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やっぱり猫が好き
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「どう？」そう問われても、東海道本線は、言葉を返すことが出来なかった。相手…東北本線は、すっかり満足したような顔で、笑っている。 「やっぱり、きつかった？初めて使うから、加減が解らなくてさ」 いつもの胡散臭い笑顔を浮かべながら、そう言い訳する。そしてまだ布団に寝たままの東海道の耳朶に、唇を寄せた。 「まだ熱いなら、お相手しても良いけど」 『僕は、すっかり満足したし…』と付け加え、東海道の首筋に、指を滑らせた。 「いい。大丈夫だ。帰る」 鬱陶しそうに東北の手を払いのけ、東海道は、半身を起こした。暗い明かりの中に、東海道の白い肌が、浮かんだ。 「意外だなぁ」 「何が？」 「君の肌って、案外白い」 お陰で、付けた痕がきれいに映える。と、これまた、東海道が嫌がりそうな台詞を、笑顔で言う。 「痕を付けるのは、反則じゃないか？」 きつい瞳で返しても、東北は意に介さない。 「見える所には、付けてないよ」 それ以上の文句を、東海道は言うのを止めた。無駄なので。 「君が、意図して見せようと思わなければ、他人には解らない場所だよ」 ワザと付け加える辺り、意地が悪い。さりとて、東北は自分を愛してる訳ではないことを、東海道は知っている。彼も、想いを変に拗らせて、自分と寝るような羽目になっている。お互い様だ。 「お湯…使わせてくれ」 流石東北本線の部屋だ。設備はいい。 「待ち人に、ばれるのは、いやかい？」 「誰も、待ってなんかいない。俺よりも、お前は大丈夫なのか？」 「ここには、誰も来ないよ」 東北本線の言葉に、立ち上がっていた東海道は、思わず彼をみる。確かに、上野のこの宿舎は、彼しか用はないであろう。 「そう。それは、都合がいいな」 高崎を、泊めることはしないのか。言外に含ませながらそう返し、東海道は浴室の扉を開けた。自分の部屋は、時々横須賀が泊まる。それを許している。神戸の方まで行くことも多い自分は、彼に自分の路線を、面倒見させることもあるから。その場合、横須賀も何時も通り大船止まりと言うわけにも行かず、新橋の方まで出てくれば、泊まるには、東海道の部屋しかない。だから、初めから解っている時は、彼に鍵を渡しておくのだ。 横須賀が、細かい事に気がつくとは思えないが、気が付かれないに越したことはない。だから、最初東北が自分を彼の部屋に誘ったときは、少なからず驚いた。驚きはしたが、東海道自身も、自分の鬱屈した気分を、彼で晴らそうとした事は、認めざるを得ない。で、のこのこ彼の誘いに応じたわけだ。まさか、薬を使われるとは、思わなかったが。 東海道は、浴室の扉を閉めた。お湯が使えるようなので、東海道は頭からそれをかぶる。 「……ははは」 気分は最悪だ。欲望は、少しは満たされたのかも知れないが、それ以上に沸き上がる嫌悪感と、自身への嘲笑。 温かい湯は、まだ身体に残っていた薬の存在を、思い出させた。東海道は舌打ちをし、今度は冷たい水を、頭からかぶった。 頭が冷えて、少しすっきりした。今の内にと、身体を拭いて帰り支度をする。 「…本当に帰るんだ」 今更のように東北がからかう声を背中にし、東海道は無言で彼の部屋を出た。本気で、止める気などないくせに。もっとも、止められたところで、自分もこれ以上留まる気もないが。 上野から車で、新橋に帰る。貨物の音が、遠くに聞こえた。
