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【２】 ＊＊＊ 「……あ｣ 冷たさと、身体中の痛みで、太乙は目を覚ました。 目の前は薄暗く、ただ一つの窓は閉められ、その隙間から、明かりが漏れていた。 「……ここは｣ 動かそうとした身体には、その瞬間熱い痛みが走る。太乙は自分の格好に驚き、上を見上げ、その状態を悟った。 「……痛っ！｣ 両手は頭の上に縛められ、天井から吊るされている。典型的な、捕虜の状態だ。しかも、服のあちこちが破れ、それに伴う傷が、やはり身体のそこかしこにある。それが、太乙に声を上げさせる。 「……つっ｣ 「……痛いか？｣ 暗闇の中から掛けられた声に、そちらの方を向き、目をこらす。そこにいたのは、玉鼎真人だった。 「……あ、私……｣ そうだ。自分は彼に挑んで……負けて。 「お前は……｣ 掛けていた椅子から立ちあがり、ワザと足音を立てて玉鼎は太乙の方に近づいた。 「何をしたのか、わかっているのか？」 「だ……だってっ｣ 「どう言う形であれ、私に刃を向けたのだ。だから……罰を受けてもらおう｣ 「何を言っているんだ！それは、君の方が！｣ 「そう。そうして私に挑んで……返り討ちにあったような物だろう？第一、他人に刃を向けておいて、無事でいようなどというのは、虫のいい話ではないのか｣ 「……｣ 「その身に……思い知るがいい｣ 見ると、玉鼎の手にはグラスが握られ、多分この倉庫に置いてあったであろう酒が満たされていた。 それを玉鼎は一口含み、太乙に口移しで飲ませようとした。まだ、ショックから立ち直れない太乙は、あっさりとその行為を許してしまった。 「……ん、ケホッ…あっ！｣ あまりのきつい酒に、太乙はむせてしまい、飲みきれなかったお酒が、口の端を伝って流れ落ちる。そしてそれは、切れていた唇の端を焼いた。 「…あっ、痛っ！あーっっ｣ そして顎を伝って落ちた雫が、身体の小さな傷に届き、太乙はもっと悲鳴を上げる。 「……はっ、あぁ……｣ 「しみるか？｣ まだ痛さに息を荒くする太乙に、玉鼎は聞くと、そのまま持っていたグラスを太乙の身体の上で傾けた。 「あっー！うわ−ぁ！！あああっーー｣ 痛さと熱さに、太乙はあらん限りの悲鳴を上げる。 「いっ、痛いよー、あ、熱……い｣ 太乙は涙を流し、自分を縛めている鎖を鳴らしながら、身体をよじって暴れた。 それを、玉鼎は抱き寄せ、悲鳴を上げている口を、自分の口で塞いだ。 「んーん、ん｣ 悲鳴を塞がれた太乙は、仕返しの様に、玉鼎の唇を噛む。 「…痛っ｣ 「へへへ。ざまあ、み……｣ その言葉は、玉鼎の平手打ちで、閉ざされた。 「……いい度胸だ｣ 冷たい声で、玉鼎は言う。 ……これ程、痛くて、泣いているくせに……。 そして、これ程弱いくせに、自分に戦いを仕掛けた。 人の気も、知らないで。 「身体にも……精神にも、消えない傷を……付けてやる｣ 言うと、玉鼎は、まだ痛さを堪えている太乙の、ボロボロになっている服を、引きちぎった。 現われた白い肌の、赤い蕾を咥える。 「な、何をっっ｣ それに答えるように、玉鼎が歯を立てる。太乙は更なる痛みと恥ずかしさで、身体が跳ねる。 「優しくなど……してやらぬ｣ 暗い声で、そう告げる。 太乙は、何の事かわからず、きっとそれは、自分が彼にしでかした事の、報復だと思っていた。 なのに、だったら何故、彼はこんなに辛そうな瞳をするのだろうと思った。そして、咥えたそこを、時折やさしく舐めるのは何故かと思った。 だが、次には、その舌先は、先程痛さにのたうった傷口を舐める。 「あー、いやぁ｣ 「憎んで……いいぞ｣ そう言われて、彼を睨みつけるものの、あまりの痛さと悔しさで、瞳からは涙があふれてくる。 暗い部屋の中、鎖がカチャカチャと鳴る音と、太乙の押し殺した悲鳴。そして、玉鼎が、わざと音を立てて、太乙の肌を弄るそれが、響いた。 傷を一通り愛撫すると、太乙は梁に吊る下げられたまま、足を折り曲げられ、持ち上げられる。 「いっ、いやー｣ 何をしようとしているか察した太乙は、残っている気力で、悲鳴を上げる。 