|
再会３
＊
「ふむ、蕎麦か」 歩いていた先にあった茶屋に、入ることになったのだが、置いてあるのは想像通りの物。まあ、まわりに他に店もなさそうなので、ここに入るしかないのだが。 「えー、蕎麦？うどんはないの？」 「ありますよ〜。こちらはうどんも有名ですからね〜〜」 山陽の言葉に、八高が応える。 「同じ小麦粉なら、やはりきしめんだな」 「でも、関東のうどんって、ツユ濃いしな〜」 「ここまで来たんですから、蕎麦食べましょうよ…」 上官二人の言葉に、珍しく武蔵野も意見する。 「こう言う食べ物と思えば、たまにはいいかな〜。でもツユ濃そうだな〜」 「食後のあんみつもうまそうだな」 それぞれ勝手なことを言って、なかなかに五月蝿い。 「良い景色だね〜」 「田舎って事だ」 「お前の所だって、相当田舎よ」 良い景色を見ながら食べたいと、誰が言ったか。一行は茶屋の外に置かれたテーブル席で、相変わらず勝手に話しながら、食べていた。 「…あまりうるさいと、周辺住民から苦情が出る」 新幹線は、騒音対策が、重要だ。山の中を走るのは、当然だった。 蕎麦は食べ慣れないのか、東海道は八高に教えてもらって、そば湯を入れて、ツユを飲んでいた。 「…それでお前、新横浜までは、本気出さないのね」 「当然の処置だ。本気など出さなくとも、後でいくらでも、追いつけるわ」 「でも、速度は、東北の方が上だよね〜」 「いや〜。皆さん早いですよ〜〜」 「あんな、ド田舎新幹線と、一緒にするな」 「どイナカ…」 東海道の言いように、武蔵野はちょっとばかり呆れる。直接、自分の上官ではないから、どうでもいいが、さすが東海道だ。まあ東海道新幹線は、自分が一番というプライドがあるからだろう。 「……それにしても」 まだ、頼んだ山菜蕎麦をつつきながら、武蔵野は溜息を吐く。 「どうしたんだい？武蔵野？」 「本当に…あの二人って…」 東海道と山陽は、土産物を物色しに、向こうに行っていた。 「仲いいよね〜」 「へ？」 自分の言葉を引き継いで言った八高のありえない言葉に、武蔵野は聞き返す。 「あれのどこが、仲いいんだよ？さっきからの会話、聞いてるだろう？大体…東海道上官は、何で来たんだ？」 ただ、付いてきたという山陽上官の話では、武蔵野は納得出来ないでいた。 「案外、君に会いに来たのかもよ〜」 「……冗談」 自分が、ここにいるのは成り行きだ。そんな事はある訳ない。以前会った時だって、『愚鈍路線は要らない』とまで、言われたのだし。
＊
そのまま、もう少しと…また四人は歩き始めた。こんな景色を見慣れている武蔵野としては、もう帰りたかったが。すっかり疲れた武蔵野は、三人の後を遅れて歩く。 「何…だよ」 前を歩く三人を見ながら、武蔵野は、気が付いてしまった。 喧嘩するように、言い合う上官二人と、それをいつものように、のほほんとした調子でかわして間に入る八高と。 八高の『仲がいい』と言う言葉を、素直に受け取れば、何か解った気がした。 「…東海道上官、山陽上官が来たから……付いてきたのか？」 裏を読むでも何でもない。言葉通りに受け取れば、そう言うコトで。が、あの強気で俺様な東海道が、まるでヤキモチを焼くような行動をとるとは、考えつくわけもなく…。 「はは……まさか…ね」 武蔵野は、笑おうとした頬が、引きつるのを感じた。
＊
「悪かったね」「……え？」 今度は、急に隣に山陽が立っていたので、武蔵野はまた驚く羽目になった。 「東海道は…あんなんだけど、本当は、君のこと心配してたんだよ」 「……心配ぃ〜？」 ありえない台詞に、武蔵野は、ついぞんざいな物言いになる。。 「君の所が、色々問題があるようだからさ。まあ、廃止とかにはならないだろうけど…」 実際は、混雑率は埼京線や自分より上なので大丈夫だと、昔Ｊｒが言っていた。それを聞いて、東海道は安心していた。その事までは、山陽は話さなかったが。 「東海道は、もう、誰一人として、消えて欲しくないんだよ」 日本最高益の路線が、そんな事を心配してるとは、思えない。 「第三セクターになるなら、まだ…ね。消えていく路線も、列車も、まだまだ結構多いからさ」 「……大丈夫だと、思いますよ」 「うん、そうだね。…それに、奴、泣き虫だから」 「…泣き……東海道上官がですか？」 「……ん〜。って、この事は、内緒だよ」 山陽は、口に人差し指を当て、ウインクをして見せた。ちょっと、年寄りじみた仕草の気がする。 「……はあ」 内緒もなにも、武蔵野には、にわかには信じがたい話ばかりだ。 「…そろそろ、駅に着くし、いい時間だね」 見れば、自分達は数駅歩いてきたらしい。
＊
「今日は、楽しかったよ。ありがとう…」「いえ、また良かったら、いらして下さい」 「今度は、ウチの方にも来てよ〜。色々案内するよ」 「そうですね、楽しみにしてます」 「え〜〜〜〜」 穏やかに話している山陽と八高の耳に、武蔵野の悲痛な声が聞こえた。 「どうしたの？武蔵野」 「あ、あのさー八高。お前これから東京に…」 「だめだよ〜。僕は、これから高崎に行かないとだからね〜」 「え？どうしたの？」 山陽が『なになに〜』と言いながら、寄ってくる。 「これから東京に、武蔵野と戻ろうと言っただけだが？」 何だ？と言う感じで、東海道が説明する。そりゃあ、もうお役御免にされたかった武蔵野にしてみれば、青天の霹靂だったろう。 「いえ。オレはこれから……」 「だって、夕方には、東京に戻る予定だろ？そろそろ快速の東京行きが来るはずだ」 「いや、２時間近くかかりますから。素直に中央線で帰ったら…」 「じゃあ、一緒に中央線に乗ろう」 「え〜〜」 勝手に『よしっ』と言って、東海道は武蔵野を引きずって行く。 「バーミリオンは嫌だ〜〜」 「お前だって、バーミリオンオレンジだろう！さっさと来るっ」 「おーい、東海道。あんまり在来を苛めるなよ〜」 山陽は笑いながら、その後に付いていく。 「じゃあ…」 そして、ひっそりと手を振る八高に 「また…来るよ」 と言って、振り返ることなく、手を振った。 |
|
脚注 |
と言うわけで、ベースは山陽×東海道でした。
何か、桜井は東海道上官に、夢を見てるようです。
『さよなら０系』の東海道……。