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東海道が、新橋に帰ると、無人と思っていた執務室に、誰かの気配がした。いや、居る者など、一人しか居ない。扉を開ければ、予想に違わぬ男がいた。「…横須賀」 部屋の灯りは点いていなかったが、暖炉に火が入り、部屋は温まっていて、冷えた身体には、心地よかった。 「…遅かったな」 振り返った横須賀は、何時も通りに声を掛ける。 「…何で？」 「って、書類。今日中って言ったじゃねぇか」 言われて、東海道はしまったという顔をする。ただ、何も手渡しする必要は、なかったはずだ。 「ん〜、結局夜までかかっちまって…」 届けに来たら、終電が終わっていたのだという。 「…それは」 彼に、部屋の鍵は渡していなかった。まさか、今日は大船に居ると思っていたから。そうなると、彼は仮眠室に行くか、ここに居るしかない。車で帰るか、どこかに宿を取るという選択肢もあるが、そうするくらいならここにいると、横須賀は常日頃言っていた。 「済まなかった」 「いや、お前の所為じゃない」 だから、待っていたのか。しかし、自分が帰らなかったら、どうする気だったのか。東海道は、外套を脱ぎながらそう聞いてみる。 「…別に。ここに泊まるだけだし」 自分を待っていたわけではない。解っていたこと。そう思いながらも、東海道は、先程の東北との会話を思い出す。待ち人が居るわけではないのだ。 「東海道…」 立ったままの東海道に、横須賀は近づき、外套を受け取った。この男にしては、気の利いた行動だ。それをハンガーに掛け、横須賀は心配そうな瞳を向けた。『どこへ行っていた？』とは、彼は聞かない。そう躾けた。本線の動向に、一々意見をするなと。が、勿論横須賀にしてみれば、思うところも、言いたいこともある。それを飲み込み、横須賀はまだぼんやり立ったままの、東海道の隣に立った。 「…冷えてるじゃねぇか」 そっと、横須賀の指先が、東海道の頬に触れる。 東海道の行動に干渉しない代わりのように、横須賀は東海道の身体の心配をした。疲れてないか、怪我はないか、寒くはないか。そう、世話を焼かれることは、嫌ではなかった。 東海道の手が、自身の頬を撫でている横須賀の手を握った。ひやりとした感触に、横須賀は顔をしかめる。 「どこもかしこも…」 横須賀は、その手を解き、逆に自分が東海道の手を握りしめた。手の甲から指先に。それでも温まらないそれに焦れ、自分の口元に持っていき、息を吹きかける。 「離せ、横須賀…」 不用意に当たる彼の唇に、今度は東海道の方が、眉を寄せた。こんな事をされては、折角醒めた身体に、また火が付く。やんわりと手を外す。 「じゃあせめて、火にあたれ。今、何か温かい物を…」 「いらない。もう遅いから、お前は先に寝ろ…」 部屋の鍵を渡そうとすると、横須賀は首を振る。 「駄目だ。お前が、きちんと温まるまで、俺も寝ない。それにあそこはお前の部屋だ。東海道が帰れ」 「…お前は？」 「俺はここでいい。長椅子もあるし、確か毛布も…」 言いながら、横須賀は東海道を、暖炉の前の椅子に連れて行こうとする。が、当の東海道は、動こうとしない。 「…東海道。一体…」 大体、この部屋に帰ってきた時から、東海道の様子がおかしかった。それは、いくら鈍い横須賀でも気が付いていた。それに、仕事でなくこんな時間に帰ってくると言うことは、『そう言う相手』と会っていたと言うことではないのか。だが、だったら何故、朝まで居ない？この時間に、帰ってこられるのだから、朝でも構わないはずだ。それを咎める者など、居るわけがない。東海道は、もてるのだから、いくらでも相手はいるだろう。それとも、そうは出来ない相手なのか。 「…どうして」 言ってはいけないと思いながら、横須賀は口を開く。いや、無意識だったのかも知れない。 「お前を大切にしないような…相手と…どうして…」 「……」 「俺なら…」 こんな、寒空の中に、放り出すようなことはしない。帰ると言っても、絶対引き留める。東海道は、辛いとか弱音は吐かないし、そう言う顔も見せないから、自分が見ていてやらないと…。 勿論その先は、横須賀は、言葉にはしなかったが。代わりのように、東海道を抱きしめた。 