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【４】 part 2 「太乙、お腹、空かないか？｣ ひとしきり、自分にじゃれていた太乙が、落ち着いたのを見ると、玉鼎は持ってきた桃を、差し出した。 「わー。ありがとう｣ 言われてみれば、お腹が空いていた太乙は、うれしそうに、玉鼎から桃を受け取り、口に運んだ。 「玉鼎は……？｣ 「あ、ああ。私も……」 そう言う玉鼎も、太乙に並んで座り、食べ始めた。 「あのさあ……ここって、玉鼎と、燃燈の二人っきりなんでしょ？」 太乙は、自分が存外お腹が空いていたことに気が付いた。玉鼎から二つ目を受け取り、食べながら、気になっていたことを、聞いた。 「…そうだが｣ 玉鼎は、不思議そうな顔をして、太乙を見た。 「ねえ、燃燈も…一緒に…帰れないの？｣ 「それは、駄目だ｣ 「じゃあ、私達がいなくなったら、燃燈は……一人？｣ 「そ…それは……まあ…｣ 「燃燈は、ずっと一人っきりだったんだよね？君がここに来るまで…｣ ここ。この神界…。太乙は、ここの存在意義を、判っているのだろうか？ 「なんか…｣ 太乙は、なんとなく、燃燈に同情し始めていた。 考えるに、燃燈は、崑崙で言われていたように、原始天尊に反発して、あんな事をしたのではないのではないか。玉鼎もそうだ。彼が『帰れる』と言った事が、何よりの証拠な気がする。その鍵は、この場所なのだが、途中で気絶させられ、いきなりここに連れてこられた太乙には、未だ憶測の域を出なかった。太乙はまだ、封神計画の一部でさえ、知らされてはいなかったからだ。 「あ、あの、ここで何をしているのか…解らないけど…よ、良かったら私……手伝える事があれば……」 「太乙……」 「ほら、そうすれば、もしかしたら燃燈も一緒に…帰れるかも知れないし。原始天尊様には、私たちで頼み込んだら…きっと…」 「…それは…無理だ」 「玉鼎…どうして」 「済まない、太乙。その…理由も言えぬ程に……それは…無理な話だ」 「……どうして？」 再度の疑問に、玉鼎は黙ったまま太乙を見つめていた。 「こんないい訳で、納得しないのは解っている。しかし、『お前の為』としか、言えないのだ……」 玉鼎は、先程燃燈が繰り返した言葉を、また言うしかなかった。 「済まない……」 その、心からの声を聞くと、太乙も黙ってしまった。 「必ず、お前の悪いようにはしない。だから……もう何も聞かないでくれ……」 太乙は、こくりと頷いた。そして玉鼎は、また彼を抱きしめる。 太乙を抱きしめていると、伸ばしすぎた彼の髪が、玉鼎の手の中でさらさらと流れた。 「そうだ…私、玉鼎に頼みたい事があったんだー」 「…なんだ？」 「あのね…」 そう言うと、太乙は自分の髪を一房指で摘む。 「髪…伸びすぎちゃってさー。自分じゃ上手く切れないんだよー」 「…確かに…長いな」 さっき、太乙のこの髪を見ながら思った事が、当たっていた事に、玉鼎は一瞬頬を緩ませた。 「私……この髪を玉鼎に切ってもらおうと思って…崑崙を飛び出してきたんだー…」 「太乙……」 玉鼎の声は、とても優しく、かつ嬉しそうだったので、太乙は期待した表情で、彼を見上げた。しかし、玉鼎の表情は、相変わらず困ったような、悲しげなものだった。 「玉鼎…？」 切ってやりたいのは山々だ。だが、太乙が自分と会う、あの直前にまで（下手をするとそれ以前に）彼の記憶を戻さなければならない。だから、服だってそのまま返さねばならない為に気を遣ったし、髪を切るなど、もっての外だった。例え情に負けて、太乙の望みを叶えたとしても、燃燈はいい顔をしないであろうし、下手をすれば、太乙が崑崙に帰れなくなってしまう。 「済まない……お前の望みを、何一つ叶える事の出来ない私を…許してくれ」 「玉鼎……」 太乙は、もうそれ以上聞けなかった。理由は、相変わらず教えてはくれない。だが、すべて自分の為と言われたら、太乙にはそれ以上聞く事は出来なかった。 だが……。 「じゃあ、何だったら……どんな事なら、玉鼎はしてくれるの！」 「太乙…」 突然、責めるように言われ、玉鼎は困惑する。それでも、彼の言う事は、もっともだ。 「私は……一生懸命、君を追いかけてきて……それが……」 太乙は、涙声になりつつあった。 「それが……こんな…私は、ただ、貴方に会って、一緒に帰りたかっただけなのに」 「太乙。すまない……」 「玉鼎は、そればっかり！本当なの？私の事愛してるって……あれは…」 「本当だ！」 今度は、太乙の方がびっくりして、黙ってしまった。それ程に、玉鼎の勢いは、すごかった。 「だ、だったら……」 太乙は一呼吸し、もそもそと、言いにくそうに口を開く 「抱いて……」 「た、太乙……？」 「さ、さっきは……その…だから……」 さっきの事は、やはりあまり口に出したくはなかった。あんな風に抱かれた事など、出来れば忘れたい。太乙は、恥ずかしそうに、玉鼎を見上げた。 「それも…駄目なの？」 「太乙……いいのか？」 今度は、逆に玉鼎の方が聞く。 「も、勿論だよ！だって……私達…」 勢いで、すごい事をねだってしまった事に、太乙は今更ながら赤くなる。 「私達は……」 「愛している。太乙」 太乙に、それ以上言わせず、玉鼎は彼を抱きしめた。 続く |