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「その前に……前払いもして欲しいな」 そう、玉鼎は言った。 「あ……」 立ったまま、玉鼎に口付けされた太乙は、一瞬声を出し、それから逃れようとした。だが、玉鼎の手が太乙を捉え、もう一度口付ける。そして、今度こそ太乙が逃げるのを許さず、その口付けは彼がきつくなって、その口を開けるまで続いた。 「あ……あふ」 そして、一瞬開いた口から、甘い吐息が漏れ、それを更に掬い取るように、玉鼎の口付けが続く。 「ん……んん｣ 勿論、太乙が唇を開くのを、逃すはずもなく、玉鼎の熱い舌が入り込み、今だかつて、太乙が味わった事のない感覚を与えた。 戸惑っている太乙の舌を絡め取り、さらに深く口付ける。 だが、このまま口を閉じれば、玉鼎を傷つけてしまう事がわかっているから、それも出来ず、狭い口の中で彼から逃げようとするのがやっとだった。 「……ん｣ やっと開放された太乙は、はじめての事に、くらくらとしてしまい、近くのソファの背に手をつく。 「な……何を……するんだ…｣ 「ただの口付けだ。初めてでもあるまい？｣ 「……」 そんな風に言われては、まさか初めてだとは言えないではないか。 だが、本当に玉鼎は、こんな事をしたいのだろうか？ そんな事をぼんやり考えていた太乙は、玉鼎に手首を掴まれ、引き倒される。 玉鼎は、少し広めの一人掛けのソファに座っていて、太乙は、その膝の上に乗っかる形になった。顔を上げると、目の前には玉鼎の顔があり、それは、目の前の太乙を見て、笑っていた。 「……さて、どうしたものかな｣ 「……！」 玉鼎に掴まれた、手首が熱かった。 これが“そういう”感覚なのかと、太乙は思ったが、そんな風に、彼に慣れていないと思われるのは、癪だった。 「や、やりたいなら……好きにすれば、いいだろう！｣ そう虚勢を張る太乙を、玉鼎は笑い飛ばした。 「先程程度のキスしか出来ぬくせに……よく言う｣ 「……うう…｣ 「それほど言うなら、させてもらおう｣ 「……｣ 「が、こちらも、あの程度ではその気にならなくてな。だから…お前が私を……楽しませてみろ｣ 「……そ、その気……って。それに……｣ 「その年で、とぼけるつもりか？｣ 玉鼎は、太乙の顎を掴み、口を開けさせ、唇を指でなぞる。 「随分と可愛らしいが……入るのか？｣ 「……！｣ 「出来ぬと言うなら、先程の話は、なかった事になるが｣ 「……それは、困るよー｣ のろのろと、太乙は玉鼎の下半身に手を伸ばす。だが、いっかなその手は進まず、挙句恥ずかしそうに引っ込めてしまった。 先ほどの決意はどこへやら、太乙はすっかり自分の経験のなさを、露呈してしまっていた。だが、太乙にしてみれば、それ所ではない。 「……あ、あの……｣ 「仕方のない｣ 「……えっ？｣ 玉鼎は、太乙を自分の上から降ろすと、今度は隣の三人掛けのソファに、引き倒した。 太乙の肩にひらひらしている布を外す。そして、露わになった首筋に、手を伸ばす。 「……あ｣ 太乙は、一瞬身じろぎをし、逃げ出しそうなそぶりを見せる。 「逃げたいか？」 冷たい。それは、太乙が何時も見る表情の気がしたが、それよりもずっと、綺麗だった。 そう。いつもの、十二仙会議などで他人に見せる、穏やかな表情はまやかしで、これが本当の彼だと、思う程に。 「……｣ 答えぬ太乙の手を、玉鼎は取る。そして、手にした布で、両手を縛ろうとする。 「何を……？｣ 「このままでは、逃げるだろう？……身体が……。