「…横須賀」 じんわりと伝わる熱は、東海道の中の熱を煽る。けれども、今度は東海道は、横須賀を突き放しはしなかった。 「横須賀…」 顔をあげて、自分を抱きしめる男を見た。 目が合って、その瞳に何の感情も読み取れない…と、思った直後、東海道は唇を塞がれていた。 「…ん」 それは口付けと言うより、唇の感触を確かめるような動きだった。それでも東海道が慌てるには、十分だ。顔には出さなかったが。 「唇…冷たい…」 横須賀はと言えば、まるで単に熱を測ったというような顔をしていて、東海道は腹立たしい。 「どう言うつもりだ？」 一応、流れとして、咎めるような声音で聞いてみる。が、横須賀は、何のことか解らないという表情をしていた。 「…何が？」 「許した覚えは…ない」 詭弁だ。そう言うなら、即刻この腕も、振り解くべきだ。今だって、こうやって抱きしめられただけで、東海道の鼓動が早くなるのだ。 「唇…冷たそうだったから…」 「横須賀…」 その言い訳に、東海道は覚めた目で横須賀を見る。 最も、そう思っていたのは横須賀で、当の東海道は、どういう顔をして良いかわからず、睨んでみただけなのだが。 「責任…とれ」 「……へ？」 突然の東海道の言葉に、横須賀は理解が追いつかなかった。自分の不埒な行動に、冷たい視線を送ったくせに。 「お前の所為で、その気になった」 「……」 そんな訳はない。たかが数秒触れただけだ。横須賀はまじまじと東海道の顔を見る。暗いからよく解らないが、いつもの少し不機嫌そうな表情。けれども、少し頬が染まっているように見えるのは、暖炉の所為か。 「その…とにかく、火の前に…座れ」 今度は、東海道は素直に従った。
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東海道は、見くびっていた。横須賀が、きちんと自分を抱けるとは思えなかったのだ。横須賀や横浜の芸者と、出来てると聞く。男前だし、お金も持っている。もてて当たり前だろう。それが男の自分を、相手になど出来るのだろうか。 「東海道…」 柔らかな声で、横須賀が名前を呼ぶ。長椅子に座った東海道の前に、横須賀の顔があった。 「いいか？」 「ああ……」 そう言ってやると、横須賀は嬉しそうに笑った 横須賀の唇が、東海道の唇に重ねられた。先程とは違う、意志を持った口付け。一旦離した後、何度か角度を変えて、口付けられた。 「…あっ」 あまりに気持ち良くて、東海道は思わず声をもらす。 「東海道…お前…」 「何だ？」 瞳を伏せているが、実際東海道は、このまま横須賀にしがみついてしまいたかった。それを隠すように、ワザときつい物言いをしてみたが、横須賀は気にしない様だった。 「あんまり…そんな声…出すなよ。すげぇ…いい」 「…何を、言って……」 視線を上げて、しまったと思った。いつもは、恐い表情の彼が、欲情している。 「お前は……」 熱くなる身体を誤魔化すように、東海道は口を開いた。暖炉の所為だけじゃない。横須賀が、自分の肩に置いている手も熱を伝える。先程、東北本線に“盛られた”薬も、完全に抜けきっていないのだから。 「男と…やったこと…あるのか？」 間抜けな質問だ。あったらどうだというのだ。嫉妬するであろう自分とか、この質問を、横須賀はどう思うだろうかとか、聞きながら東海道は、後悔した。何より、ややこしいではないか。 「…………ある」 数秒の沈黙の後、横須賀は短く答えた。その数秒間の意味など、考えたくもない。 「……誰と」 「海軍の連中と…」 横須賀の答えは短い。 成る程。それなら有り得るだろう。だから、自分に構うことも躊躇しないのか。どういう顔をしていいか解らない東海道は、横須賀から目を逸らした。 本当は、横須賀に拒まれると思っていた。頭を冷やせればそれでいい。だが、迂闊な東海道は、横須賀が自分の誘いに、応じることを考えてなかった。それとも、これは自分の願望なのか。 黙ってしまった東海道に、横須賀は唇を噛みしめた。誰かと寝ている自分など、東海道は興味がないのだろうか。ただ、横須賀としては、自分の想いなど、成就するわけはないと思っていたし、もし万が一、東海道とすることになった時、全くの初めてよりはいいと思ったのだ。東海道は経験豊富そうだったから。
