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【３】 ＊ 「おーい、師匠。来たぜ」 崑崙に着いた天化は、師匠に挨拶をする。 「ああ、天化。よく来たな。今日は……私が相手をしよう」 師匠の洞府を訪ねると、そんな事を言われた。少し首をひねりながらも、天化は修行場に向かった。 そして、数分後。 チュドーン。 修行場に、大きな爆発音が、響き渡った。 「まだまだだな」 道徳の足下には、完全にやられた天化が、突っ伏していた。 「何だよ。手加減なしで、やりやがって」 「修行が足りないのだ。いつかは、私を越えなければだぞ」 「……わかってるよ」 その割りには、今日はマジで、手加減がなかった気がする。 「まあいい。天化。その漠邪宝剣を貸せ。改造してやろう」 「おお、ありがてぇ」 二人は、修行場から、洞府の方に降りていった。 「時に……お前」 そこで剣をいじりながら、道徳が口を開いた。 「…んーー？」 「太公望殿に、手を出したというのは、本当か？」 「手なんか、出してねぇ」 「そ、そうか……」 ほっとした様に、道徳が振り返った。 「ちょっといい仲になったけどな」 「同じ事だ！や、やはり、そうだったのだな！」 「何だよ、師匠まで？！」 師匠に、ばれていた事も疑問だったが、彼がいきなりこんな事を非難するのが、天化には不思議だった。 「天化。わかっているか？我々の使命は……」 「わぁってるよ。第一、それとコレとは……」 「違わぬ。まして、お前も…太公望殿も、まだ道士だと言うのに……。今後、またこのような事があれば、破門だ」 「……う…」 『破門』の二文字を聞き、天化は怖じ気づく。しかし、太公望を好きな事が、そんなにいけない事なのだろうか？ 「……帰る」 すっかりむくれてしまった天化は、腰を上げた。 「おや、もっと修行してゆけば、いいのに」 「……いい。もう少し……強くなってから…また来る」 天化は、改造してもらった漠邪宝剣をつかみ、西岐軍へと、帰っていった。 「全く……」 その後ろ姿を見ながら、道徳真君はため息をつく。 「何で、太公望を…強姦など……」 かなり話が、間違って伝わっている様だった。 「太公望殿。大丈夫ですか？」 「う、うん。ヨウセン。ごめんね」 「それは…構いませんが……」 まさか、こんなに目に見えるほどに、太公望が天化を頼りにしている事に、ヨウセンは驚いていた。 （これは、早くなんとかせねば……） そうだ。太公望には、天化がいなくとも、自分たちはやっていけると、分からせなければならない。第一、大将たる彼が、一介の道士に心を乱されるなど、あってはならない事だと思う。 それに勿論、ヨウセン自身の、思惑も入っている。 戦闘が終わると、ヨウセンは黄飛虎に近づいていった。 「飛虎殿。ちょっと……よろしいですか？」 「はい。何でしょうか？」 そして、本陣の裏手で、二人はなにやら、こそこそと話していた。 その日の戦いが終わって、自分の陣で一人考え事をしている、太公望がいた。小さなため息と共に、無意識に、そんな台詞を口に出す。まあ、行く先は崑崙だし、目的は修行なのだから、それ程心配する事は、ないのだが。 「太公望殿。よろしいですか？」 そこに掛けられた声は、その思い人の父親だった。 「あ、飛虎殿」 軽い咳払いをしながら、陣に入ってきた黄飛虎を、太公望はにこやかに迎えた。 「何ですか？」 太公望がお茶を入れるのを、飛虎は黙って見つめる。なんと言って切り出したらいいのか、逡巡していたのだ。 「あー、っと。太公望殿は、うちの馬鹿息子の事を、どう思って……」 「え、ど、どうって……。頼もしいですよ。この西紀軍にはなくてはならない道士です。確かに、すぐ突っ込んで言っちゃう所はありますが……」 太公望は、少しはにかみながら言う。 「あっ、飛虎殿、もしかして天化の事、許してくれるんですか？」 なんか、話が違う様な気もするが、やはり苦言を呈した方がいいと、黄飛虎は口を開いた。 「あー、こういう事は、言いにくいのですが……」 黄飛虎は、もう一度咳払いをする。 「太公望殿と、うちの馬鹿息子が出来ていると言う事は……」 そう切り出すと、太公望は驚き、次には顔中が真っ赤になると言う、絵に描いた様な反応を見せたので、飛虎は一瞬黙ってしまった。 「…………本当なのですね」 もしかしたらと言う想いがあって、あえてはっきりと聞いたのだが、その行為も、無駄に終わった様だった。 「太公望殿！」 「は、はい……」 黄飛虎がズイっと自分に迫るので、太公望は思わず身を引く。 「よろしいですか？今は、戦いの最中です。まあ、他人に恋愛感情を持つ事が、悪いとは言いません。が、何故あの…天化なのですか！」 話しているうちに、飛虎は感極まった様に、泣き出した。 「あ、あの……天化は…僕の口から言うのも何ですが、とても…優しくて…」 「わかってます。太公望殿は、あの馬鹿に言い寄られて、こんな状況に陥ったと言う事くらい。帰ってきたら、私からきつく言っておきます」 「ち、違うんです、飛虎殿……」 太公望は、どうも黄飛虎が誤解をしている様なので、なんとかそれを解こうと口を開くが、ことごとく遮られてしまった。 確かに、最初に自分に手を出したのは天化だが、自分とて、彼を嫌いではないのだ。いや、むしろ好きだ。でなければ、あんな事などしない。 「とにかく！よろしいですね。今後二度と、あの馬鹿に、手込めにされる事のなき様に！」 「……て、手込め？」 唖然とする太公望を残し、黄飛虎は自分の陣へ、帰ってしまった。 「どうしよう……」 自分のふがいなさに、落ち込みながらも、太公望は途方に暮れる。これでは、また不毛な親子喧嘩の再来だ。 |