|
【６】 ＊＊＊ 「玉鼎……」 開いたドアの向こうには、当然の様に玉鼎が立っていて、太乙は少し安心した声を出す。 「……だって、ひどいよ。こんな風にして……放っておくなんて……｣ 「……そうしなければ、逃げるだろう？」 ツカツカと、玉鼎は太乙の縛られているベッドに近づく。 「……『待っていろ』…って、メモでも残してくれれば…いたのに」 「……」 太乙の、あまりにしおらしい態度に、玉鼎は怪訝な顔をする。 「どこ…行ってたの？」 何よりもそれが気になって、太乙は聞きたくないと思いながらも、口に出してしまった。 「……公主…の、所だ」 少しばかり、答え難そうに、玉鼎は言う。 それを聞くと、太乙は諦めた様に微笑んだ。 「……公主のことは……大事にしてね｣ 「……！」 目を伏せ、太乙は寂しそうに言う。 玉鼎は、彼女の母親の事で相談を受けに行っただけだ。太乙が考えているような、艶っぽい話は何もない。もっとも、そう彼に信じ込ませたのは、玉鼎自身なので、彼は複雑な気持ちになる。 「私には……何してもいいし……言うことも聞くから、公主には、優しくしてね」 そんな言い方をされ、玉鼎は酷い罪悪感が、湧きあがるのを感じていた。そして本当は違うのだと、言いそうになる自分を、何とか押さえる。 「わかっている。お前が……私の側に…いる間は……｣ 玉鼎の声が、途切れがちになる。 本当に、太乙はそれでいいのだろうか。それでもいい程、公主の事が好きなのだろうか。 それでも、あまりにも太乙がしおらしく、可愛い表情を見せるので、玉鼎は彼を楽にしてやろうと思った。 そうすれば、もう少しは穏やかな気持ちで、一緒に居る事も出来るのではないかと、夢を見たから……。 「太乙。……お前の中の…宝貝、取ってやろう｣ 「……うん。ありがとう」 太乙の手の鎖を外しながら、玉鼎は言う。太乙はそれに、礼まで言ってみせるので、玉鼎は更にやりきれない気持ちになる。 「……会議の後も…運んでくれたんだよね。そう言えば、私の黄巾力士は…どうしたの？」 自分の身体は、玉鼎が運んでくれたが、太乙の乗り物である黄巾力士は、会議室の広場に、置きっぱなしのはずだ。 「きちんと持ってきている。心配するな……｣ 玉鼎は、太乙を一旦ベッドに起き上がらせ、手首に傷がないかを見ながら、そう言って彼を安心させた。 「……ありがとう」 「……礼を言う…必要は……ない」 「あ……の、本当に…取ってくれるの？」 「安心しろ。気持ちよくして……取ってやる｣ 玉鼎は、太乙に着せていた部屋着に手をかけ、無表情で言う。 「そんな……。普通に…出してよ｣ 「ほーう。私の言う事を、聞くと言ったのは…嘘か？｣ 少しばかり、からかうような口調が、一瞬太乙の頬を染める。 「……あ」 玉鼎が、太乙をゆっくりと、ベッドの上に押し倒した。 「大丈夫だ。痛くしたりは…しない｣ 「玉鼎？」 時折、玉鼎がこうして見せる優しさが、太乙には不思議だった。きっと彼は、自分の事など、オモチャ位にしか、思っていないはずなのに。 「…ん……」 気がつくと、優しいキスをされて、太乙は一瞬、うっとりとなる。 玉鼎の手が、太乙の服を滑り落し、肌を優しく愛撫して来た。 「…玉…て……ぇ｣ 首筋から、耳たぶへと、優しくキスをされる。その感触に、うっとりとなりながらも、太乙は不安になる。 「あ…あの、いいんだよ、玉鼎。さっきは…あんな事を言ったけど……私、我慢するから。こんなんじゃ…なく……いつものように……｣ 「……っ！」 言われて玉鼎は、ビクリとして、太乙の顔を見る。 そう言う割には、怯えた表情と瞳をしていて、それが、玉鼎を、余計悲しくさせた。 「では……そうさせてもらおう」 言いつつも、彼の舌は、太乙の肩を這い、下へと降りていく。 