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「なあ、東海道。お前が…いやならやめるけど。でも…」少し頭が冷えたのか。先程の“雄”の表情を引っ込めた横須賀は、何時もの忠犬の顔になる。 「辛いんじゃないのか？だから、せめて俺が…」 その先を、流石に横須賀も言い淀んだ。勿論、東海道はその意味するところを悟る。じぶんがその気になっていることなど、とっくに見抜かれている。 横須賀は、東海道が好きだ。当然だ。自分の本線。この関東の地で、初めに走り始めた官鉄。私鉄は色々出来てきたが、国は東海道本線を作るので、手一杯だったのだ。地方には、いくつか官鉄が出来ては居たが、それはあまりに遠い地のことで、簡単に会えない。だから、作られた経緯はともかくとして、官鉄…東海道としては、自分の支線として出来た横須賀が、可愛くないわけはない。そして、横須賀にも彼しか居ないのだ。 だから、東海道に誘われる様な事をされ、舞い上がった。それを咎めだてするなど、誰にもできないだろう。 「その…俺じゃ…駄目だって、解ってるけど……俺じゃ、代わりになど……」 横須賀の言葉に、東海道ははっとする。自分の拗れた想いで、馬鹿な罠にはまって、その後始末を支線の横須賀にさせようとしている。何と最低な本線だろう。 この二人のやりとりを見たら、高崎あたりは呆れるだろう。が、当の本人は、自分の一番身近な男の想いに、気が付かないのだから、どっちもどっちだ。 「違う…。お前は…身代わりなんかじゃない」 東海道は、慎重に言葉を選ぶ。その立場上、東海道は言い訳をするとか、自分の気持ちを上手く伝えるとか言った事は、苦手だった。 「…でも」 東海道の言葉に、横須賀は反論する。が、その言葉は、東海道が首を振り、指先を横須賀の唇に当てたことで、途切れた。 「横須賀。俺は…」 支線である横須賀の、自分に対する思いが、もしかしたらただの“思慕”で、恋愛感情とは、違うものであるかも知れないが。 「俺は…」 こういう時、本当に自分は、言葉を紡ぐのが下手だ。 「……っ！」 突然、東海道から横須賀に近づき唇を重ねた。 「…東海…ど…」 「横須賀。お前と…したいんだ…」 先程の、なし崩し的に寝るのではなく、きちんと意志を伝えて、そういう関係になりたいと思った。 「お前…だから…」 東海道は横須賀をまっすぐに見つめた。 「解ってるって…」 今だけは、東海道は自分の物だ。この時間は、誰にも渡さない。 「東海道…好きだ。お前だけ…を…」 横須賀は、改めて東海道を抱きしめ、口づけをした。
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横須賀は、東海道の釦に、指をかける。東海道が『自分で…』等と言い出したが、勿論却下だ。彼の服を“その為”に脱がせられるなど、まずあり得ないことなのだから。唇から、首筋に。露わになった肌に、存分に口付けた。 「東海道のにおいだ」 まるで犬のように、うれしそうに鼻を鳴らした。これほど近くに、しかも無防備な姿の彼を、いいように出来るなど。 「お前は…海の臭いがするな」 東海道からは、横須賀の表情が見えない代わりに、その髪が見えた。日本人離れした赤い髪。更に潮にやかれて、色が抜けている。明かりに透かせば、とても綺麗だ。そっと手を伸ばし触ると、案外柔らかな髪が、指に絡んだ。 「……あ」 横須賀の舌が、東海道の胸先に触れて、思わず声がでた。ズボンの釦も外され、下もすっかり脱がされていた。 腰のあたりを撫でる手も、暖かく…いや、むしろ熱い。 「…横須賀」 「ああ…」 誘うような声音に、横須賀も熱くなる。自らも服を脱ぎ、その肌を合わせれば、トクリ…と、心臓の鼓動が響いた。 東海道の肌は、とても滑らかで、気持ちよかった。