だから、そう出来ぬ様に、してやろうというのだ｣ 「そ、そんな……｣ 「お前は…私の与えるモノに……素直に反応するだけでいい｣ 「……｣ 「…今は…な｣ 「…｣ 拒める訳もなく、太乙はギュッと目をつぶり、玉鼎の方に両手を揃えて差し出す。 それを無表情で玉鼎は縛り上げる。 「こうすると……服が上手く脱がせられないが……まあいい｣ もう一度、首筋に手を伸ばし、襟元に手をかけ、白い肌をあらわにする。 太乙は、いつものプロテクターなどは付けていず、前で合わせる簡単な服を着ていたので、それを留めている帯を解けば、簡単に白い肌が露わになった。 更に、太乙の縛った手を、彼の頭上に上げた。 「…あっ」 覚悟はしていたものの、やはり自分が今どんな格好をしているかを想像して、太乙は思わず声を出す。そして、余計きつく目をつぶった。 「そう、まずは……」 玉鼎の唇が、太乙の首筋に降りる。そして、優しく口付け、そのまま下へと滑らす。 「あ……あ、くすぐったい……」 そんな言葉で誤魔化そうとしたが、実は太乙は、玉鼎の与える熱く柔らかい舌の感覚に、感じ初めていた。 そして、恥ずかしいという思いと、気持ち良さで、太乙は今までにない感覚を覚え、息が上がり出す。 「言っておくが、次は……こんな事は、しないからな」 「わかってるよ……あっ……」 思わず漏れる声に、太乙は身体を震わせる。 「感じるか？」 「わ…わからない。あ……ああっ」 否定しようと思っても、太乙の口からは、なやましい声が漏れ、身体が逃げようとして揺れる。 「……そうか」 玉鼎の指先が、太乙の感じた所を確かめるように、小さく円を描きながら、唇が這うその軌跡を追う。 「……太乙」 合間に、まるで吐息のように、玉鼎は彼の名を呼んだ。 太乙は翻弄される間も、玉鼎は随分と優しい声を出すのだと、思っていた。 閉じていた目を、ゆっくりと開けると、彼の綺麗な黒髪が、滝の様に自分の肌の上を這っている。 そして、これ程丁寧に、自分を愛撫するのは、何故だろうと思った。ただ、自分の要求の見返りとして、この身体を欲しいと言うなら、なにもこんな手順など踏む必要はないのだ。 「……なんだ？」 自分を見ている太乙に気が付き、玉鼎は顔を上げた。 「……別に……」 「……もっと、リラックスしろ。後が…つらいぞ｣ 「……なんで？」 「何がだ？」 「何で、そんな……｣ 太乙の言いたい事を汲み取り、玉鼎は冷笑を浮かべた。 「お前の為などではない。まあ、いやがる奴を無理やり犯るのも…一興だが｣ 「……玉…鼎｣ 玉鼎の言い様に、太乙は眉を顰める。 「そんな、体力を使う事など……したくないし、第一、お前は拒む事など、出来ぬだろう。そして、どうせなら…気持ちの良い方がいい…｣ 言葉の間に、玉鼎は太乙の肌の上を、指で弄る。はじめはくすぐったかった筈のそれは、何時しか太乙に、陶酔感を与え始めていた。 「お前が、私の手で、乱れていく様を……見れるかと思うと……楽しくてな｣ 「玉鼎！」 「お前は……拒めぬだろう？｣ それは確かにそうだが、玉鼎は、こんな事をして楽しいのだろうか。 嫌いな、自分相手に……。 その後も、玉鼎の手と唇が、太乙のはだけられた胸の上を滑り、その感触に、太乙が何とか慣れた頃。指先が胸の尖りに届き、軽くそこを摘む。 「……あっ」 一瞬、身体に軽い電流が走ったようになり、太乙は身体をこわばらせた。 そして玉鼎の指先が、はじめは柔らかく、そのうち、しこって来たそこを、楽しむように、強く転がす。 「あっ……い、痛…！｣ 「そのうち、これが快感になる……」 薄く笑った玉鼎は、それ以上そこを弄ぶのはやめ、全てを脱がしてしまった下半身に手をやる。 両足を立てさせると、太乙は恥らって抵抗した。 