「……っ！」 その唇が、太乙の胸の紅い実にたどり着くと、玉鼎の白い歯がそれを咥え、軽く噛む。 「あっ！」 一瞬痛みが走ったものの、それと同時に、熱く甘い感覚が生まれ、思っても見なかった声が出て、太乙は戸惑った。 「……」 そんな自分を感じていたくなくて、太乙は目をつぶる。 すると、それを合図のように、太乙の中の機械が動き出した。 「あ……んんっんー」 どうしていいかわからず、太乙は声を殺して、相変わらずの甘く切ない感覚に、耐えた。 だが、いつもと違って、玉鼎が先程鎖を外してくれたために、手が空いている。その手で声が漏れないように、口を塞ぐ。 「そのままに……していろ｣ 「……う…ん｣ 相変わらずの、人を支配するような、冷たい言葉で言われて、太乙は安心する。 いつもの、自分の知っている…いや、自分の前でだけ見せる、その態度は、太乙の記憶と変わりなく、それが何時の間にか、普通となっていることに、少しばかりの寂しさを感じながら。 太乙は上げていた手を下ろし、それでも自分の頭の側のシーツを握り締めた。 腰が揺れて、太乙は切ない声を出す。 「……ん…あ…あふ…あ……も、もう｣ 腰からじわじわ広がる快感に、太乙は意識がとろけそうになる。更に、こぼれる自分の声に、もっと煽られた。 気が付けば、太乙のモノが、昂ぶっていた。 「…太乙」 優しく、切なげな声で呼ばれ、目の前の玉鼎が前をくつろげていた。見ると、玉鼎のモノも勃っていて、その様子に、太乙の身体は熱くなった。 玉鼎が、首筋に唇を押し当て、キスマークを付けていく。その間にも、唇と舌と、軽く歯を立てられ、太乙の肌は、紅潮していった。 甘噛みとキスを、交互に繰り返され、無骨なはずの手が、優しく肌をたどり、太乙は甘い声を出す。 その気持ちよさに、太乙の意識がさらわれそうになったとき、玉鼎の歯が、すかっり立っているピンク色の乳首を噛み、太乙は悲鳴を上げる。 気が付くと、太乙の内部にいた宝貝は、外に出ていた。 「そんなに……気持ちよかったか？」 玉鼎は、太乙の中から出たモノを、サイドテーブルに、コトリと置いた。 「こんなに…濡らして」 玉鼎の言う通り、それは、すっかり濡れていて、部屋の照明に、イヤらしく光る。 だが、それに反応する間もなく、玉鼎の手が、太乙への愛撫を再開した。 「あ……ああ…ふ……ん｣ 自分の反応を揶揄されても、太乙は揺れる身体と嬌声を、押さえられなかった。 玉鼎の指が、コリコリと太乙の紅い実をもてあそび、彼の行動は、太乙を、気持ちよくさせるだけで、その優しくされると言う行為に、太乙は戸惑っていた。 そのうち、太乙の思考が白濁したころ、玉鼎が太乙に囁いた。 「……いいな」 「…え？」 応える間もなく、玉鼎のモノが侵入してきて、太乙は軽い抵抗を示す。 「太…乙」 それは、いつもの冷たい声ではなく、あやすような優しげな声だったので、逆に太乙は怖くなって、力を抜いた。 その様子に、玉鼎のモノは、奥まで入り込み、太乙は喉の奥で、悲鳴を上げる。 「…痛いか？」 「あ……ああ」 その聞き様が、いつもと違うので、太乙はどう答えていいかわからず、縋るような目で、玉鼎を見つめる。 「痛い……のか？」 「……大丈夫…だよ…」 もう一度、玉鼎が聞き、太乙はともかくも、答えを返した。 「そうか……」 その言葉を合図に、玉鼎の腰が動き出した。 あくまで、ゆっくりと。 太乙は、その感覚に、知らず知らずのうちに、玉鼎を締め上げた。 「力を抜け」 「……あ」 いつもの様に、太乙に命令し、彼を蹂躙する。 「あ……ああ」 それでも、縛られていない太乙は、どうしていいかわからず、先程命令された事を、忠実に守っていた。 つまりは、両手でシーツを、握ったまま。 