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一通り、東海道の肌を堪能した後、真剣な表情で、横須賀が見つめる。「どうした？」 「これ…」 横須賀の指が、東海道の下で勃っている物に絡まる。 「……」 「辛いだろう？」 「……」 言われるまでもない。とっくに気が付かれているそこは、ずっと感じっぱなしなのだから。 『痛かったら言え』と言われていたが、全然そんな事はなく、むしろ、触れた指に息を飲み、数回しごかれたところで声があがり、東海道は横須賀にすがりついた。そのまま動かされた手で、あっさりと達した。これも、あの男に盛られた薬のせいかと思うと、腹立たしい。 思ったより、まめな横須賀が、綺麗にしてくれて、東海道としては意外だった。 「じゃあ…いいか？」 気弱そうに聞く彼に、東海道からもう一度口づけをして頷けば、横須賀が尻尾を振らんばかりの勢いで、うれしそうに東海道に抱きついた。
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「力…抜いて…」そう言われても、恥ずかしくて、つい力が入る。露わになった東海道の秘所を、横須賀の指がほぐす。勿論その前に、横須賀がたっぷりと濡らしておいた。 東北の所で、お湯を使っていてよかったと、変なところで、東海道は安堵した。 彼の指が、自分の恥ずかしい場所に当てられる。初めてではないのに、いたたまれなくなって、東海道は横須賀の腕をつい掴んだ。 「痛いか？」 「…違う」 東海道がゆっくりと指を離す。 「その…恥ずかしい」 恥ずかしいというなら、先ほど横須賀の手で達かされたのは、どうなのだろう。それはまた別なのか。 横須賀が、まじまじと東海道の顔を見た。 にやりと、笑う。 「何か俺、すげーイイモノ見られたのかな」 ポカリ…と、横須賀は東海道にはたかれた。 「お前の中…気持ちいい」 まだ指だけだというのに、横須賀はうれしそうに言う。 「…横…す…カ？」 「これから、ここに入れられるかと思うと…さ」 「バカ…」 実際、横須賀は巧かった。指だけだというのに、東海道は、きちんと“快感”を、感じ、息が上がっていた。成る程。横須賀を相手にしたという海軍の軍人は、余程“教える”のが、上手かったのか。 「え…あ、それは…」 冗談混じりにそう言うと、横須賀が、困惑した表情になる。 「横須賀の…姐ぇさんに…」 横須賀曰く、彼が若い時に、懇意になった芸者に、色々教えてもらったのだ…と。 「…男との…仕方を…か？」 それは『姐さん』という名の、『その筋』の男だったのではないかと聞くと、そうではなく、きちんと“女”の抱き方を教わったと、横須賀は説明する。 「で、男…とするのも、その位丁寧にって…教わった」 「…そう…か」 きっと、彼女としては揶揄うつもりも、あったのかもしれない。が、それは、ばらさないでおこう。彼女には、感謝してもいいのかもしれない。 が、東海道は気が付く。何故、そう言う玄人女としていて、同性との話になるのか。 「…お前は、誰を想定して、そんな事を教わったんだ」 「え……あ、それは…」 横須賀が言い淀む。東海道は、その理由を察した。 「仕方のない奴だ」 その一言で、東海道はすべてを許した。
