|
なのに……。 「太乙……」 「あっ、いや……だから、燃燈師叔の気持ちはうれしいんだけど……あ、すごく気持ちよかったし……」 次の日。定刻通りに燃燈の洞府を訪れた太乙は、挨拶もそこそこに、昨日の事について、弁明しようとした。 だが、口を開けば開くほど、言いたかった事とは、どんどんかけ離れていく気がする。 「太乙……」 「だから……」 最後の方は、涙声になってしまった。 どうかしている。ただ、これまで通りの仲でいてと、言うだけなのに。 「太乙」 「ごめんなさい。こっ、こんなつもりじゃ……」 「……太乙」 伏せてしまった太乙の顔を、燃燈は両手で挟み込み、自分の方に向ける。 「あ……」 「太乙は、泣き虫だなぁ」 「ご、ごめんなさい……えっ？」 いきなり燃燈が、太乙の涙をその口で吸ったので、太乙は今まで以上に、びっくりしてしまった。 「私が、悪かった。きちんと……手順を踏むべきだったな」 「あ、あの？燃燈は、悪くは……」 「太乙。愛している」 「えっ、えぇ。それって……」 あまりの展開に、太乙の思考はストップしてしまった。先程まで流れていた涙も、止まってしまったくらいだ。 「もちろん、そう言う意味でだ」 「……」 そして、そこに畳み掛けるように、燃燈は“愛の告白”を続ける。 「本当は、もっと待とうと思っていたのだが。このままはぐらかしては、お前は誤解したままだろう？」 「でも……」 「太乙……私が、嘘をついた事があるか？」 いつも通りの真摯な瞳で、燃燈は太乙を見つめる。 「……ない」 そう。一度だって。燃燈が自分に嘘をついた事はないのだ。 だからこそ、太乙は、彼が好きなのだから。 「お前は……私の事を……どう」 「好き！大好き！誰よりも……！」 すごい勢いで、こちらは今一つ……ムードもなく、太乙は自分の気持ちを伝えた。そして、言ってしまってから、またもや、顔を赤くする。 「本当は……お前は、私の事を……ただの“兄”みたいなつもりで、そう言ってくれているのかもしれないが……」 確かに、そう言われると、太乙もちょっとばかり自信がない。 「だが私は、それ以上のモノだと……思っているのだぞ」 「……」 太乙は、そんな彼の言葉を、うれしい思いでかみしめた。 「だから……お前が欲しいと言っても……驚かないでくれるか？」 「燃燈師叔」 太乙は、驚きはしないが、はっきり言って、戸惑っていた。なにしろ“欲しい”と言う意味が、現実感を伴ってこないのだ。 「それでも……おまえが嫌だと言うなら、私は強要はしない」 「それは……」 そんなことを言われると、太乙は悲しくなってしまう。実感が湧かないにせよ、この憧れの師叔と、特別な関係になれるというくらいは、解る。だから、ここで拒めば、彼が二度と自分に触れないのではないかと言う事の方が、怖かった。 「いい……。燃燈なら、いいよ」 すでに、燃燈の手は自分の顔から離れていたが、太乙はまっすぐ彼を見つめていた。 「ちょっとは、怖いけど……信じる」 「……解った」 そう言って、燃燈は“ふわり”と笑った。 それを見た太乙は、ドキリとした。それは、彼が異母姉である竜吉公主にのみ、向ける笑みだったから。 手に入れたかったモノが、今は、自分の為だけに、向けられている。もうそれで、十分だと思った。 「あ、あの、でも……私……初めてだから……その」 燃燈に導かれるままに、彼の寝室に入った太乙は、『そういえば……』と前置きして、言い訳がましい台詞を言う。 「解っている。私の言う通りにすればいい」 燃燈は太乙に軽いキスをする。今度は、昨日みたいな戯れではなく、はっきりと意志を持った、口付け。 そして、その唇を、ゆっくり頬に滑らせ、耳たぶに口付ける。 「リラックスして。感じるままに……声を出していいから……」 そして、今度はゆっくりと、首筋を降りた。 そう言われても、太乙が感じるのは……。 「あっ、やん。くすぐったいよ、燃燈……」 「我慢しろ。そのうち、気持ち良くなる」 唇に触れられた一瞬は、すごくドキドキしたのに、太乙はなんか良くわからなくなっていた。もちろん、それが自分が何も知らな過ぎるからだとは、思うわけもないが。 そんな太乙の戸惑いをよそに、燃燈の左手は、器用に彼の服を脱がしていく。 太乙の上着をはだけさせ、更にズボンを脱がせ始めた。 