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【８】 ＊＊＊ 既に諦めきってうなだれている太乙の目の前に、玉鼎はいくつかの小さな珠を出して見せた。 「先日、お前にもらった宝貝と…同じ物を作って見たのだが、どうかな？」 玉鼎が仙力を込めると、それはふわりと浮き上がった。先日太乙が作ってきた物と違うのは、その珠のそれぞれから、紐が出ている事だった。 「あ……」 その紐を玉鼎は、太乙の身体を這っているベルトや鎖に、一つずつ付けていく。その玉が、丁度太乙の敏感な部分に、当たる様にした。 「……や…」 珠が当たると、冷たい金属の感触が、太乙に声を上げさせた。縛られている太乙は、それでも逃れ様と、身をよじる。それにこれから玉鼎がしようとしている事の予想も付くので、その事に対しても、太乙は怯えていた。 「……動かすぞ」 太乙の想像した通り、玉鼎は仙力で、その珠を小刻みに震わせた。 太乙の、胸で踊るそれは、的確に太乙の敏感な赤い実を、刺激した。背中に付けられた物は、まるで背筋を撫で上げるように動き、それ以外にも、脇腹や太腿や、太乙自身の上で、彼が一番感じる様に、動く。 「あ……ああ、いや……玉鼎…あふ、きゃ……ふ…ああ｣ 「太乙……」 太乙のその様子を、玉鼎は冷たい目で見る。それでも、それはとても楽しそうだった。 「言って見ろ。欲しい……と。やらぬでも…ないぞ｣ よがり続ける太乙の唇を撫で、玉鼎は言う。 「な…なんで……」 「言っただろう？お前は……私のおもちゃになれ…と。その契約は、まだ破棄されていないはずだ｣ 「だって、もう…私は……君の言う事など…聞か…ないと……｣ 苦しい息の中から、太乙は切れ切れに言う。 「お前が、私に刃を向けた事へのあがないは、済んでいないはずだ。そのくせ、お前は私を、満足さえさせられなかったではないか。それとも、公主にでも言うか？自分は、こんな酷い事をされました……とでも｣ 「それは……。もう、公主に言っても、意味がないじゃないか｣ 「そんな事はなかろう。少なくとも公主は、お前の事を大切に思っている。それとも、まだ……足らないか？」 「ああーー！」 いきなり、玉鼎が太乙の勃ち上がったモノを掴んだ。その刺激に、太乙が悲鳴を上げる。それを無視して、玉鼎は余っていた皮紐で、そこを縛り上げてしまった。 「いや、許して……もう……止め……ああ｣ 太乙の言葉は、既に意味をなしていなかった。目に涙を浮かべ、玉鼎に懇願する。 「どうした？まだか？言って見ろ……欲しい…と。それとも、まだ、私を憎むには、足りないか？あの時は、殺したい程、憎んでいたというのに｣ 言いながら、玉鼎は指を太乙の秘部に這わせる。そこは既に濡れそぼっていた。 「相変わらず……淫乱だな」 「……あ…ん、ちが…う」 「きっちり…私の指を締め付けておいて…良く言う｣ その指を引き抜き、濡れた指をわざと見せ付けた。 「ああー。駄目……だめ…だよ。そ……うじゃ…なく、……本当は……貴方は……」 意識をさらわれそうになりながらも、太乙は竜吉の言葉を思い出していた。 「貴方には……本当に…好きな人が……いるんでしょう？だったら、なんで、その人とではなく……私に……こんな事を。私なんかじゃなく……貴方の、本当に好きな…人…を、…ああ｣ 最後の方は、ほとんど意識などなく、太乙は喘ぎながら言う。 「……なぜ、そんな事を？私に……本当に…好きな者など……」 太乙の言葉に虚を付かれた玉鼎は、太乙に付けた宝貝を、動かすのを止めてしまった。 ゆっくりと失速する珠に、それでも感じながら、太乙は言葉を続ける。 「だって……竜吉が…そう言っていたもの。そんなに……叶わない恋な…の？だから、私なんかを、弄んで……｣ 「違う。そんな……」 今まで、冷たかった表情の玉鼎が、ベッドに片膝をつき、次の瞬間、太乙を抱きしめた。 「違う。私は……」 「玉鼎？」 時々切なそうな表情を見せる玉鼎に、太乙は不思議な感じを抱いていた。確かにこんな時の彼は、竜吉の言う通りの仙人だと思う。だから今なら、きちんと話し合っても、良いのではないかと思った。 「ねえ、解いてよ……そして、貴方の本心が…聞きたいんだ」 言われるまでもなく、玉鼎は既に、太乙を縛めていたモノを、取り去り始めていた。 「済まなかった。