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「あ…いい…」東海道の手が、横須賀の物を握り、『お前も、きついだろう』と言う。その言葉で、横須賀は腹を決めた。彼から指を引き抜き、自分の物をあてがった。 先程感じた通り、東海度の中は気持ちよかった。多少きついとはいえ、思ったより楽に挿入できた。それは、よく解したからか、彼が慣れているかは、横須賀は考えないことにした。 「…奥…まで、入ったぜ」 「…あ」 東海道の身体が震える。内部が、彼で満たされる。 目の前を見れば、自分だけを見つめている瞳。 「横須賀…」 名前を呼べば、喜色を浮かべたそれが、横須賀の思いを語る。 （…そうか） あの、自分を抱いているにも関わらず、別の物を見ている彼を、思い出した。互いに、満たされない思い。 「東海道。俺を…見ろ」 「ああ…」 そうだった。この男は、こういう事には、勘が働く。 「お前だけだ。お前だけしか…見てない」 「…東海…道」 東海道の中で、横須賀の物が、大きくなった。 「ふ…ぅ」 横須賀が、静かに息を吐く。 「いいぞ、動いて…」 「でも…」 十分、東海道の中に、自分の物が慣れたのはわかっていた。それでも今いきなり動いたら、歯止めがきかなくなりそうで、横須賀は躊躇していたのだ。 「大丈夫だから。だから…お前で、気持ちよくしてくれ」 いくら横須賀が、慣れるまでと静かにしていてくれても、体の中に他人の熱が入り込み、その脈打つ様まで、感じているのだ。微妙に動くそれが、逆に東海道の焦燥を煽る。いっそ、めちゃくちゃにして、その熱で、もやもやした思いも、あの薬も、すべて流してくれればいいのに。 横須賀なら、いや彼にしか、出来ないこと。 「わかった…」 ごくりと、横須賀の喉が鳴った。東海道の言う通り、確かにいつまでもこのままでいる訳にはいかない。横須賀は、そろそろと腰を引く。ずるりと抜けていく感覚に、東海道の熱が、絡み付き締め付ける。 「うっ…」 たまらなくなって、横須賀は、引いた腰を思い切り突いた。 「…あっ」 東海道が、小さく声を上げる。二人分の重みを受けたソファが、ぎしりと鳴った。
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ちょうど良くと言うべきか、二人が事に及んでいるソファは、広かった。それは仮眠が出来るように…という配慮もあったし、基本的に、ここの洋家具は、外人仕様だった。それは鉄道達が、身体が大きく、また東海道自身が、家具は英国製の、向こう仕様のものを望んだからだ。。ソファの奥行きもとても広く、そのためのクッションも、いくつもおいてある。それを除け、東海道を横たえ、横須賀は自分のシャツを下に敷いていた。広いと言っても、そこに横須賀も乗るのだから、座面は狭く感じた。 東海道の身体の下に、上手くクッションをあてがい、自分のやり易いようにする辺りは、指導の賜か。 『馬鹿犬の割には、忠犬だ』と東北が笑ったのを、思い出した。確かに、横須賀がこれほどきちんと“待て”が出来るとは、意外だった。 覚悟はしていたが、横須賀が動いて、比べ物にならない程の感覚が駆け抜ける。 「…あっ」 不覚にも、声があがった。 こんな所で、大きな声を出したらまずい。が、それを言えば、そもそもこんな所で事に及ぶのが問題で、この件に関しては、横須賀を怒る訳にもいかない。 「くっ……よこ…あ、あぁー」 押さえようとしても、声があがる。この時間だし、基本的にここには職員は近寄りたがらないので、比較的安心だが、油断は出来ない。 「あ…いい…横…す…もっと…」 わざとのつもりはないが、東海道も身の内の焦燥感を、早く鎮めたかった。 “待て”を解かれた忠犬は、貪欲だった。好きなように…と迄は言わないが、己の快楽に忠実に、腰を動かす。 「東海…ど…、すげぇ…」 横須賀の息は荒く、その声だけでも煽られる。 東海道は、我慢するのを諦めた。だったら、互いに気持ち良くなって、早く終わらせた方が良い。 問題は、横須賀が、一度で満足するかだった。 そして、自分も…。
