世紀の恋【３】「もっと、出力上げてよ｣ 「……無理だ」 そして次の日から、太乙の洞府のラボで、宝貝作りのための研究が始まった。 まずは玉鼎の仙力を測るために、ラボの測定機で、玉鼎に力を出してもらっていた。 だが、玉鼎の出力値を見て、太乙は駄目押しをする。 「こんなんじゃ、間に合わない」 「お前は、私を殺す気か？」 これでも、かなりの仙力を放出しているのだ。一瞬なら出せなくもないが、長期に渡って、その力を出さなければならないとなると、かなり難しい。そんな、憎まれ口の一つも、叩きたくなる。 「……そんな事、出来る訳ないだろ」 玉鼎の言葉を受け、太乙は半ば悔しそうに、言う。 「そうだな。この封神傍が出来るまでは、お前には、私が必要なのだからな｣ 「……」 玉鼎の言い様にも、太乙は返す言葉もなく、とりあえずも今日の実験は終了する事にした。太乙は太乙で、機械の大量生産のための、準備をしなければならない。 玉鼎にも、測定機から出る様に言い、出口に向かおうという時だった。突如、玉鼎が太乙を抱きしめた。 「やめてよ。今は……」 「……わかっている」 「……こんな実験の合間に……何しようって…｣ 「少しは…前払いをしろと、言っただろう？それとも、それ程時間が気になると言うなら、メモでもつけたらどうだ？○月×日何時から何時まで……とでもな｣ 「……玉鼎」 玉鼎の言い様に、太乙は眉を顰める。だが確かに、多少の前払いをしなければ、彼にフェアではない。 「本当に、娼婦のようだな。金の代わりに……仙力で払えと？｣ 「……！！」 そう言われて、太乙はカッと、顔を朱に染める。一体、誰の為にこんな事をしていると思うのだ。 「したければ……すれば」 投げやりな気持ちで、太乙は言う。 「そうさせて頂こう」 相変わらずな太乙のもの言いに、玉鼎は内心苦笑しながら言い、太乙を抱きしめていた手を解いた。 「私は……どっちでもいいが。お前がここでやるのがイヤだというのなら、金霞堂に帰ってもいいが……」 「……いいよ。ここで」 そう言って太乙は、着物の帯を解いた。 「……太乙」 「どこだって同じだろう？それとも……きちんと寝室へ行く？｣ 「……私は、どこでも構わないが」 玉鼎は言いよどむ。 「その、椅子の上でも、私はいい。だが、こんな所でやると……お前が…ここで実験する度に、思い出すのではないか？｣ 「……！｣ そんなのは、寝室でやろうが同じ事なのだが、確かに、太乙が一日の大半を過ごすこの場所でと言うのは、その確率が高い。 「…で、どうする？」 更に聞く玉鼎に、太乙は無言で、寝室の方に歩き出した。 「……！！」 だが、その太乙の身体を、もう一度玉鼎が後ろから抱きしめた。 「夕飯くらい……食べたらどうだ？」 「……それって、君の要求？｣ 「…そうだな。確かに腹が減った｣ 事務的に言う玉鼎に、やはり事務的に、太乙が食堂に案内をする。 食卓を囲むと言うのが、太乙にはとても久し振りだった。他の仙人は、弟子がいるので、大概その弟子と寝食を共にするのだが、弟子のいない太乙は、全てが一人だった。 だから、太乙は日常生活のほとんどに、ずぼらを決め込んでいて、生活時間は不規則の一語に尽きたし、食事を忘れる事も、しばしだった。 桃しかないと言う太乙に、玉鼎はしばらく待つ様に言い、庭から食べられそうなハーブや木の実を集め、簡単なサラダと、ハーブティーを入れて見せた。 「……」 「さっさと食え」 あまりの手際の良さに、あっけに取られていた太乙に、玉鼎は声をかける。 「……あの」 「言っておくが、お前のためなどではないぞ。こっちはかなりの仙力を使っているんだ。エネルギーの補給をしなければ…やってられん」 「……そんなら、仙桃エキスでも、飲めばいいじゃないか」 ボソリと言う太乙を、玉鼎は睨み付けた。 