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都市伝説？
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「君の所為だよっ」 「…俺の所為じゃない」 ドアの向こうから聞こえる怒鳴り合いに、横須賀は眉を寄せた。 「東海道…京浜…どうしたんだよ？」 ドアを開けて横須賀が問えば、目の前には互いをジト目で睨む、東海道と京浜東北がいた。 「横須賀…どうにかしろよ…」 自分は絶対に関わりたくないという体で、武蔵野が声を掛ける。 「君たちも、大変だねぇ…」 こちらは、のんびり茶をすすりながら、中央が言う。勿論、自分には関係がないという、態度でだ。 「そう言う君だって…」 困った顔で、ドアを閉める横須賀に、京浜東北が声を掛けた。 「遅れてるじゃないか。か…」 『彼の所為で』と、東海道を指し示そうとして、流石に賢明な京浜東北は止めた。横須賀は、東海道の所為で遅れても、何一つ文句は言わない。そんなことを言ったら、修羅場になる。宇都宮辺りが嫌みで言うこともあるが、彼は引き際を心得ている。それに、横須賀も、本線と事を構えることはしない。（総武は別らしいが）一番困るのは、東海道なので。 「俺が遅れてるのは、高崎のせいだ」 「ちょっ、横須賀っ。俺が遅れたのは…上越の…」 高崎は、自分の終着駅で接続する、同僚の名をあげた。だが、その言葉と同時に、またドアが開き、誰かが入ってくる。 「誰の所為にしてもいいけど、僕まで巻き込むのは、止めてよね…」 相変わらずの、表面だけはにこやかな表情で、宇都宮が言う。 「いいじゃないか。どうせ直通は…もう切ってるんだろう？それよりも…」 彼らの会話に、冷たい一瞥を寄こし、そう断言すると、京浜東北は東海道をちらりと見る。 「君が遅れてるおかげで、僕の方に乗客が回ってきて…僕まで、遅れだしてるんだ…」 「…それは」 『悪いとは思ってる』と、東海道は口の中でもごもご言う。仕方ない。東京から大船まで。ほぼ同じルートを走る二路線。互いの遅延が、事故が、即座に相手のそれを誘発する。 「だが…俺の所為じゃ…」 そう言い訳する東海道に、京浜東北が何か言おうとした時。おもむろに、横須賀が口を開く。 「阪和線が…」 「「は？」」 「阪和線が遅れて、はるかが遅れて…東海道上官が遅れて…東海道が遅れて…」 「…脳筋が…何か言ってるぞ…」 薄ら笑いを浮かべ、武蔵野が茶々を入れる。他の者は、ぽかんと口を開けたままだった。それを気にすることもなく、横須賀の台詞は続いた。 「御殿場行きが遅れて、あおりをうけたあさぎりが遅れ…小田急が遅れ…」 「…横須賀…それは……」 『都市伝説だ』と、言おうとした京浜東北の言葉は、無視された。 「乗り入れの千代田線が遅れ、更に直通の常磐が遅れ…」 「そうだな。あいつ小田急なんかに乗り入れてるから…」 常磐線が、文句を言う。因みに彼も、今、遅延中だ。 「その所為でUTLが遅れ、高崎と宇都宮も遅れ…」 「だから俺の遅延は、上越のせいで…」 「UTLが、全滅。SSLも、全滅…だから……」 まじめくさった顔で、横須賀が東海道と京浜東北を指さす。 「お前らが遅れたのは、阪和線の所為だ…」 「…それは違うと」 「そうだな！俺たちは悪くない」 京浜東北の言葉を遮り、東海道が胸を張って、宣言する。 「悪いのは、関西だ」 「……なるほど。すばらしい、責任転嫁だねぇ」 東海道の言葉を受け、中央がにっこりと笑い、立ちあがった。 「さて、僕はそろそろ行くよ。僕は…遅れてないし…」 何故か…と言うわけではないが、特に乗り入れもなく、現在独立路線になりつつある中央は、SSLやULTの遅延には、巻き込まれない。