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横須賀の動きが早くなって、それにつれて互いの息も、声も、切羽詰まったものになった。「…スカ…っ」 先程、一旦横須賀の手で達かされたモノは、互いの身体に挟まれ、また勃ち上がっていた。 身体が熱くなる。東海道の手は、横須賀の背に回され、すべてを求めるように縋りつく。 「横須…あ、ああっー」 東海道は、何度も横須賀の名前を呼んだ。今は、いくら呼んでもいい。相手も自分の事だけを、まっすぐ思っていてくれているのだから。 「とう…か…い…ぅ」 最後の方は言葉にならないうめき声を上げ、横須賀は東海道の中に、欲望を放つ。中ではやめろと言うのを忘れた…という後悔が、東海道の認識するかしないかの頭の隅で、浮かんで消えた。
＊
「…大丈夫…か？」放心した表情の東海道の髪を、横須賀の手がかきあげる。焦点の合っていなかった瞳が、横須賀を捕らえた。 「…あ」 「満足したか？」 横須賀の問いかけに、東海道は不思議そうな顔をした。 「…そういうお前は」 「俺は、いいから…」 よく見れば、横須賀の瞳の奥は、まだ剣呑な光が残る。それを無理矢理押し込めて、横須賀は東海道の世話をした。危惧していた身体は、思ったよりすっきりしていた。まあ、やった場所が場所だけに、無理な体勢をとった身体は、少し軋んでいたが。 「…戻るか？連れていくぞ」 「あ、ああ。そうだな…」 不用意に答えた東海道は、後悔した。暖炉の火の処理をした横須賀は、先程のコートで東海道を包んで、横抱きに持ち上げた。 「…おいっ」 「歩きづらいだろう？宿舎まではすぐだ。この時間なら、誰にも見つからねぇよ」 「横須賀…」 咎めだてするような、不機嫌な声を出しても、今更だった。こう言う時、その位で彼は怯まない。 「わかった。さっさと連れて行け」 ぱたりと、ドアの閉まる音がして、東海道を抱いたまま、横須賀は寒い夜の新橋停車場を、走った。
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宿舎に戻ると、横須賀は湯船に湯を張り、東海道を入れた。けだるかったし、横須賀がうれしそうなので、されるがままにしておいた。ゆっくり湯船に浸かり、身体を洗われ、タオルで拭いた後、浴衣を着せられた。暖房で暖められた部屋のベッドに座って待っていると、程なく横須賀も出てきた。部屋においてあるお揃いの浴衣は、彼には少し窮屈そうだった。 「待ってなくていいのに。寝てろよ…」 「…いや。その…」 ここに置いてあるベッドも、かなり大きかった。東海道が寝るためには、結局かなり大きな寝具が必要で、下手をすれば、ゆうに二人か三人は寝られそうだった。 東京の合同の宿舎は和風で、布団だし、東海道の部屋には、もう一組布団が置いてあるので、例えば横須賀が一緒に寝るといっても、問題はなかった。が、こちらの方が、周りに他の鉄道がいない分、気楽だ。それから言えば、横須賀が、横浜や地元の宿舎を気に入っているのも解る。なんだかんだ言っても、“お国”の為の鉄道だ。庶民から言ったら、かなりの厚遇である。 「身体…大丈夫か？」 言外に、“無理をさせたんじゃないか”という意味を含み、横須賀が問う。そんなことを言ったら、横須賀の方がきついのではないか。 もっとも、横須賀は、東海道が薬のせいでああなった事を、気が付いているのかどうか。気が付いていても、そういうことには干渉しないので、東海道には測りかねた。まあ、誰かと寝てきた位の事は、解っているだろう。