「そうやって、薬に頼っているから、お前は栄養が足りないんだ」 「……」 言い返す材料もないので、太乙はちょっと膨れながら、食事を口に運ぶ。 「……風呂を、借りてもいいか？」 「……いいよ」 食事が終わって、更なる要求をする玉鼎に、太乙は投げやりな口調で答える。彼が、ここまでずうずうしいとは知らなかった。 ただ、彼を本当に、遠目でしか見ていなかった太乙は、こんな風に“日常”する玉鼎に、新鮮な驚きを覚えた。いくら仙人とはいえ、生活していく以上、修業している以外は普通の人間と同じだ。だが、そう言う意味で、玉鼎がそう言う風にしているのを、想像した事などなかったのだ。 「…何だ？」 自分の顔を、まじまじと見つめる太乙に、玉鼎は声をかける。 「あっ、ごめん。何でも…ない」 「お前も、入れ」 「えっ？いいよ！私は……」 「先程、裏に風呂場を見つけたのだが……あそこなら、二人くらい入っても十分広い｣ 「だ…だから、私は後で入るから｣ 拒む太乙の腕を掴み、玉鼎は風呂場に向かう。 「時間が、もったいない」 玉鼎はそんな事を言い、太乙にそれ以上有無を言わせなかった。 その言葉に、太乙は頬を赤らめた。もっとも玉鼎には、それ以上の気はなかったのだが。 「お前は……後でなどと言って、結局、入らなそうだしな」 「……」 当たっているので、太乙は返す言葉がなかった。 ぼーとしている太乙を急き立て、服を脱がせて湯船に浸からせると、やはり緊張していたのか、太乙は気持ちよさげに息をつく。 太乙は湯船の端に腕を乗せ、その上に顎をついて、目の前で身体を洗う玉鼎を、ボーっと見つめた。確かに綺麗な身体だなぁと思う。武人として、十分な身体を持ち、普段はあのゆったりとした服に隠れて見えないが、鍛えた、それでいてしなやかな筋肉は、見ていて惚れ惚れする。 「……」 それに比べて……と、太乙は己の貧相な身体に、コンプレックスを持った。勿論、太乙の能力は、そんな所にはないし、仙人はひ弱そうに見える者が多いのだから、悲観する事はない。どちらかと言うと、玉鼎の方が稀有なのだ。 「なんだ？」 太乙の視線に気がつき、玉鼎が振り向く。 「……別に」 ちょっと拗ねたように、太乙が答えると、玉鼎は身体の泡を流し、太乙の入っている湯船に近づく。 「いい加減に出ろ。のぼせるぞ」 お湯から出そうと、玉鼎の手が、太乙の腕を掴む。 「い、いいよ。自分で出るから｣ 太乙がそう言うと、今度は玉鼎の方が、太乙の入っている湯船に、入ってきた。 「……えっ？えっえっ？？？｣ 状況を理解するより先に、太乙は玉鼎に、身体ごと抱きかかえられた。 「あ……ちょ…｣ 「暴れるな。あぶない」 短く言う玉鼎に、逆らえずにいると、太乙は風呂場のマットの上に降ろされた。 気が付くと、目の前に、石鹸を持った、玉鼎がいる。 「洗ってやろう｣ 「あ……あの」 さっきから、きちんとした言葉を言ってない自分に、情けなさを感じながらも、太乙はやはり、中途半端な抗議しか、出来ないでいた。 「い……いいよ｣ やっとの事で、言ったものの、あっさりと無視され、泡を付けた玉鼎の手が伸びてきた。 「大人しくしろ」 「あ……ああ」 玉鼎の手は、太乙の胸から脇へとすべっていく。 「……っっ」 戸惑う太乙をよそに玉鼎は、時折新しい泡を立てては、太乙の身体を、石鹸塗れにしていった。 「あ……ああ、ちょ…」 「思った通り、感じやすいな」 「…あ……ちょ……まさか…ここ…で｣ 玉鼎の言い様に、太乙はイヤな考えが頭をよぎり、怯えながら聞いてみる。 「お前の事だ。このまま戻ったら、寝そうだからな。