「あ……あふ……あっ…」 「キツイか？」 「ち…違う…よ…いい……あ、ああっーー」 ゆっくりと淫猥な音を立てる秘部は、いつもと違い、じんわりと熱くなってくる。 戸惑う太乙をよそに、玉鼎は容赦なく、太乙を高みに追い詰めて行った。 「……ん」 玉鼎が達し、太乙の中に欲望をぶちまけた後、荒い息を付きながら、彼は太乙の上に、覆い被さった。 太乙の方と言えば、何とか息を整え様と深い呼吸を繰り返す。だがその手は、まだシーツを握り締めていた。 「……！」 その手に、玉鼎が優しくキスをすると、太乙は目を見開いた。彼の驚きなど無視した様に、玉鼎は口付けを続け、太乙の硬く握られた指を、ほぐしてゆく。 更にその手が、太乙の髪を撫でた。 「……玉鼎。何で……？｣ その様子に、不意に不安になったのか、ポツリと太乙が口を開く。 「何故？別に……よかろう？私の好きにしても｣ 「私に……こんなに優しく出来るくらいだから、公主には…もっと優しいよね」 その言葉に、玉鼎の手が止まる。 「彼女とは……寝てない」 「…あ、そうか。身体…弱いから……｣ それを知って、安堵する自分がいた。 例えこんな形でも、彼に抱かれているのは自分だけだと知って。 その事に気を取られ、太乙は玉鼎の言葉の矛盾に、気付かないでいた。 そんな様子の太乙を横目で見ながら、玉鼎はベッドを降りた。 「あの……」 「今日は……泊まっていけ。会議も…終わった事だし……よかろう？」 「……う、うん｣ 太乙は、別段断れる理由もなく、と言うより、断れなかったのだが、玉鼎の提案を、受け入れる。 そしてまた、彼の相手をしなければと考えつつも、その事に期待している自分も気が付いていた。 （や、やだなあ……私…） 先程見た夢を思い出し、太乙は自分の心の中が、わからなくなる。 自分は公主が好きだし、とても大事な筈だ。だからこそ、玉鼎のこんな理不尽な要求にも、応じてきた。 だから、公主の幸せを願おうと、願わなければいけないと、自分に言い聞かせてきた。 そして、もう一度、玉鼎を見る。 この、今の優しい玉鼎だったら、……あんな事がなければ、本当はもっと親しくなれたのではないかと、太乙は思う。 そうでなくとも、結局玉鼎と公主は付き合い続けているのだから、太乙がした事は、無駄だった事になる。 そこまで考えて、太乙は以前公主が言っていた事を思い出した。 「……あの、玉鼎って……私の事……」 「……何だ？」 相変わらず冷たい目で見られて、太乙はすくんでしまう。 「…うん、いい。ごめんなさい。そんな事……ある訳…ないし｣ 「何だ…」 もう一度、玉鼎がその表情のまま問う。 「いいよ……怒るから」 「…私が、怒るような事か？」 「……ご、ごめんなさい」 怯える太乙の上に、もう一度玉鼎がのしかかる。 「言ってみろ」 「…い……いいよ」 「言え…と、命令しても…か」 「あ……」 切るような玉鼎の瞳に、太乙は怯える。 「……だって」 実際、言おうが言わなかろうが、玉鼎は自分に酷い事をするであろう。だったら、言うだけ損ではないか。 太乙は、口を開いたものの、それ以上の言葉を、言おうとはしなかった。 「そうか……」 その様子にじれたのか、玉鼎は太乙から離れると、サイドテーブルから、何かを取り出す。 「…玉…やっ！やめてぇー｣ その手に握られていたのは、細めのベルトで、太乙は即座に、それが、自分を彼の思い通りにするためのモノだと気が付き、悲鳴を上げた。 「…公主の為に、何でもすると……言っただろう？なのに……なぜ、そんな態度を取る？だから、もう少し……付き合ってもらおう…」 「……あ…」 確かに、そうは言ったが、実際目の前にすると、太乙の身体中を、怯えが走る。 その様子を見て取ったように、玉鼎は手にしたベルトをテーブルに置いた。 