|
【１】 ＊ あまりの事に、太乙は絶句して、その先の言葉を、続ける事が出来なかった。 いつも通りの、うららかな崑崙山の午後だった。 今日一日の仕事も済み、相変わらずの仲むつまじさで、玉鼎と太乙の二人は、金霞堂でお茶を楽しんでいた。 二人は仲がいい。 その仲の良さは周囲の知る所だ。 別にあたり構わず、いちゃいちゃする訳ではないが、それに近しい状態には、よくなっていて、周りからは、ちょっとしたバカップル扱いをされている。 しかも、お互いがお互いを、綺麗だ／カッコイイ……と認め、惚れきっているので、それ以上は、他人が口を差し挟みようがなかった。 で、……だ。 そんな、アフタヌンティーを楽しんでいる中、それでも玉鼎が多少言い難そうに言った台詞に、太乙は驚き、二の句が告げなかったのである。 「……そ、それって、乱交パーティー〜〜……！！？」 言い換えた所で、やる事にあまり変わりはないのだが、それでも太乙は、多少は言いやすい言葉を選んだらしい。 そして、その台詞が、咎めるように尻上がりになり、驚いていた目が、次に三角になった。 「な、なーに、考えてるんだよぉーー！！！」 「い…いや、その……｣ 言い出した当の玉鼎は、太乙の剣幕にオロオロしていた。 「そんなに、私だけじゃいやなのかい！？」 「そ……そうではない。そうではなく、だな……｣ 「じゃあ、どういう意味なんだよー？？？」 そのうち、太乙の声は泣き声になって来た。 「ひどいよ、ひどいよー。あんなに私の身体がいいって、言ってたのにー。それとも玉鼎は、私の裸を他人が見て、触ってもいいって言うのー？｣ 「いい訳はない！他人に見せるなど、もったいない｣ 玉鼎は、やはりこちらもすごい勢いで、太乙の言葉を否定した。太乙の、綺麗で白い、白磁のような肌を、他人に見せたり、ましてや触らせるなんてとんでもない。せっかく、長袖長ズボンと言う、なるべく肌を出させないような、服装をさせていると言うのに。 「だったら……何でさー｣ 玉鼎の言葉に、少し気をよくした太乙が、ちょっとだけ泣き止み、横目でちらりと、玉鼎を見る。 玉鼎は内心、しまったと思っていた。 あんな事を言ったのは、勿論玉鼎が太乙に飽きたからではない。 玉鼎には、計画があった。ここで、この話の核心を、太乙に悟られてはならない。 一旦気分を落ちつかせ、玉鼎は居住まいを正した。 「だからな…太乙。タマには趣向を変えてヤろうと……｣ の割には、そこまでして言う台詞ではない。 「やっぱ、飽きたんだ……」 「そうではない。私は何時も、お前の事を考えている。お前がどうしたら、気持ちよくなれるかをだな……｣ 「だからって、何でそれが、他人とやらなきゃいけないのさー？」 「……その、それも一つの方法かと…｣ 「……そんなの、ないよー……｣ 「では、こうしよう」 未だ難色を示す太乙に、玉鼎はここぞとばかり、次の提案をした。 「他人を交えてと言うのは、ナシにしよう。その代わり…少し新しい事を試させてくれ｣ 「……えーと、それって……灯りを点けろ……って事？｣ 太乙は、明るい所で情事を行うのが好きではない。何時も、灯りを点けても、太乙がごねるので、玉鼎がまたいくつかを消し、結局は薄暗い部屋でやる羽目になる。 「それは……当然だ。大体、何時も言っているだろう？お前の身体は、とても綺麗なのだから、恥じる事はないし……」 そこまで言うと玉鼎は、唇を太乙の耳もとにつけ、囁くように言葉を続ける。 「その綺麗な肌を……お前は見せてくれないのか？」 「……う、うん。わかったよー」 少しばかり恥ずかしそうに、太乙はその事に付いては、承知した。 そして、もう一押しだと、玉鼎はほくそ笑んだ。 「それはそれとして、もう一つ、頼みがあるのだが……」 「……えー。まだ、あるの？」 「まだと言うほど、大した事は言ってないはずだぞ。乱交パーティーは…やめたのだし……｣ 「うーん」 太乙は、すっかり玉鼎のペースだった。それでも、またさっきみたいな事を言い出されるよりはましかと、ともかくも頷く。 すると、玉鼎の両手が、やんわりと太乙の両手首を掴んだ。 「……えっ？」 驚く間もなく、まるで両手を前で縛ったように、玉鼎がその両手を、合わす。 そして、戸惑ったまま、中を浮いている指先を、玉鼎がぺろりと舐めた。 「…あ……ああっ、何！？｣ 「感じるか？」 いいながら、今度は指先を咥え、先を舌で愛撫する。 「ちょ……あっ、ああ……」 「感じるようだな？」 「あ、あの……まさか…縛るの？」 「いいだろう？」 既に玉鼎は、太乙の手首を片手だけで掴み、もう一方の手で、彼を引き寄せていた。 「いいな？」 耳元で、ゆっくりと囁く。 「だ……って」 「大丈夫だ。痛くなどしない……むしろ、気持ちよくって、病み付きになる位にしてやる｣ 「……で…も」 「こんなに…感じているのに？」 「あ……」 何時の間にか、玉鼎が背中に回していた手は、ゆっくりと下へ降り、太乙の上着をたくし上げ、彼の敏感な部分をつつく。 確かに玉鼎の言う通り、そこは彼が触る前から、硬くなり始めていた。 「こ、こんな所で……」 いくら屋内とはいえ、今二人が座っているテーブルは、午後の日差しが降り注ぐ、テラスにあった。 夜でさえ、暗い所でやりたがる太乙にとって、こんなところでと言うのは、信じられないことだった。 「いいな」 逃げようとする太乙を捕まえ、玉鼎は念押しする。 「わ、わかったよー。わかったから、もう……｣ 太乙の言質を取って、やっと玉鼎は彼を解放した。 「で、でも、痛いのは、絶対、ぜーったい、いやだからね」 最後の念押しに、太乙は玉鼎を睨み付けた。 「大丈夫だ｣ にーっこりと笑って、玉鼎は太乙の頬に口付けをした。
|