東海道本線や宇都宮、高崎がわたわたしている時も、それを横目で見ながら、のんびり出来ることが多くなった。が、そうして油断していると、自身も“別の理由"で、大変なことになったりもするのだが。 が、今は、自分には関係ない。なので、涼しげな顔でそう言うと、ドアから出て行く。 「…そうだね。このまま、君の所は…なにもないといいねぇ」 嫌みを言う京浜東北に、中央は笑って手を振った。が、その背に横須賀が声を掛ける。 「…総武の奴が…遅れてるぞ？」 「それは、君の所為だろ？横須賀。いいじゃないか、君は彼とは、直通切っちゃえば、関係ないんだから…」 「いや…普通が…」 横須賀との直通は、総武の快速だ。中央線に乗り入れている総武線は、各駅で黄色。が、あれを総武線だと思っている者も、大多数居るのだが、お茶の水から向こうは、路線的には中央線だ。 「だとしても、関係ないよ」 まあ、中央快速と、総武からの直通各駅は、レールも別だ。確かに、関係ない。 「じゃあね…」 そう言って、ドアが閉まる。 「……大丈夫かな、あいつ…」 横須賀線のその言葉が終わるか終わらないうちに、『うわあああ〜』という悲鳴を上げ、中央がばたばたと駆けていく音がした。 「……何か、大変だねぇ」 暢気にお茶をすする埼京線。それぞれを見た京浜東北は、そっと溜息をつく。 「わかったよ。悪いのは阪和線…それでいいんだろう？」 「…いいのかよ？」 何だかよく解らない結論に落ち着いて、武蔵野が呟くが、誰もそれを気にしていなかった。 「って、言うか。何だよ横須賀…さっきの長台詞…」 『脳筋が、よく言えたねぇ』と、宇都宮が言う。東海道と京浜東北が、自分でもそう思ってはいるが、余所者に言われると面白くないのか、少し睨む。 「…そこに、書いてある」 「…え？」 横須賀が指さした方向を見ると、そこにあったホワイトボードに、なにやら細々と書き込んであって、横須賀はそれを読んだだけらしい。 「だからそれは、都市伝説だって…」 「…そうなのか？」 横須賀が、考え込むような顔をした。 「ネットに書いてあったから…写しておいたんだ」 「……書いたのは、お前か…」 何のつもりか知らないが、まあ横須賀の台詞で、先程の険悪なムードが無くなったのだから、よしとするべきか。 皆がやれやれと、気を抜いた。するとドアが開いて、いきなり甲高い声が聞こえる。 「あれ〜、みんなどうしたのぉ〜」 そこには、いつも通り人形を抱いた、山手線がいた。 「そっか〜。みんな遅延で大変なんだね〜。困るよね〜。みんなの所為で、僕まで遅れるし…」 「…遅れてるのか？」 一応、気を遣った感じで、東海道が聞く。 「…確かに、山手遅れてるね」 すっかり毒気の抜けた京浜東北が、パソコンの遅延情報を見ながら、代わりに呟く。 「うん！でも僕は２，３分おきだから、誰も遅れてることに、気がついてくんないんだよ〜」 人形が、不満そうな声音で言う。そこにいた連中は、げんなりという表情で、聞いていた。 「じゃあ、僕は行こうかな…」 一頻り、みんなの愚痴やら何かが出たところで、宇都宮が席を立つ。勿論高崎もそれに倣った。 「あ、俺も行くわ〜。総武の奴がうるせぇからよ…」 そう言って、上着を取った横須賀は、『そうだ』と、振り向いた。 「お前ら…猫も食わねぇ事、するんじゃねぇよ」 横浜組の残り二人を指さす。 「横須賀、それなら、犬も食わない…だよ」 ドアを閉め際、宇都宮が言い、一瞬惚けていた京浜東北と東海道は、揃って 「「横須賀っっ！！」」 と、怒鳴っていた。 |
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日常の一こま。 |
どうも、ウチのジュニケーでは、スカが大人です。
バカだけど、大人です。