Ｅａｓｔで行こう

＊

「久々に来たけど、やっぱすごいね～」
　そう、秋田ははしゃいだ。

　何故か、秋田が大宮の鉄道博物館に行きたいと言い出した。まあ、タマにはよいかと、東北は付き合うことにしたのだ。
　第一、秋田が食べ物以外のことで、おねだりをするのは珍しい。
「僕は、食べることばっかり、考えてる訳じゃないよ」
　確かに、食べ物関係以外では、高速鉄道の中でも常識がある方だと、言っても良いだろう。そして姉御肌で（男なのだが）男前だ（だから、男だ）。

「へー。大宮のグランスタも、いいねぇ」
　大宮から、ニューシャトルに乗る間、ＪＲ構内を涎を押さえながら呟く彼は、いつもの通りだったが。
「東北～。呆れないでよ。今は買わないよ」
　後では買うのだな…と、東北は思ったが、突っ込まなかった。

「目当てがあるのか？」
　ここへは、一度来たことがある。開館当時は檄混みで、高速鉄道の仲間は、仕事以外では誰も近寄らなかったが、最近は落ちついてきたので、平日ならそこそこ空いている。
「うーん、スーパーこまちグッズがさぁ…」
　まあ、東で発売する物は自分達の所に来るが、物によっては、自分達でも手に入れるのが難しい。じゃあと言うことで、二人はグッズ売り場に向かう。

「はい」
　手に入れた、連結ストラップを、秋田は東北に渡した。
「……何だ？」
「毎日見てれば、可愛くなるかもよ」
「……」
　E6が可愛くないと言ったのを根に持っていたのかと、東北は仕方なく手を伸ばした。携帯に付けろと言うことらしい。東北は、自分の携帯についたはやぶさとスーパーこまちの携帯ストラップを、眺める。
「…連結は、しないのだな」
「あ～、じゃあ、今度は出来る奴を買ってくるね」
　そう言うつもりではなかったのだが、秋田が嬉しそうなので、下手に突っ込まないでおいた。

「どうする？帰るか？」
「折角なんだから、少し見ていこうよ」
　未だ、秋田新幹線の使用車両は、展示してない。それでも、彼の地を走った旧車両は、懐かしいらしく、車両展示ブースを目指した。
「あ、東北！一等展望車だ」
　進行方向にあるのは、富士で使われた、展望車だった。内装は漆塗り等の、いかにも日本的な“桃山式”の内装。外国人には受けたようだが、日本人には『霊柩車の様だ』と、揶揄された。
「いつ見てもすごいよね～。これ見ると、九州思い出すって、山陽が言ってたよ」
「……そうだな」
　同じ型の展望車は、はとやつばめも走らせていたが、彼らのそれは洋風の、落ちついた内装だった。そう言うと、富士には申し訳ないが。
「九州と言えばさ…」
　急に、秋田の声の調子が変わる。
「九州肥後の…オレンジ食堂列車…乗ってみたいなぁ」
　そこか。結局食べ物か。
　こんな、昔の優等列車を見て、それを思い出すのか。オレンジ食堂列車は、その名の通り、九州を走る豪華列車で、車内で九州の名産品を使った、豪華なお弁当が食べられる。東もグランクラスを走らせているが、企画という点では、九州に負ける。まあ、勝ちたくもないが。
「ねえ、東北…」
　くるり…と、秋田が自分の方を向いた。
　嫌な予感がする。
　期待に満ちた瞳と、多分頭の中は、食べ物でいっぱいであろう表情で。
「ウチも、豪華列車走らせようよ…」
「もう走ってるだろう？」
「グランクラスは、あくまで座席が広いだけじゃん。食事も…」
　秋田の頭の中には、きらびやかな食堂車で、フルコースを食べる図が浮かんでいるのだろう。
「…北斗星…カシオペアでは、いけないのか？」
「うーん、あれも良いんだけどさ…」
　その手の物は、一通り体験したい秋田は、既に乗っている。
「…九州の、ななつ星…すごいじゃない？」
　ああ。あの、東海道曰く『成金趣味』の車両の延長か。九州の目指す物が、あそこに集約されている
「ウチも豪華列車走らせて、三泊四日で、東日本めぐって…」
　もう、目が宙を見ている。今の秋田には、日本海を走る豪華列車が見えているのだろう。
「その土地のおいしい物、てんこもり～～」
「……だから、お前の美味しい街道と…」
　キラキラと、自分を見つめる秋田を、東北は見返した。
（……そうだな）
　これから日本は、人口が減っていく。外国の客も、取り入れなければならない。海外の富裕層を、羽田に来させ、東京駅か品川から走らせれば、確かに良い戦略だ。
「考えておこう……」
「本当！？さすが東北っ」
　それに、例えそれが食べ物に直結する話題でも、こうして嬉しそうに語る秋田に、自分がとことん甘いのを、東北は自覚していた。

＊

「え？お前の所も、走らせるの？」
　後日。豪華列車を走らせると、東日本が発表した。上官室でそれを聞いた山陽がちょっと驚いた顔で、聞き返した。
「…まあ、そう言うことに…なった」
　歯切れが悪そうに言う東北に対して、上越は結構乗り気だった。
「日本海側も、ぐるっと回るんでしょ。いいねぇ」
　地元大事な上越は、上機嫌だ。
「ねぇ東北。レストランのメニュー監修は、僕に任せてよ。きっとすごい郷土色豊かな、メニューに出来るよ！」
　秋田の言葉に、山陽は苦笑する。秋田に任せたら、あらゆる物を盛り込んで、旅行代金がふくれあがるだろう。
「秋田。お前が企画してしまったら、後での楽しみがなくなるぞ」
　それに動じることなく、東北が秋田に言う。
「……え？」
「運行開始してから、何が出てくるか、それを楽しんだ方が良くはないか？」
「え？あ、ああ！そうだね。そうだよね～～。そう言う楽しみ方もあるよね」
　勝手に何かを夢想し、秋田は楽しそうだった。

「お前…秋田の扱い…慣れたね」
　こそりと、山陽が東北に囁く。
「別に、慣れたわけではない。秋田は…可愛いからな」
　そう言って、東北がちらりと見せた携帯には、繋がったはやぶさとスーパーこまちのストラップが下がっていた。
「……さいですか」
　この男は、真顔で惚気るから始末が悪いと、山陽が思ったとか、思わなかったとか。

東だから、東京発着は魅力だと思う。
九州は羽田集合なんだぜ～
（名古屋ってのもあった）

先日のネタを、併せたらこうなりました。
富士の展望車は是非見ていただきたい
本当にれい……

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