もう……お前には、会うつもりなど、なかったのに｣ 「……玉鼎」 まだ、少し息の整わない太乙を、玉鼎はやさしく抱きしめた。 「本当は、公主に言われた。だから、もうお前には、二度と会わないつもりだったのだ。お前には……本当に…済まない事をした｣ 「……そう、思ってくれているなら、教えてよ。一体……どういうつもりだったの？貴方の本当に、好きな人って、誰？｣ 「……訊いて…どうする」 「……だって｣ 「もう、帰れ。それから……その鍵は……とっくに開いている｣ 「えっ？」 玉鼎は、太乙の胸に鎖についていた南京錠を引っ張った。少しきつそうに、だがＵ字部分の金具は、簡単に引っ張られ、太乙があれほど苦心した鎖は、彼の身体から、あっさりとはずれた。 「開けて、緩むタイプの鍵では、なかったからな。少しキツイが、こうやって手で引っ張れば、開いたのに｣ 「なんで……本当は、鍵…開けてくれてたの？」 「……ああ」 「あの」 「太乙」 破いてしまった服の代わりに、玉鼎は自分のローブを太乙に着せる。 「もう……帰れ。これで、私に用事はないだろう？｣ 「まって。まだ、さっきの答えを……聞いていないよ｣ 「いい。どうせ……お前は信じない｣ 「そんな事ないよ。それに、本当に君がその人を好きだと言うなら、出来るだけの事は、協力するから」 「……無理だ。お前に…してもらえる事など…ないから」 心配そうな目で、自分を見つめる太乙を、玉鼎はとても嬉しく思った。最後に、こんな風に自分を見てくれる彼を、手に入れたと言うのに。 「……玉鼎」 「……じゃあ、一つだけ。最後に一つだけ、お前に頼み事をしてもいいか？｣ 「……うん」 「すまぬな｣ 言うと玉鼎は、太乙の頬に、手を添えた。 そして、太乙が戸惑っている間に、玉鼎の唇が、自分のそれに、重ねられた。 「ぎょ……」 あまりにも優しい口付けに、太乙は彼の顔を、じっと見つめた。 「この間は……噛まれたからな｣ 「あの……」 「もう良いだろう。だから……答えを教えてやろう。私が……本当に好きなのは、お前だよ｣ 太乙は、玉鼎の言葉を、一瞬理解できなかった。 やっと出たのは、そんな言葉だった。それとて、太乙の本心と言うより、反射的に出た言葉だった。 「……ほら。お前は信じないだろう。だから、私の思いは、成就しないのだよ｣ 「……玉鼎」 自分の言ってしまった言葉に、申し訳ないと言う表情をし、太乙は玉鼎に声をかけたが、彼の表情は変わらなかった。 「帰れ。そして、私の事など、忘れろ。もう二度と、お前の前には……姿を現さないから｣ 言って、玉鼎は太乙に背を向けた。 言葉と共に、太乙が玉鼎の片腕に、しがみついていた。 「一方的に、そんな事言って、逃げるなんて……卑怯だよ。だって、私たちは、ううん、私は、君の事を、何も知らなかったんだから｣ 「太乙……」 「最初に……壊してしまったのは、私なんだから。でも……｣ 太乙は、玉鼎を見上げた。それは、今までのような、憎しみや恐れのこもった瞳ではなく、玉鼎が望んだものだった。 「もう一度、作っていけるよ」 それでも、太乙の言葉に、眉を寄せ、玉鼎は苦しそうに答える。 「……お前は…許せると言うのか？この私を。あれほどに……酷い事をした……私を｣ 「だって、それは……」 太乙は、今までの事を考えた。 そして、今なら納得する。確かに、玉鼎が自分を好きだと言うなら、太乙のした事に、玉鼎が絶望的な気持ちになって、自暴自棄になったのも、わかる気がした。 「……本当だね。公主の言う通りだ。貴方の言葉をきちんと聞かなかった、私も……｣ 「……そんな事はない。お前に本当の事を言わなかったのは、私だ｣ こうやって話せば、玉鼎はなんと礼儀正しい、思っていた通りの仙人だった。 「だから……きちんと……教えて。君の気持ちを……｣ 「……そうだな」 玉鼎は、優しく太乙を抱きしめた。 そうやって、余韻を確かめた後。太乙がそっと離れる。 「……あのね。本当は……思っていた事があるんだ｣ 太乙は、恥ずかしそうに下を向いた。 「貴方に…抱かれるのは、イヤじゃない。むしろ……｣ その先の言葉は、玉鼎には聞こえなかった。だが、言いたい事は、良くわかった。 「……よかった。お前に触れたら……抱きしめたら、嫌われると思っていた｣ もう一度彼を抱きしめ、太乙の肩に、顔を埋めながら、玉鼎は掠れた声で言った。 「……何で？」 「さあ。何故かな。