「だったら言え」 「……で、でも言ったら、きっと玉鼎は……｣ 「聞かなければ、わからん」 「玉鼎は……」 まるで、デジャヴのようだと思った。以前も、こんなふうに、怖いと思いながら言った台詞は、あれは、この目の前の彼を、否定する言葉だった。 だが、これから言おうとしている事は……。 「玉鼎は、私の事が…好きなんじゃないかって」 「……なっ」 「だ、だから…ごめんなさいってーーーっっ」 「だ、だれ……誰が、そんな事を…｣ 不意をつかれ、かなり驚いた表情を、玉鼎はする。だが太乙は、玉鼎の怒りが怖くて、頭を抱えたままだったので、その表情には、気が付かなかった。 「…公主が……｣ 「…竜吉…公主…が…」 「だ、だから……そんなこと…ある訳……ないって……多分公主は、友人と言う意味で…言ったんだと……｣ 「……で、お前は、どうなのだ？」 「ど、どうって……？」 玉鼎の真意がわからず、太乙はおずおずと顔を上げ、困ったような表情を、相手に向けた。 「いや、愚問だったな。お前は…私が、憎いはずだ。おまえの好きな、公主を奪い、お前にまで、これ程ひどい事をしている私など……殺したいと思えども……｣ 「で、でも。あんな事がなければ、私達って…いい友人に…なれたんじゃないかと……思うんだ｣ 太乙は迂闊にも、先ほどの自分の考えを、口に出してしまった。当然、しまったと言う表情をする。 「……友人？」 玉鼎は、太乙の言葉を、鼻で笑った。 「お前は…私にあれほど酷い仕打ちをされながらも、そう……言いきるのか？」 「あ……っ、だって、あれは……私が、勘違いをしたからで……現に、君と公主は……それに、君は公主の事を、大事にしてくれているようだし…｣ 「お前を、弄ぶ代りにな｣ 「……」 いい加減、玉鼎は太乙が誤解したまま何度か口にする、自分と公主の仲が、疎ましかった。 「私は……」 本当に欲しいのは、太乙だけだ。 そして出来る事なら、彼も自分の心がわかっていて……自分が、公主の替わりに、太乙を欲しているのではない事を、わかってくれて……。 玉鼎は、太乙の瞳を避け、窓の外を見た。 外はすっかり暗くなっていて、明るい星が、いくつも瞬いている。 「私は……竜吉の方こそ、いい友人だと…思っている｣ 「……えっ？」 太乙は、玉鼎の言葉に、耳を疑った。彼は今更、何を言うのだろうと。 「彼女とは……」 「友人って……君はまだ、彼女の事を……そんな風に…」 「だからッ！」 もう、全てを吹っ切った玉鼎が、いきなり大声を出したので、太乙はびくりとして、口をつぐむ。 「だから、その事自体が、間違いなのだ。私と竜吉は、そんな仲ではない｣ 「それって……」 「私が…本当に…好きなのは……」 「それって、嘘をついてたって…事なの？私に…！」 「……」 玉鼎が答えられないままでいると、太乙はその頬をひっぱたいた。 「貴方は…」 太乙は、怒りで声が続かなかった。 「じゃ、じゃあ、あれは…何だったの？竜吉を……｣ 「だが、初めに勘違いをしたのは…お前だ｣ なぜ、こんな風に本当の事を言ってしまったのか、玉鼎自身にも、わからなかった。ただ、誤解されている事が辛くて、例え、彼の瞳が自分を見ているとしても、それが憎しみか怯えた感情しか向けられない事が、辛かった。 最初は、それでいいと思ったはずなのに。 自分を見ない、自分の思いに気付きもしない太乙が、例え憎しみの感情でも、自分に何かしらの想いを、向けてくれるのなら……と。 「もう、貴方の言う事なんか…きかない！！｣ 太乙は、手近にあった服を掴み、部屋を出て行った。 バタンッと、すごい勢いで閉まるドアを見る事もなく、玉鼎は立ちすくむ。 そして、星空の中を、太乙の黄巾力士が飛んでいくのが、見えた。 |