玉鼎から逃れようと、身体をゆする。その度に、手を縛っている鎖が擦れて、とても痛かった。 「そんなに暴れると……もっとひどい方法で、抱くぞ｣ いらついた様子で玉鼎が言っても、太乙の抵抗は止まらない。 「ど、どちらにしたって、貴方は……私を犯す気じゃないか｣ 「……御名答｣ 太乙の言い様に、玉鼎は低い声で答える。 そして、どうせそう思われているのなら、そうゆう風に抱かなければ……損だ、と思った。 「折角……お前にも…感じさせてやろうと言うのに……｣ 「そ、そんな｣ 「勝手に、苦痛だけ与えるのでは、気の毒…だからな｣ 「いっいいよー！｣ 今更、何を言うのだろうと、太乙は思った。だが、玉鼎の考えていた事は、苦痛を与えられるよりも、ひどい事だと、太乙は後になって気がつくのだ。 玉鼎は、太乙の両足を折り曲げたまま、そこにあったロープで縛り上げた。その紐は、やはり天井の方に伸ばし、梁に通す。 「これでは、キツイか……｣ 手首と、足のロープだけで身体を支える太乙を気の毒に思ったのか、玉鼎は太乙の胸にもロープを回し、それも天井から吊り下げる。 そして、まずは、ゆっくり首筋に手を這わせ、同時に唇を鎖骨から、胸にと滑らす。舌でも、その白い肌と、そこに映える赤い傷を、愛撫する事を忘れない。 玉鼎の、音速の剣で斬られた傷は、浅いながらも逆にひどく痛んだ。先程、傷だけを責められたのとは違う。そして、さっきよりももっともっと、玉鼎は傷を濡らすように、舌を這わせ、それと同じように、肌の上を弄る。 「……あっ！あああー｣ 太乙は、肌の上を優しく弄られる微妙な感覚と、傷がしみる痛さとを、交互に味わい、口から漏れる悲鳴が、時折甘い艶を含むのを、止める事が出来ないでいた。 そのうち、玉鼎の空いた手が、太乙自身に指を這わしはじめた。 「なっ、やめ…てぇ」 「何を言う？気持ち良くしてやろうと言うのに……」 「ち、違う！貴方は……私を……辱めたいだけじゃ…あっ」 その言い様を肯定するように、玉鼎は太乙を握り締める。他人に与えられる恥ずかしい感覚にも、しかし、太乙の身体は、素直な反応を示す。 そして、玉鼎に唇が、太乙の中心の近くをさ迷うと、更に悲鳴を上げる。 「や、やめて…よぉ！」 「……この程度で？」 玉鼎は、残忍な笑みを見せながら、潤滑油で潤した指を、一本太乙の秘部に入れた。 「あー、やっ、い、痛いっッ｣ 「いきなり入れないだけ、感謝しろ」 「そ、そん…な、あっあー｣ 太乙は、悲鳴を上げ続ける。 玉鼎の口は、既に太乙の勃ちあがったモノの先端を、咥えていて、凶悪な舌が、その出口の辺りや、くびれを……太乙の感じる所を、微妙なタッチで愛撫する。 その間にも、後ろの指は、慣らす様に奥に入っていく。 「や、あ……あ、あっー」 こんな事をされるのが初めてな太乙は、あっさりと達してしまい、その白濁した液は、もう一方の玉鼎の手の中に、受け止められた。 「……どうだ？他人に“いかされる”気分は？」 意地悪く、玉鼎は言い、その手の中のモノを、さらに太乙の内部に、塗りこめる。 「第一、こちらも、十分感じているではないか。先程から、私の指を……随分と締め付ける｣ 「……や、やめてぇ」 太乙の抗議の間にも、自身の液体で、滑らかになった場所に、今度は二本の指が入れられる。 「あっ、はあ、はあ……」 暗い部屋の中に、淫らな湿った音と、太乙の、既に喘ぎ声としか思えない、荒い息遣いだけが、響く。 そして、玉鼎の指が引きぬかれ、そこに、もっと硬くて熱いモノが、当てられた。 「や…いやぁーー」 だが、玉鼎の両手が、太乙の秘部を割り開き、潤いを借りた玉鼎自身は、太乙の内部を引きつらせながらも、奥に進んで行く。 「い、いや、……いた…ぁー」 悲鳴を上げるものの、それは決して痛さだけからでない事を、太乙は感じていた。 「くっ……」 そして玉鼎も、辛そうな声を出す。 「力を抜け、太乙。少しは……｣ 玉鼎に言われ、少しでもこの痛さから逃れようと、無意識のうちに太乙は力を抜く。 