どうせだから、ここでやらしてもらおう｣ 「ちょ……そんなの、約束…してない」 「おや。私のこの手の要求は、聞いてくれるのだろう？どこでも同じではないか｣ 「で……でも」 「それともこのまま、もう一度研究室に戻るか？あそこなら、楽しい器具も、色々ありそうだしな｣ 「……そんな」 先程、結局は太乙自身が却下した考えを、玉鼎は意地悪く言う。太乙は、どっちがましか考えつつも、言葉に詰まった。 「……わかったよ」 「……交渉成立…だな｣ 結局は、太乙は玉鼎の要求を、飲まざるを得ないのだ。 「……あ…ああ」 今度は容赦なく、玉鼎の手が太乙の身体のあちこちを這いまわり、太乙は甘くなる声を、押さえる事が出来なくなってきた。 マットの上に座った太乙を、全て泡まみれにすると、今度は後ろに回り、太乙の前を弄ぶ。 その手が、胸の辺りを撫で回し、赤い実を指先で刺激する。 もう片方の手が、やはり前で、ゆっくり硬くなりつつある太乙自身と、その麓の実を、柔らかく揉む。 「あ……んふ、あ…ああ｣ 足に滑らせた手も、洗うと言うより、愛撫そのものだ。 先程まで少し寒いくらいに感じていたのに、加えられる愛撫と、湯気で、太乙はだんだん、身体が熱くなるのを感じた。 「あ、あふ…ん……んん｣ そして、前をいいだけいじられ、あっさりと達かされる。 その瞬間、太乙は身体を突っ張り、玉鼎の与える快楽を、全て受け入れていた。 「あ……ん、はあはあ……」 荒い息をつきながら、玉鼎にもたれ掛かると、彼は優しく、身体中の泡をお湯で流してくれた。 「あ……ありがとう」 「おや、そんなによかったか？」 「…そうじゃ…なくて！」 「冗談だ。わかっている」 短く言うと、玉鼎は今度は太乙の髪を洗い出した。 「……あのねぇ」 「暴れるな。目に入るぞ」 「……」 太乙は、とにかく痛い事はイヤなので、玉鼎にされるがままになっていた。手際よく洗われ、ついでにリンスまですると、簡単に髪を拭いてくれた。 「……ん」 気持ちよさとけだるさで、太乙はうとうとし始める。 「まだ…だぞ」 気持ちよくなって、自分に寄りかかっていた太乙の耳もとに、少し冷たさを含んだ声音で、玉鼎は言った。 「……な…なに……」 見ると、玉鼎の手には、小さな瓶が握られていて、そこからとろりとした液体を、手の上に出していた。 「あ……それ」 言う間もなく、秘所に手を伸ばされ、その透明な液体を塗り込められた。 「やめ…てよー」 「気持ちよくなる薬だ。それに、あまり濡れていないと、きつかろう？｣ 「は……う…ふ｣ まったく、こんなモノを何時でも持ち歩いているのかと、太乙は聞いてみたくなったが、身体は、それ所ではなかった。 玉鼎のしっかりとした指が一本、自分の中に入っているのを感じ、太乙の身体は、逃げようとする。 「逃げるな……」 容赦なく、玉鼎の言葉が太乙の行動を制止し、更に彼を、マットの上に四つん這いにさせた。 「や、やめてぇ」 玉鼎の片足が、逃れようとする太乙の足を封じ、太乙の内部に入っている指をもう一本増やす。 「あ……ああぁ」 無意識にも、声が漏れる。それに呼応するように、玉鼎の指が太乙をもっともっと、責め立てた。 「や…いや……ああ」 「それだけ感じて、その台詞はなかろう」 冷たい調子で言い放つと、指を引き抜いた玉鼎は、己の欲望を、突き立てた。 「……っ！ああーーー！」 悲鳴とも、嬌声とも付かない声が、浴室に響いた。 腰を掴まれ、逃げられない状態で、太乙は何度も彼の欲望をその身に受けた。 マットレスに顔を付け、苦しい息をしながら、太乙は陵辱を享受する。それでも、太乙には、拒む術はないのだ。 「ああ……あふ……」 身体を揺さぶられ、太乙の意識は、すでにない。ただ、与えられる感覚に、反応を返すだけだった。
|