「……ちょっ……」 「脱がなければ、出来なかろう？」 「そ……そりゃあ、そうだけど」 言いながらも実は、太乙はこの先何が起こるか、良くわかってない。 燃燈と言えば、太乙がくすぐったがっていた所を、何度もやさしく愛撫する。初めは笑っていた太乙が、その感触に、うっとりとなるまで。 「お前の肌は、本当に綺麗だな」 唇で、指で、太乙の肌を辿りながら、燃燈は言う。 太乙の方は、さっきはくすぐったかった感触が、燃燈の柔らかい唇のと、そこから漏れる、甘く熱い吐息とで、今は切ない心地よさに、変わっている。更に、太乙の服はすっかり脱がされていて、上半身を露にした燃燈の肌が時折触れる。その感触も良かった。 「こんな、私の無骨な指で……触っていいかと……思うほどに……な」 「そっ、そんな。燃燈師叔の指は、綺麗だよ！」 思いもかけない燃燈の言葉に、太乙はそう言う。 「太乙……？」 「指だけじゃなくて、身体も綺麗で……それに比べて、私はなんか……細くて貧弱で。本当に……ずっと憧れてたんだ……」 太乙は、自分の頬を撫でていた、燃燈の指を絡め取り、しげしげと眺めていた。 「この手も……大好き」 すると、いたずらっぽく笑い、燃燈の人差し指を、ぱくりと咥えた。 それは、愛撫などと言うようなモノではなく、軽く指先を舐めると、満足したようにあっさりと離す。 「一度ね。やって見たかったんだ」 へへっと笑う太乙の手を、今度は燃燈が取った。 「まったく。悪い子だ」 そう言った燃燈の目は、笑ったままだったので、太乙も、再度笑顔を見せる。 燃燈は、太乙の手を取り、自分の口へ運ぶ。 「燃燈？」 そして、先程の太乙とは逆に、意志を持って、その指を舌の先で愛撫する。 「あ……」 口から出しても、そのまま指を辿り、太乙の指の付け根まで、唇を滑らす。 そして、手の甲を辿り、手首を甘く噛み、また指へ戻った。 「燃燈……あ……」 「気持ちいいか？」 上目遣いで、太乙を見つめる。 「あ……あの」 少し頬を染めた太乙に、今度は長めのキスをする。 「少し……口をあけてご覧」 ベッドの上で、二人は座たまま、向かい合っていた。そして太乙は、燃燈の言われるままに、小さく口をあける。 燃燈は太乙に口付けし、そのまま彼を押し倒す。 「ん……んっ」 燃燈は、太乙の唇をその舌でこじ開け、更に、太乙の中に入れた。 「んっー！ん」 あまりの事に、自分を押し返そうとする太乙の手を、燃燈はおさえ、あやすようにその指を絡ませる。 「はっ……ん」 自分の舌に絡まる燃燈のそれに、太乙はどう対処していいか解らず、ただされるがままだった。そしてやっと、燃燈から開放された唇からは、自分でも恥ずかしくなるほどの、声が漏れた。 「もっと、色々な事を、教えてあげよう」 そう言って燃燈は、再度太乙の鎖骨を愛撫し、そのまま彼の胸の赤い実を、咥える。 「えっ？ちょ……ちょと。あはははは！」 ついぞ触られた事のない場所に、刺激を加えられ、あまりのくすぐったさに、太乙は笑い出す。 「もう！さっきから。くすぐったいってば……」 今までの感覚を忘れ、太乙は身をくねらせる。 「知っているか？太乙。くすぐったい場所は……本当は……」 言いながら、燃燈はやさしく、唇と、舌をその上に滑らした。 「気持ちいい……場所なんだよ」 「えっ……？あっ」 とくん……と、心臓が脈打つ。 「あっ……やぁ……。あんっっ。ねっ、ねん……と…う」 今度は、先程の切ない感じとは比べ物にならないほどの、本当に“感じる”というのが、こういう事だとわかる感覚が、太乙の身体を走り抜けた。 そして自分の口から、今までに出した事もないような声が、しかも、自分の意志とは関係なく紡ぎ出される。 その声を聞くと、燃燈は、満足した笑みを浮かべ、もう片方の胸も、指の先でいじり始めた。 太乙の方はと言えば、とても恥ずかしく、さりとてどうしていいか解らずに、その手がきつく、シーツを握り締める。 燃燈はそのまま、太乙の身体のあちこちに、愛撫の手を加える。 「こっちも……欲しいだろう？」 燃燈は、太乙自身に指を滑らせ、やんわりと握る。 「……あっ」 「初めて……だろう？」 燃燈の唇は、すでに下に降り、脚の付根辺りを、軽くさまよう。 「あ……あッ」 そして、太乙の先端を軽く咥え、先程彼の指を愛撫したように、そこに、唇と舌を、滑らせた。 