本当に……遠くから、見ているだけで……いいと思っていた｣ 「……そうだね。あの頃の私なら……拒んでしまったかもしれないけど……｣ 太乙が顔を上げ、自分から玉鼎に、軽いキスをして見せた。 「……た…」 びっくりした玉鼎が、絶句したまま固まる。 「……だから、こんな風に考える事が出来て、少しだけ……感謝してるんだ｣ 「……少しだけ？」 「…うん」 そして二人は、穏やかに笑いあった。 そして、もう一度太乙が玉鼎を見上げ、言う。 「…太乙」 「この間のように、優しくして。そうしたら……｣ 「……良いのか？」 そのくせ、玉鼎はと言えば、太乙の耳に、囁くように言う。それが、太乙には、この上ない刺激だった。 「だ……だって、さっき……あ、あんな所で……放り出されたんだよ」 「……」 「あ、そ、そんな……｣ 太乙は、流石に自分を見つめる玉鼎の視線に、恥らった。 「いや。嬉しいよ。太乙……｣ そして玉鼎は、太乙をもう一度そのベッドの押し倒した。 玉鼎から受ける口付けは、熱い火の様だった。 太乙の項から、首筋、鎖骨と、優しく唇を滑らす。 「まだ……残っているな｣ 以前、自分が付けた傷が、まだ治りきらず、うっすらと紅い筋を残していた。玉鼎はそれに口付け、舐める。 「玉…て…い」 甘い声で呼びかけ、太乙が手を伸ばす。それを、玉鼎は自分の背に回させた。 「あ……でも、爪…立てちゃう…かも」 「構わぬ。私が付けた傷の事を思えば……それに、爪を立てるほど気持ち良くなるなら……｣ 口付ける。 「うれしいよ」 「……」 赤くなる太乙に、更なる愛撫をし、玉鼎の手は、先ほど濡れていた、太乙の秘部に触れる。 「……あっ」 優しく慣らすように、指を入れ、内部を掻き回す。自分のものを入れても、太乙が痛がらない様に。 「玉鼎……あの」 「いいな。入れるぞ」 「……うん。…あっ、ああーーー｣ 今度は玉鼎が言わなくても、太乙は力を抜き、彼を受け入れようとする。それでも太乙の中はきつく、玉鼎は少しずつ己を埋めていった。 「太乙……」 自身をすっかり入れてしまっても、玉鼎は動こうとせず、太乙の名を呼び、愛撫を繰り返す。 「あの……」 涙の浮かんだ目を、うっすらと開け、太乙は玉鼎を見上げた。 「お前には、きちんと感じて欲しいのだ。だから、慣れるまで……｣ 「あ……でも」 太乙の内部は、どんどん熱くなってきて、まだ動いていないというのに、溶ける様で、知らず知らずのうちに、玉鼎を締め付ける。 「……それとも、もう、良いのか？」 少しばかり、以前の冷たい表情を見せながらも、玉鼎の目は優しかった。 「うん。動いて……あ、ああ、いい……ああっ｣ 玉鼎が動き始めると、太乙の口から、押さえきれない声がこぼれた。 「お前は…ここが……感じるのだったな」 以前探り当てた、太乙の感じる部分を、玉鼎は攻め立てる。 「ああ…ーーあっ、い、いいっ…だめぇー溶けちゃ…うー｣ 太乙の嬌声が意味をなさなくなるのに、時間はかからなかった。 「太…乙……愛して…いる｣ 玉鼎の方も、余裕がなくなり、己の欲望に身を任せる。 「ああ……」 いつしか、二人の声が、溶け合った。 次の日。 一緒に自分の所を訪れた太乙と玉鼎を、竜吉公主は交互に見比べながら、呆れたような声を出す。 実際、事ここに至って、あれほど心配してくれた公主に、報告しておくべきだろうと、どちらが言い出したのかは、忘れた。 それでも二人は律儀に、揃って公主の洞府を、訪れたのだった。 「その……公主には、心配をかけたけど……｣ 「……」 二人はこうして和解して、更にすっかり仲睦まじくなってしまった事を、一通り話した。 初めは、揃って現われた二人に、驚いていた公主も、話を聞いていくうちに、表情が剣を含んでくる。 「竜吉。あの……」 「もう良い｣ 「あ、あの、竜吉？」 「まったく。折角色々策を考えていたというのに。台無しではないかっ｣ そんな月下氷人のような（相手が相手な上、多分に策士的だが）事を、画策していた公主もなんだかと思わなくもなかったが、二人は怖くて、突っ込む様な真似は、しなかった。 「あの……」 まだブツブツ言う彼女に、こわごわと声をかける。 「このツケは、高くつくぞ」 「は、はい！」 あまりの剣幕に、二人は声をそろえて、返事をしたのだった。 ＥＮＤ
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