それを無視し、更に立てた膝を掴み、ゆっくりと開く。 「力を抜け、太乙」 「で……でも、そんな。恥ずかしい……｣ 「……そうか」 一瞬優しく聞こえた玉鼎の声は、次の行為で裏切られた。 玉鼎は、その辺にあったクッションに手を伸ばし、それを太乙の腰の下に入れ込む。 「っ！やっ、やめてっ！｣ 「ふふ。お前の内部が……よく見える｣ 「い…いやぁ！……そ、そんな…」 太乙の、引きつった声を楽しみながら、玉鼎は太乙の左足を、ソファの背に乗せた。更に、もう片方は、側にあったテーブルを引き寄せ、そこに乗せる。 「あああっ、あ……いや…い、やめてぇ」 開かれようとしていた脚を、太乙は閉じ、更に膝を内側に向け、ささやかな抵抗をして見せた。 「……太乙？」 鼻で笑うような冷たい表情を見せ、玉鼎が問いかける。 「ご、ごめんなさい。き、気にしないで｣ 太乙は成す術もなく、続けるように言った。 「そんなに、言う事を聞かぬなら、脚も縛ろうか？」 「……そ、それは……」 「そうか。では……」 玉鼎は、太乙の折り曲げた腕に、どこからか持って来たロープを掛け、その紐をソファの背に回した。上手く角に引っ掛けて、そのまま、やはり下の方でソファの背に乗っている左足の膝辺りに括りつける。 「あ……いやー！」 片方の足が固定され、玉鼎は残る方を押さえていればいい事になり、太乙の身体は、やすやすと開かれてしまった。 「さて……」 玉鼎の指が、腰から下へ伸び、太乙の丸く白い尻の辺りをさ迷い始めると、さすがに太乙は悲鳴を上げた。 「あ……そ、そんなとこ……」 「思った以上に、綺麗な身体だな」 太乙の悲鳴には耳を貸さず、玉鼎はそこにあるすぼまって更にその奥で、恥ずかしさにヒクついている場所に、指を伸ばす。 「あ…っ、ああっ、いやー、そんなトコ……っ、さ、触らないでぇー｣ 「触れなければ、出来ないだろう？」 そんな事は、わかっている。判ってはいるが、太乙は叫ばずにはいられない。 「ひっ！」 突然、玉鼎の指が太乙の内部に入れられ、太乙は悲鳴を上げる。 「……いや…あ、だめ……だめぇー」 他人に、そんな所に指を入れられるという、屈辱と恥ずかしさが、太乙の理性を奪い始めていた。先ほど赤かった顔は、今は耳どころか首まで、朱に染まっていた。 そして、結局は無意識に、その指から逃れようとして、腰を揺らす。 だがその事が逆に、玉鼎の指を、奥へと導く事になってしまった。それは、太乙に羞恥心と苦痛を与えたに過ぎなかった。 「あ……ああ！」 「やはり…キツイか。だが……｣ 太乙の動きに合わせつつ、玉鼎は自分の指先を、細かく振動させて更なる侵入を果たす。事前に指には、潤滑油のつもりで、オイルも塗ってあった。 「ひ…ひあ……や、や…あ……｣ 玉鼎の指を押し戻そうと動く内部は、指をきつく締め付け、その様子に、玉鼎は後の事を考え、意味ありげに笑う。その動きを逆手に取り、一瞬力が緩んだ時を逃さず、指を奥へと進め、太乙の感じる所を、探し出そうとした。 「あ……そ…そんな……」 今までにない、艶めいた声を太乙が出すのを、玉鼎は逃さず、その部分を中心に、指を動かす。 そして、玉鼎はさらに潤滑油をつけ、二本目を挿入しようと、試みた。 「ああ……そんな……無理……｣ だが、無理だと思っていたはずのモノは、玉鼎の絶妙な指使いで、キツイながらも、何とか入ってしまった。 「ほう……初めてだと言うのに。これなら私も、楽しませてもらえるな。それとも……経験があるのか？」 玉鼎は、太乙の恥辱心をあおるような事を言う。 「そんな事っッ……あっ、ああー、も、もう…いや、い、いや｣ 太乙の言葉は、また玉鼎が動かした指のせいで、掻き消された。 