかった舟だからな｣ 「……ありがとう」 そう言って、太乙は彼の頬に、軽いキスをしたのだった。
『残酷な楽園４』後半に続く |