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―izayoi― 【１】 PART 1 ＊＊＊ ピシリ……と、鞭の音が、部屋に響いた。 それと同時に、紡ぎ出されるうめき声は、この崑崙では最高幹部とされる、十二仙は太乙真人のもの。そしてその行為は、同じ十二仙の玉鼎真人の部屋で、行われていた。 そこは先程玉鼎が、熱い蝋を落した場所で、その熱でうっすらと赤くなった肌の上に、玉鼎の鞭が振り落とされていた。 「あ…あひ……ああ」 それでも、悲鳴とも、嬌声ともつかない声を上げ続ける太乙は、痛いとか、止めてくれとか言う言葉は発しない。 「あ……あふ、玉…て」 「……」 玉鼎は無表情に、そして力なさげにその腕を振り下ろす。もっとも、玉鼎が力任せになど鞭を振るったら、太乙などは、すぐ気を失ってしまっただろうが。 事が終わって、玉鼎は太乙を縛めていたロープを解きながら、心配そうに訊く。そして、ヨロヨロと立ちあがり歩き出そうとした太乙に、手を差し伸べた。 「……いいよ」 その手を拒み、太乙は脱ぎ散らかした服に手を伸ばす。 「太乙。せめて……身体くらい、綺麗にしていけ｣ やはりおぼつかない動作で服を着込む太乙に、玉鼎は言う。 だが太乙は、玉鼎のそんな申し出を聞くと、笑った。 「いいよ。こんな傷で……お湯なんか浴びたら、痛いだけだよ｣ 最低限の服を着込むと、太乙はドアに手を伸ばす。 「だが、何もこんな夜中に……出て行く事はなかろう。少しくらい…休んでから｣ 「いいんだよ。コトが済めば、もう……いいでしょ？｣ 「……太乙」 「やめてよ。そんな優しい言葉は……やめて｣ 玉鼎の腕を拒み、太乙は玄関を出て行った。 一瞬、足を踏み出した太乙の秘部から、玉鼎のものがトロリと流れ、顔をしかめたが、すぐに気にせず歩き出した。 そんな彼を、玉鼎は無言で見送った。 何度か、十二仙会議で会うようになり、お互いが気になった。 どちらかともなく、声をかけ、互いの洞府を行き来するようになった。 基本的に、仙人と言うものは、あまり他人と交流がない。そしてそんな中、親密になった二人が、恋人の関係になるのに、それ程時間はかからなかった。もっともそれは、仙人の時間感覚で……だが。 初めの内は、ノーマルだった。 普通の恋人のように、ベッドを共にし、朝まで同じ布団の中で、互いを抱きしめ、あまつさえ、夜明けの“お茶”まで飲むような、仲だったのだ。 そうして幸せに、数十年が過ぎた。 だがある日、突如太乙が別れ話を切り出したのだ。 「何故だ？！」 律儀で真面目な玉鼎は、当然のように、太乙に詰め寄る。 「私に何か……悪い所があるのか？それとも……他に好きな奴が出来たのか？」 「…そんなんじゃない」 少し面倒臭そうに言う太乙に、玉鼎は常になく、きつく抱きしめ、いやがる彼を押さえ付けた。 「私の……何がいけないと言うのだ？そうでないと言うなら、納得する答えが欲しい｣ 言いながら玉鼎が加える愛撫に、太乙は何時も以上に喘ぎ、許してと喚く。 これ程に、自分と身体の相性もいいと言うのに。玉鼎は苦悩した。 「それとも、私が過干渉か？私は……随分とお前の我侭を聞いて来たつもりだ。それとも……｣ 「そ…そうじゃ…ないんだ。あっ…ああ、もう…｣ 途切れ途切れの息の下から、太乙は玉鼎の浴びせるような言葉に、答える。 「ちがう……君は…とっても……あ、ああ……いいっ」 その後はいつものように、太乙は玉鼎の手管に溺れた。 「私は……」 一旦、達した後、荒い息の下から、太乙は先程の話を続けた。 「君が思っているほど……綺麗でも、清廉でも…ないんだよ」 「……そんな事は…」 そんな事は、このような関係になったときから、わかっている事だ。自分は、そんなモノを、太乙に求めた覚えはない。 「私は…すごく……淫乱なんだよ」 「……？」 それでも、普段の彼から想像できない言葉を聞いて、玉鼎は少なからずうろたえる。 「こんなんじゃぁ……満足できない」 「……た…」 「ねえ…」 そのなまめかしい言い様と共に、太乙は玉鼎の顔を覗き込み、その瞳を見つめる。太乙の瞳の奥に、妖艶な色を読み取って、玉鼎はたじろいだ。 「私を…縛って。……縛って、犯して……私が痛いと泣き叫んでも、……容赦しないで｣ 「……な」 「そんな風に……抱いてよ」 「何を言って……」 「そうしてくれたら、別れ話は……なかった事にするよ｣ 玉鼎は、言葉を失った。 彼が、自分に組み敷かれ、あれほどに感じていながら、心の中では、そんな事を考えていたのかと。 「それは……」 「出来ないでしょう？だから……」 だから別れよう……と、太乙は言う。 「ま……まてっ……｣ 自分の腕の中から逃れようとする太乙を、もう一度押さえ付ける。 「本当に……本当にお前は、そんな事を望んでいるのか？」 最後の念押しのように、玉鼎は聞いた。 「……うん。だから……やさしくなんか…しないでよ｣ 「わかった……」 溜息と共に、玉鼎は承知した。 続く
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