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「お帰り。大丈夫だったか？」 東京の、高速鉄道の部屋に戻った東海道は、山陽の言葉に迎えられた。 「……ああ。東の連中は？」 部屋には、山陽以外居なかった。東海道は、部屋を一渡り見回す。 「秋田は東北と運航中。山形は夕方には帰る。上越と長野は、昼食…」 「……そうか。貴様は…」 不思議そうな表情で、東海道は山陽を見る。 「勿論。東海道ちゃんを待ってたのよ〜」 軽口を叩くくせに、山陽の目は笑っていない。 「で、どうなのよ？」 「…大丈夫だ。問題ない」 「ふーん」 東海道の言葉にも、あからさまに納得をしてない口調で返し、山陽は彼を見つめる。 「でも…良く承知したじゃない？健康診断…」 今日。東海道は朝から健康診断と言うことで、居なかった。それを聞いた東の連中は、不思議そうな顔をしていたが、山陽の説明で納得をした。 「今日のは、いつもの健康診断とは…違う。検査と言っても……」 いつもの健康診断なら、東海道は直腸検査を何としても拒否するので、その『付き添い』に、山形新幹線が居るのだ。が、今日の検査は、東海が用意し、東海道だけが受けるものだった。いつもの検査と違うから…と言われ、東海道は受けたのだった。 「…って、そう言って、ついでに色々やられるって可能性は、考えなかったのかよ？」 呆れるように言う山陽に、東海道はにやりと笑って見せた。 「東海が、私をだまし討ちにかけたら、どういう事になるか……」 「そりゃ…そうね」 東海道の体調、機嫌は、運行に影響が出る。そんな事を、東海本社がするわけはない。 「で…本当の所…どうなんだ？」 「大丈夫だとっ」 何度も聞く山陽に、東海道は切れたように返事をする。 「大丈夫…なんかじゃ、ないんだろう？」 「……山陽。何で…」 山陽が、真っ直ぐに見つめる。その視線を東海道は避けた。 「返事が、０．５秒…遅れた」 「……馬鹿々々しい。そんな訳が…」 「うん。ウソ。でも……」 山陽は、東海道の側に立つ。 「俺達が出来て、どれだけ時間が経ってると思ってるんだ？何も…ないわけないだろう？それに…」 「……それに？」 ちらりと自分を盗み見る東海道に、山陽は眼を細める。 「俺が、お前がおかしいのに…気が付かないと思った？」 「生憎、私はそう言う都合の良い説明は…」 「……俺を信じてないの？」 残念そうな山陽が、東海道を抱きしめると、さしたる抵抗もせず、彼はその腕の中に収まった。 「タネ明かしは？」 「…電話があった」 「弟か？」 「ご名答」 「……そうか」 相変わらずの、手回しの良さに、東海道は舌打ちをする。伊達に、長く生きてないのか。 「…すごく…ボロボロなのか？」 「……それなりには…な」 もう、東海道は、山陽に嘘を吐くのは、諦めた。 東海が彼に行ったのは、架線自体に関わるような身体検査。日本中のインフラ老朽化が懸念される近頃。東海も本格的に東海道新幹線の改修を、始めると言うことだろう。 「で、いつから、始めるの？改修…」 「……１８年…」 東海道は、そっと山陽の腕の中から逃れる。 「遅すぎるっ」 「怒るな。私は、大丈夫だ。それよりもお前…」 東海道は、山陽に向き直った。自分は良い。だが、もっと心に引っかかっていることがある。 「お前は大丈夫なのか？私がきちんとしても、お前がボロボロでは、意味がない」 「…山陽さんは、大丈夫よ」 へらりと笑う。この態度の山陽には、何を言っても無駄なことを、東海道は知っていた。 「…解った。信用しよう」 そう言うと、山陽は、今度は少し泣きそうな顔で笑う。東海道のこの言葉は、最上の誉め言葉だ。それ程、長い時間を二人で走ってきた事への証。実際、先の震災から、それなりの改修はしているようだったから。 「昼食…食べに行くか？」 自分の言った言葉に照れたように、東海道は山陽に背を向け、誘った。 「そうだね」 返事をすると同時に、山陽はもう一度、東海道を後ろから抱きしめる。 「……おいっ」 「お前には…」 山陽は、東海道の肩に顔を埋める。 「あんな、辛い思い…させたくないから…」 「……してたまるか」 どの新幹線よりも、辛い思いをした山陽は、とても臆病だ。 『あんな思いを…』と、山陽は言う。それは、東海道自身にも言えることだった。自分に何かあって、平気でいられるほど、山陽は他人ではない。だから、その言葉は、そのまま山陽に返したかった。 勿論、その思いは胸の中にしまっておいたが。 「早くしろ。休みが終わってしまう」 そう言って、東海道はドアを開けた。
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「おめでとう…って言うべきなのかな？」「何がだ？」 山形に入れてもらった紅茶を飲みながら、東海道は山陽に聞く。 「五年前倒しだって？」 それは、今朝の報道。東海が、東海道新幹線の改修工事を、５年前倒しで、今年から始めるという事だった。しかも 「改修費って、１兆もかかる予定だったんだっ。すごいね〜」 秋田は、地元から持ってきた銘菓『バター餅』をつまみながら、話の輪に加わる。 「東海道も、あちこちガタが来て、大変なんだね〜。まあ年だしね〜」 「……誰が年だ」 こちらは、何か茶々を入れないと気が済まないのか、上越が余計なことを言う。隣で東北が一瞬顔をしかめたが、一々言うことではないので、そのまま彼はお茶をすすった。 「でも、費用を３０００億も圧縮なんて、すごいじゃないか」 その場を収めるように、山陽が東海道を誉める。 「…まあ、色々研究していたようだしな」 東海道は、素直に肯定をする。今回の工法は、色んな面で画期的だ。何より、費用圧縮できたのが、東海道のお気に召したらしい。 「お前の所にも、技術者を派遣してやらんでもないぞ…」 「あ、そ、そうだね。その時はよろしく〜」 事はそう簡単には行かないだろうが、東海道が上機嫌なので、山陽はそれ以上逆らわないようにした。 「良かったな、山陽…」 静かにお茶を飲んでいた東北が、気が付いたように声を掛ける。 「あ、ああ…？」 何故東海道にではなく、自分になのか？山陽が曖昧な返事をするのにかぶせるように、東北が続ける。 「これで、東海道に多少無理をしても、次の日に響かないぞ…」 「……！！！！」 その場にいた全員が、長野を抜き凍り付き、秋田はとっさに、長野の耳を塞いだのだった。 |
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最初の改修計画は０２年だったらしい（引当金積み立て始めた…） |
先の東海道改修工事のニュースで、こだまの速さで妄想した(^_^;
妄想したのは良かったが、案外ネタが重かったのと、
相変わらず調べることがあって、面倒だった。