「もうその言葉は……聞かぬ。お前は、私にその身体を売ったのだ｣ それは、変えようのない現実。 どんな大義名分をあげても、その事実は変わりなく、そんな要求をした玉鼎が卑怯と言えばそれまでだが、その要求を受け入れたのは、自分だ。 「ああ……いや、も、もう…それ以上……いれないでぇ」 「何を言う？それに……お前が感じる所は、もっと……奥だろう｣ 玉鼎は、そうやって太乙を弄りながら、指を進める。 その指が、太乙の最奥に届いた時、今までとは違う、また新たな感覚が太乙に生まれた。そして、明らかに感じていると言う声をあげる。 「ほーう。ここが、感じるのか？」 笑いながら玉鼎は、そこを中心に、指を動かす。小刻みに震わせながら、回し、時折強く擦り付けた。 「ああ……あふ、ああー」 そして、指を動かしながら、玉鼎は太乙の中心にある、先ほどまで萎えていたモノを、すっぽりと咥えた。その舌と口全体を使って、愛撫し始める。 「あ…あ…あ……ひぁ……い、いい…｣ 後ろが、だんだん気持ち良くなって来た上に、前の方までそんな事をされた太乙の口からは、押さえきれない声が、更に紡ぎ出される。 「あ……ふ、ひ…あ、あん…あ…い、いい……いや……い…あ」 時折拒絶の言葉を吐くものの、太乙はすっかり玉鼎の手管に溺れていた。 「あ、あー」 そんな彼に、満足した玉鼎は、一端彼自身を口から解放し、指の方も、中の壁をわざと刺激しながら、引き抜いた。 「すっかり……感じているではないか。お前が、こんな淫乱だとは……な｣ 「あ…そ、そんな…｣ そう言う太乙の表情は、今までに玉鼎の与えた刺激で、すっかり上気しており、そんな否定の言葉は、少しの真実味もなかった。 「楽しませてもらうぞ｣ 「あ……」 だが勿論、それ以上の拒絶の言葉を、太乙が言えるはずもなく、目を閉じ、震えながら玉鼎を待った。 そして再び、先ほど玉鼎に指で犯された場所に、硬く熱い物が当たり、やはりそれに塗りこまれた潤滑油の力を借りて、ゆっくりと入って行った。 「太乙。力を抜いて……お前も…楽しめばいい｣ 「あ、そ…そんな……あ、い、いやぁ」 太乙は、玉鼎の入ってくる感覚に、熱さが身体を支配し始めるのを、感じた。 玉鼎は、まるで太乙の全てを知っているかのように、彼の内部を蹂躙する。 「あーああ、い、いいっ」 こんな格好で縛られ、しかも玉鼎にいい様にされながらも、太乙の口から出るのは、嬌声のみだった。 「太…乙……｣ そして、玉鼎の口からこぼれるのも、先ほどの嗜虐的な言葉ではなく、切ない、相手をいとおしむ声だった。 「……これで、約束は、守ってくれるよね」 全てが終わって、その縛めから開放されると、太乙は辛そうに身支度をしながら、念を押す。 「…おや、懲りなかったのか？」 「……仕方がないじゃないか」 玉鼎の方も見ず、太乙は吐き捨てるように言う。 「その代わり、きちんと約束は履行してもらうからね。もう、明日から、機械の調整に入るから……｣ 「……そう言えば、まだ、計画の説明を、聞いてなかったな」 「いいよ！追々するから。もう今日は、君の顔を……見たくない」 「……嫌われたものだ」 苦笑しながら、玉鼎は言う。 嫌いでもなんでも、仕方がない。これから百年、いや、実質は自分が返す分も含めれば二百年、彼に付き合わなければならないのだ。 早く…早く終わらせて、彼の仙力を、もらって……。 そうしたら……。 そうしたら、玉鼎は……。 自分の洞府に帰る道すがら、太乙は、漠然とそんな事を考えた。 既に夜になっていた崑崙山の空気は、ひどく冷たかった。 |