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別れる日
ご注意！
草いきれが、ひどかった。死にネタです それでも大丈夫な方のみ、下にお進み下さい。 ＊ がさがさと、道もない山の中を、草をかき分け横須賀は進む。 「…大丈夫か？」 時折気を使いながら、後ろを見る。 「……ああ」 そこには、東海道がいた。怪我をしているらしく腕を押さえながら、横須賀が何とか作ってくれた道を進む。 「……確かこっちに…」 そう言って踏み出せば、小さな小屋が見えた。 「とりあえず、あそこに入ろう。怪我の手当もしねーと」 横須賀の言葉に、東海道は力なく頷く。 今は、二人だけだった。京浜以下、他の連中は、既に山を下ろさせた。 「…奴等…大丈夫かな…」 小屋に誰も居ないのを確かめ、東海道を招き入れる。火を熾すわけにも行かないから、横須賀は裏から水を汲み、布を浸す。 「…腕、出せよ」 そう言って、東海道の手を取った。 「……大将が、部下庇ったら、ダメだろうが…」 怒るように言うと、東海道は笑った。 「つい…身体が動いてね」 「そんなんじゃダメだって…いつも……」 いつも。自分が東海道を守ると決めているのに、気が付くと東海道に守られている。その度に、横須賀は悔しい思いをするのだが。 「…これで、少しは持つけど、早く…きちんと手当てしないと…」 何とか、東海道の腕に包帯を巻いて、横須賀は一息つく。が、のんびりもしていられない。追っ手は、既に山狩りをはじめているだろう。 「横須賀…」 いきなり居住まいを正し、東海道が口を開いた。 「お前…一人で逃げられるか？」 「何、馬鹿なことを言ってるんだ！」 横須賀は、なんとか声を押し殺しながら、怒った。何を言っているのだ。それでは、ここまで東海道を連れて逃げた、自分の努力はどうなるのだ。何より、自分が彼を捨てて行ける訳などないではないか。 「俺は…もう無理だ。だから…お前一人だけでも…逃げろ」 「東海道。黙れ。それ以上、馬鹿なことを言うと…」 怒って、東海道の肩を掴んで、詰め寄る横須賀の腰から、東海道は短刀を抜き取る。 「……！」 「これ…借りるぞ」 「お、おいっ」 「介錯は頼む。自力でなんて、無理だからな。こんな事なら、作法くらい覚えておくんだったな」 そう言って、東海道は笑った。 「京浜には、俺が死んだら、部下と共に投降しろと…伝えてある。奴のことだ、上手くやるだろう」 「東海道！」 どうして、身体が動かないのだろう。全てが、スローモーションで流れていくようだった。 「お前に…一番辛いことを、頼んで…しまったな」 「やめろ！東海道！」 もう、声が外に漏れる事など、構わなかった。肉を割くいやな音と、飛び散った血と。 そして、とてつもなく痛いだろうに、自分を見上げて笑う…一番大切な人。 「……東海道」 横須賀は、持っていた刀を振り上げた。 解っていた。もう、こうなったら、一秒でも、彼を苦しませたくなかったから。 「東海道っ！東海道…とうか…い…」 手に残る感触と、目の前に広がる大量の血と。その中で、横須賀は、ただ彼の名を呼び続ける。 「あ……何で…」 瞳が、とても熱かった。何かと思えば、乾いた床に、パタパタと落ちる物があった。 「……泣かないって…」 絶対に。東海道の前では、涙を見せないと…出会った時に決めたのに。 「ああ。でもいいか。もう…お前には、見えないもんな」 もう、止めることも叶わない涙が、ポロポロと流れ落ちる。 「…東海道」 一人で逃げるなど、考えつかなかった。もしもの時のことを、何度か東海道が横須賀に話したことがある。もしもの時は、自分一人で逃げるか、この首を持って、投降しても良いと。その度に、馬鹿なことを言うなと、怒ったものだ。 「……俺…知ってるんだぞ。テメェ…すごく寂しがり屋じゃねぇか」 彼を切った刀を、地面に立てた。何しろ、確実は方法を、横須賀はこれしか知らなかったから。 慣れ親しんだ音と、痛みが伝わって、ああと思う間もなく、横須賀は東海道の隣に倒れた。
＊
「……スカ……横須賀？」「……え？」 名前を何度も呼ばれ、無理矢理開けた目が、世界が明るいのを感じた。 同時に、目の前に東海道の顔があった。 「どうした？」 東海道は、横須賀を不思議そうな顔で覗き込んでいる。 「……俺…？」 「何か…よく寝てたからな。と言うか、業務中だぞ…」 「え…あ。ああ」 言われて起き上がると、パタパタと何かが落ちる音がした。 「どうした？」 何となく心配になった東海道が、聞く。自分の記憶では、横須賀が涙を流すのを見たことがない。少なくとも自分の前では。 戦後、彼が嫌だというのに、弾薬を運ばされ、挙げ句爆発事故を起こしたときも。何があっても、彼が泣いたのを見たことがない。だから、泣くほどの悲しい夢を見たのだろうか？ 「うーん。いや、その」 横須賀の方も起きたてだからか、困惑した表情だ。 「食おうと思って用意してたカレーを、埼京に食われた」 「……」 あまりの馬鹿馬鹿しい夢に、東海道は文句を言おうと口を開きかけた。だが、横須賀の横顔を見て、言葉を飲み込む。 「横須賀…」 「…なぁ、東海道。腹減った…」 「…お前なぁ。仕方ない、カレーでも食べに行くか？」 ここは横須賀で、メイン通りに行けば、彼の好きなカレー屋がある。カレーにサラダと牛乳が付いてくる、あそこだ。 「うーん、あそこまで歩くの面倒なんだよな〜」 が、あの店も、まして三笠公園も、今や併走する京急の方が近いし、『横須賀には、早くて便利な京急で』と言われても、今ひとつ反論できない現状がある。 「なあ、東海道。どうせ戻るんだろう？横浜行こうぜ、横浜。久々に中華食べたいっ」 「……我慢できるのか？今からだと…一時間以上かかるぞ。夜に連れてってやるから…カレーにしておけ」 「…え？東海道の奢り？」 「……いつも奢ってるだろう？」 何を言うのか…と言う目で見れば、横須賀は笑った。 「じゃあ、行こうか。あー東海道、カレーラムネって飲んだことある？」 東海道の腕を取り、歩き始める横須賀に、東海道は『仕方ない奴だ』と、笑いながらもついていった。 もう、横須賀は東海道のレールの上を走らない。 秋になって、東海道本線の兄である、東海道新幹線の誕生日が来る度に、横須賀は少しだけ我が儘を言う。 それを知っているから、東海道はただ笑って付き合ってやるのだ。 END
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と言うわけで、ＳＭ分離って１０月１日からだったのね。