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YOU NEVER KNOW…
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「…はぁ」溝の口で降りた大井町線は、らしくなく深い溜息をついた。 昨日、気を利かせたつもりの行動が、思いっきり外れた。それは、自分の認識が間違っていたから…いや違う、認識を間違っているのは、彼らの方だ。 「大井町っ」 少し遠くからかけられた声に、大井町は顔を上げる。向こうから、乗り入れ先の田園都市線が歩いて近寄ってくる。軽く片手を上げたので、こちらもそれに応えた。 「…どうした？」 近くに来てみれば、彼らしくない、難しい表情をしていたので、思わず聞いた。それとももしかして、今の溜息を聞かれたのだろうか。やはり、不用意に考え込む物ではないなと、大井町は反省する。 「昨日…」 だが、大井町の心配した事など、彼は気にしていない様だった。いや実際、見てはいないのだろう。その代わりのように、彼は唐突に切り出した。 「昨日…東横と、飲んだのか？」 「…ああ、久々に…な」 何故、ばれている？いや、隠したつもりはなかったが、田園都市線に伝わるような様な覚えはない。勿論、顔色を変える事もなく、大井町は軽く肯定する。 「二人で…か？」 「いや。目黒も一緒だった」 嘘をついても仕方ないので、大井町は正直に答えた。その意味を考えるように、田園都市線は大井町を見つめる。 「三人で…懐かしい話に、花が咲いて…つい飲み過ぎた」 その、裏表のなさそうな、さわやかな笑顔に、田園都市線は力を抜いた。 「そうか。それは…よかったな」 昨日は、何だかあの二人に当てられ、さりとて『おいとま』する機会を逸し、大井町はあのままずっと、彼らと飲んでいた。確かに“良い酒席”ではあったのだが。 『しかし、困ったな…』別れてから、一人つぶやいた。が、困る事などない。姑息な自分の画策が、無駄に終わっただけの事だ。あの二人に自覚がないのなら、別の手を考えるまでだ。 そう、昨夜は思ったものだが。 田園都市線の言葉に、何故自分達の飲み会を、彼が知っているのか、大井町は追求をするのをやめた。知ったところで、事態が変わるわけでもないし、下手をすればやぶ蛇になりそうだったので。 彼が何故、気にするのかも、そして自分は、出来るなら隠しておきたいのかも、大井町は解っているから、素知らぬ振りをした。 「良かったら、今度二人で飲むか？」 そうやって、たわいのない口調で、大井町は田園都市線を誘う。彼の少し気落ちした気分に、助け船を出すような感じで。 二人きりで。昔話は、山ほど有る。 「そうだな。たまにはいいな」 何かを思い出すように、田園都市線が答えた。 大井町は、そっと目をそらす。 結局、自分の姑息な工作など、何の実も結ばない。東横と目黒は自覚がなく、田園都市線は、気がつかない振りをしながら、東横を想い続ける。自分の想いなど、やはりずっと気づかぬまま。 そして田園都市線は、やはり違う方向を見ていながら、大井町を盗み見る。いい男だと思う。綺麗でスマートで、おしゃれで。だが、だからといって、乗車率がいい訳ではないのだ。 「私は…貴方と同じ名前だった時も、いやではありませんでしたよ」 唐突にそう言われて、田園都市線はうろたえる。やはり、この男の綺麗な笑顔は、時として苦手だ。 「私は…困った」 その言葉にも、大井町は笑顔を見せたままだった。その表情に、田園都市線はドキリとする。 「君を、どう呼んで良いか、わからなかった」 「…君の好きに呼んでくれて、構わなかったのに」 結局、当たり障りなく“大井町支線”と、呼ばれていた記憶があるが。 「いや。君の名が復活して良かった」 ああそうだ。やはり彼が同じ名というのは、居心地が悪い。別に、一つになりたいわけでは、ないのだ。 そう言うと、大井町がうれしそうな表情をして見せた。案外子供っぽい顔だ。 その表情は、彼は田園都市線にしか見せないとは、彼も、当の大井町も、気がついていなかったが。
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おまけ 昼でも食べようかと、自由が丘に戻れば、大井町はそこに珍しい顔を見つけた。 「みなと…みらい…？」 ほぼ、会議でしか顔を合わせない彼と、こんな所で会うのは、珍しい。彼も、東横と直通しているのだから、ここにいても不思議ではないのだが。 「おや、これは…」 何とも曖昧な言葉と共に、彼は頭を下げた。 少し警戒をしながら、しかしそんなことはおくびにも出さず、大井町も会釈する。 「昨日は…楽しまれたようで…」 「……君か？」 つい、反射的に聞き返してしまったが、それには気がつかなかったように、みなとみらいはのんびりと答えた。 「副都心が…言いふらしてました」 （…あいつか） 全てを察した大井町は、次はもう少し場所を考えなければ…と、心に決めた。 |
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とりあえず、終わり |
大井町さんが、田都を好き…ってネタが、降りてきたので、ウチではそうなってます。