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「お前は、どうなんだ」先程見えた、横須賀の熱は、今は引っ込んでいた。しかし、彼は東海道の様子を確認すると、ゴソゴソと帰り支度を、始めた。 「横須賀？」 「うーん。俺、あっちの戻るわ」 横須賀の言うのは、先程の執務室。あそこのソファで寝るという。 「何故？」 困惑の表情を見せる東海道に、目を逸らせたまま横須賀は答える。 「…我慢…できねぇ…じゃん」 「横須賀…」 もう、互いの熱は、醒めたと思ったのに。 「このまま、一緒に居たら…俺…」 そう言って横須賀は、部屋から出ていこうとする。 「待てっ、横須賀、待てっっ」 「……」 東海道が、横須賀の手を掴む。その切羽詰まった表情に、横須賀は眉を寄せる。 「…我慢…しなくていい」 「…何を」 「俺と…したいんだろう？まだ…」 「だから…それは…」 怒り出す一歩手前で、横須賀は答える。何を、人の努力を、無駄にしようとするのだ、この本線は。 「したら…責任…持てねぇ」 「…横須賀」 鉄道の始祖。それは、こう言う時に不便だ。自分が何か言っても、それはすべて上からの言葉であり、命令だ。それを気にしない東北本線みたいな路線もいるが、横須賀のような支線や本線でない在来は、それなりに受け取る。 「…それは…さっきのお前の言葉と、矛盾しているじゃないか」 「何の…事だ」 「俺を、このまま…ここに置いていくのは…どうなんだ」 「……東海道」 横須賀は、先程の自分の言葉を思い出した。 「…一人に…するな」 「…それは」 「お前が…良いと、言った。いや、お前でなければ…」 「……」 もう、横須賀には、言葉がなかった。 「俺は…」 東海道の手が、震えた。その手を取り、横須賀は東海道を抱きしめる。 「…知ら…ねぇ……ぞ」 「……ああ」 もう、薬の影響は、ほぼなかった。なのに、先程煽られた以上に、身体が熱い。 「…ふっ」 横須賀からの、口づけに、東海道は応えた。唇を合わせ、開いたそこから、横須賀の熱が入り込んだ。舌を絡め、息が混じる。密着させた肌が、薄い浴衣を通して熱を伝える。 「少しは…加減しろ」 ベッドに降ろされた東海道は、横須賀の首に手を掛けながら、ささやく。 「…まあ、明日の業務には、響かない程度には…」 横須賀の言葉に、東海道は笑った。 彼の身体の重みを受け止め、東海道は幸せなため息を付く。 更に二人分の身体を受け止めたベッドが、少しだけきしんだ。
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「おや…お揃いで」次の日。東京の執務室に顔を出した東海道と横須賀に、東北本線が笑いかけた。 「おー、東北」 「……おはよう」 横須賀は、気さくに返事を返し、東海道は少し複雑な思いで、挨拶をした。 「ああ…成る程」 いつも以上に、意味ありげに笑う東北を、東海道は警戒した。 「犬に慰めてもらった訳だ」 「……っ！」 次の瞬間には、東北の目の前に、刀の切っ先があった。それは勿論、横須賀の剣だった。止められるはずの東海道は、一切反応しなかった。つまり“許した”のだ。 「…横須賀」 数秒後、東海道の言葉に、横須賀が剣を納める。鯉口をパチリと言わせ、何事もなかったように、東海道の後ろに立った。 「え？ええ〜、横須賀？東北？？」 一部始終を見ていた高崎は、間の抜けた声を出す。 「何でもないよ。東海道の忠犬が、ご主人様を守りたいんだそうだ」 「……それは、お前が不用意なことを言ったからだろう…」 いつも色々言われている高崎にしてみれば、さもありなんと思う。何のことだか、見当は付かなかったが。 「…俺は、東海道の犬じゃない」 不満そうな顔をして、横須賀が口を開く。 おや、忠犬が異を唱えたぞ…と、東北がまたからかい、高崎が窘めた。 「俺は、東海道の猫だ」 「「「……っ！」」」 その言葉に、三者三様の驚きの表情をする。そして、高崎は惚けた表情をし、東北は大笑いし…。 そして東海道は、真っ赤になりながら、横須賀を一発はたいた。
ＥＮＤ
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横須賀初めて物語…になっちゃった。
タイトルが微妙なのは、いつものことなので。