「あーーあっ、あ……あっー！」 あっけなく、太乙が達してしまう。 「ごっ、ごめんなさいっ」 「いい。当然だ」 笑いながら、燃燈は、太乙の出したモノを、ぺろぺろと舐めて、綺麗にする。 「燃燈！それ……！」 「気持ち良かっただろ？」 意地悪く燃燈が聞くと、太乙も赤くなりながら、 「……うん」 と答えた。 「今度は……一緒に気持ち良くなろう」 「……？」 言うと、燃燈はまた先程のように、太乙の息を乱れさせた。 「ほら。もう……また、こんなだ」 「あ……。いや……ぁ」 先程、いったばかりの太乙のモノに、燃燈は、指を滑らす。 「こっちは……どうかな」 そして太乙の秘部にも、指を伸ばす。 「……まあ、初めてだからな」 「え……？」 「少し待ってなさい」 「あ……。う…うん」 太乙は、自分の呼吸を整えるのがやっとで、燃燈が何をしに行ったたかなど、考える余裕などなかった。 燃燈は、奥から持ってきた小皿に食用の油を入れ、更にそこに、甘い花の香油を、一、二滴、混ぜた。 「いい香り……」 燃燈が混ぜたのは、薔薇の香りのオイルだった。 少し、息の整った太乙は、その香りにうっとりとなる。 「何……を、するの？」 「……私を、信じて。少しは……我慢するんだよ」 「え……。うん」 燃燈は、太乙の身体をうつぶせにさせ、オイルに浸した指を、太乙の秘部に這わせた。 「あ……」 何をされるか理解した太乙は、一瞬で顔が耳まで赤くなり、無意識のうちに、力が入る。 「太乙。力を抜いて……」 何度も燃燈の指が、そこを慣らすために出入りし、ゆっくりと掻きまわす。 「あっ、燃燈、あっ……！」 空いた手で、太乙の腰を、上げさせる。 「この方が、きつくないぞ」 「で……でも……」 太乙は、今自分がしている格好を想像して、いやいやと言うように、首を振った。 「太乙……」 指は休めず、燃燈は、太乙の背中に、腰に、唇であやすように、愛撫を加える。太乙は、常にないところに指を入れられる痛さよりも、恥ずかしさの方が勝っていた。そして…… 「あっ。あ……、ね……燃……と…あっ」 「……良くなって、来たようだな」 そう。さっきので、十分に“感じる”感覚は、教え込んであった。後は、太乙がその感覚を、蘇らすまで、待てば良かった。 「太乙」 「う……うん」 十分潤ったところで、燃燈は自分自身を、太乙の秘部にあてがった。 「あ……、ね……ん……痛っーあー」 「太乙。力を、抜……いて」 案の定、太乙は痛がる。ここで、止める事は簡単だったが、そんな事をすれば、せっかく決心した太乙に、悪い。 「太乙……」 彼の名を呼びながら、うなじに何度もキスをする。 そして、すっかり燃燈のモノを収めてしまうと、太乙は苦しさのあまり、涙ぐんでいた。 燃燈は、太乙の髪を撫で、先程以上に、キスの雨を降らした。 「もうそろそろ、いいか？」 「あっ、そ……そんな……」 太乙が、あまり閉めつけてこないのを見計らって、燃燈は自身を動かし始める。 「あっ……いや……！あー」 初めは痛がっていただけの太乙の声に、もっと別の、艶っぽいあえぎが混じり始めた。その頃には燃燈も、押さえがきかなくなり、太乙を気遣っている余裕がなくなっていた。 「あっ……ん、んあぁー。い……いい」 「太乙！」 意味の成さない言葉と、苦しそうなあえぎ声を太乙があげ、それにつられるように、燃燈も自身を解放した。 「太乙……」 太乙を仰向かせると、放心した表情で、目の焦点が定まっていない。 「すまなかった」 言いながら、彼の涙を舐め取り、やさしく口付けをする。 「ね……」 「大丈夫か？」 気が付いて、自分の名を呼ぼうとする太乙が、燃燈は心から可愛いと思った。 「……う…ん」 再度、やさしく口付けをする。 「あのさ……」 「ん？」 「今日……サボっちゃったね」 もうすでに日は傾き、何時もなら、太乙が自分の洞府に帰る時間だった。 「明日は……朝から、すればいい」 「え……？」 「だから、今日はこのまま……泊まっていきなさい」 燃燈が、少し恥ずかしそうに、言う。 「燃燈ってさ……案外……」 今度は、太乙が彼にキスを返しながら、言った。 「……甘いんだ」 「お前にだけはな……」 更に重ねた言葉も、太乙の言葉を肯定するだけだった。 とりあえず……終われっ。（恥ずかしいらしい） |