「そんな……い、いや…あっああー｣ だが、その隙に玉鼎のモノが更に奥に侵入し、それが太乙の感じる所を刺激したらしく、明らかな嬌声とわかる声を、太乙はあげる。 そして、その刺激で、また玉鼎を締め付けてしまう。 「……動くからな。力を抜いてないと……知らんぞ｣ 「あっ、そんな事……」 玉鼎は、少しだけ腰を引き、また突き入れる。そうやって、小さく動くだけでも、太乙の中は、だんだん感じてきたらしく、太乙から押さえきれない声が漏れる。 「あーあ……い、いやぁ…玉…て……い、だ、だめぇ」 そして、随分と塗りこめた潤滑油のおかげで、玉鼎のモノがだんだん滑らかに動くようになり、玉鼎は少しづつ、動く範囲を大きくしていった。 「だめ……ゆ、許して……許し…てぇ」 すっかり感じている太乙の声に満足し、玉鼎は片方の手を、先程まで萎えていた太乙自身に伸ばす。それはたちまち、勃ちあがり、前と後ろから与えられる刺激に、太乙は翻弄された。 そして、玉鼎に抱きしめられる事により、身体中の傷がまた痛み出す。そんな、快楽と苦痛をいっしょくたに与えられ、太乙の理性は、飛び始めた。 「あ……あああ、も、もう……」 玉鼎の腰の動きは、更に大胆に、そして速くなり、太乙は身体を揺さぶられながら、玉鼎の思うままになっていた。 「あ……いやあ」 太乙の中で、玉鼎が質量を増し、そのまま深く差し入れられ、熱いものが入れられる。 そして太乙の方も、再度玉鼎の手の中に、欲望を放つ。 「……淫らな…身体だな」 一端太乙からはなれると、玉鼎が相変わらずに冷たい声で、辱めた。 「それは……君…が……」 「こんな風に縛られ、無理やり犯られ……こんなになっておきながら、よく言う｣ 玉鼎は、とても理不尽な事を言う。だが、自分の狂態にすっかり打ちひしがれていた太乙は、恥ずかしそうに、顔を背けた。 その顎を玉鼎が掴み、自分の方に向けさせると、太乙はキツイ瞳で、玉鼎を睨みつけた。 「あ、貴方が、こんなに……ひどい人とは……」 「何とでも言うがいい。私を怒らせたのは……お前だ｣ 「それは……」 その目で睨みつけられながら、玉鼎は背中がゾクゾクとするのを感じていた。 欲しかった物が、今こうして、自分の目の前にある。 強い光も、その周りにある、涙の後も、自分が与えた物なのだ。 「お望みなら、もう一度抱いてやってもいいが？今度は……もっと……」 その言葉を聞くと、太乙は青ざめ、哀願し始めた。 「……も、もういいでしょう。……もう、許して……｣ 「……他愛のない」 言いながらも、玉鼎が足の鎖を外してくれたので、太乙はほっとする。しかし、結局最初の状態にされただけだった。 そして、また吊るされた太乙の後ろに、玉鼎が回る。 「何を……するの？」 その言葉が終わるか終わらないうちに、太乙の視界が閉ざされる。 玉鼎が、自分の纏っていた布で、目隠しをしたのだ。 「な……どうする気？」 太乙は、いきなりされた行為に、おびえた声で聞く。 「罰だと……言っただろう？」 「それは、さっきので……十分……」 「まだ、ダメだ。お前が……私の気持ちを……｣ 「な、何？」 最後の方が聞き取れなかった太乙は、玉鼎の真意を計りかねた。 「……いや」 数秒後、玉鼎が口を開く。そして、それ以上言わない。 「お願い。こんな事……止めて｣ 「取ってやるさ。お前が、私の名を、呼んだら｣ 「……玉鼎？」 「お前が……声が枯れる程に、私の名を呼び続けたら、外してやる｣ そうだ。自分の名だけを呼んで。自分の事だけを憎んで、思って……。 他の事など、考えられぬ程……。 そして自分を、あらん限りの、憎悪の目で見つめて。 「私の……名前だけを…な」 ゆっくりと、扉が閉められた。 差し込む光は、わずかにある窓の隙間からだけとなり、目隠しされて入る太乙には、真の闇と化す。 それは、まるで、今の太乙の、心の中のようだった。 「ぎょ、玉…鼎。玉鼎ー！！｣ 悲鳴のような、太乙の声だけが、暗い部屋に響いていた。
【３】へ
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