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なんかいい気持ちで寝ていた太乙は、くすぐったさを感じて、重い瞼をこじ開けた。 ピントのボケた視界に、まず見えたのは、サラサラとした黒髪。 ゆっくりと焦点合って行く中、そこには綺麗な紫色の瞳があった。 「……あ、玉…鼎……？｣ 自分の記憶の中から、その姿に合致する仙人の名前を呼ぶ。 「……あ」 何か言う前に、口付けられた。 玉鼎の薄くて紅い唇が、まだよく状況をわかっていない太乙のそれに触れる。角度を変え、柔らな感触を与えた。 「ん……ああ」 その感覚に、知らずの内に太乙の口から喘ぎ声が漏れた。その開いた唇に、玉鼎が舌を滑り込ませる。 「んん……っっ」 びっくりして、相手を突き飛ばそうとした腕は、とっくに玉鼎に押さえ込まれていた。 逃げる舌を、玉鼎は追い詰め、絡め取る。 玉鼎は、太乙に口付けながら、もう片方の手で、服を脱がせにかかった。いやがっていたはずの唇は、いつしか玉鼎の愛撫に応えはじめていた。 「……あ…」 開放された唇から、太乙は切なく甘い声を出した。何よりも、先程の薬がまだ効いていて、頭がぼーっとする。 「太乙……」 そんな彼の耳元に、玉鼎は唇を寄せ、お得意の、いつも女性を口説くような優しい口調で、ささやき始めた。 「好きだ……愛している。いままでの私は、どうかしていた。お前が…こんなに美しかった事に気が付かなかったなんて……｣ よくまあ、臆面もなくこんな台詞が言えると思うが、少なくとも、この時の玉鼎にとっては、本心から出た言葉だった。そうでなければ、プレイボーイの、しかも女性専門の彼から、男を口説き落とす言葉など、出る訳もない。 そんな言葉を聞きながらも、太乙の方は、徐々に薬が抜けてきて、今自分が置かれている状況を、理解し始めていた。 「あ……ぎょ…く……鼎……」 回らぬ舌を、何とか動かし、押さえられている腕を振り解こうと、力を込める。 「いいから。私を信じろ……｣ 良くもないし、信じられる訳もない。 だが太乙は、玉鼎によりすっかり生まれたままの姿にされてしまっていた。それでも無駄な抵抗を続けた。 「暴れるな。酷い事は……したくない｣ 薬を盛ったうえ、無理やりやろうとしている事自体、酷い事だと思うのだが、玉鼎は意に介していない。 「ど…おして……私…を……｣ 「言っただろう。お前が…好きなのだ。だから……お前が欲しい。驚いたかもしれぬが、私の気持ちを……受け入れてくれ｣ 「……そんな…いきなり……」 「恋とは…突然訪れるものだ」 先程からの、この、背中がむずがゆくなるような台詞にも、太乙は文句を言いたかったが、それ所ではない。それに、先程のキスや、ここに至るまでの経緯で、玉鼎のテクニックには、感心するばかりだった。その気のない太乙でも、彼の口付けに、応えてしまったほどに。 （いけない。そんな事……きっと玉鼎は…何か…企んでいるんだから……） 太乙は、少ししっかりして来た頭で、自分に叱咤激励する。 「き、君は、この為に私を呼び付けたのかい？それに、君は……女性専門じゃぁ……｣ 「どちらでも、気持ち良い事には代りがない。そうか、太乙は初めてだな。では……｣ いきなり、玉鼎は太乙の身体を裏返して、うつ伏せにしてしまった。さらにその両手を後ろで縛る。 「ほら、この方が……君も気持ち良くなれる｣ 「……や、やだって……それに、何で縛るんだよぉ」 太乙を無視して、玉鼎は彼の髪を掻きあげ、現われた項に唇を寄せ、軽くついばむ。 「あ……」 太乙からもれた声に満足し、唇を耳の後ろに移動させ、舐めた。 「あ…い、いや……ああ」 甘い声を出しながらも、太乙は拒絶の言葉を吐き、玉鼎はその様子に、少しばかり困ったようだったが、すぐに、笑みを浮かべた。 玉鼎は、昨日雲中子からもらった薬の事を思い出したのだ。雲中子は変人だが、薬の調合の腕は確かだ。 太乙を縛っていた紐を、ベッドの柱にまで伸ばし、身動きできないようにする。そこを離れ、部屋の引き出しにあった香炉を取り出す。火を点け、十分に煙があがるのを確認すると、太乙の顔の側に持って来た。 「あ……けほっっ…な…何するんだよぅ｣ 「手荒な事をして済まない。だが、本当に私は……お前の事を、愛してしまったのだ。だから……二人で、気持ち良くなろう」 「何を……」 いずれにせよ、この身体の自由を奪っている薬が抜けるのを、待つしかない。 だが今の煙の香りで、太乙はまた、くらくらとし始めて来た。 抵抗の弱まった太乙を見て、玉鼎も、服を脱ぎ始めた。 「……！」 まあ、そうだろうとは思っていたが、玉鼎の見事な身体に、太乙はしばし見惚れた。彼が、自分自身に自信を持ち、何人もの仙女と関係を持ちたがるのも、当然だと思った。 （私……な、何を…考えてるんだろう……） 「痛くなどしない。安心したまえ」 玉鼎は、常備している香油の瓶を取り出し、指先にたらす。 「あ……ああ」 「冷たくはないと思うが。いつも、身に付けているからな。それとも、気持ち良かったか……な？｣ 彼の言う通り、人肌に温められた油は、潤滑油の役目を果たし、玉鼎の指を、太乙の中へ引き入れた。 「あ…ああ、い、いや……」 流石に手馴れたもので、太乙が痛いと思う間もなく、玉鼎の指が、太乙の敏感な所をほぐし、快感へと変えていく。 女性にも、こんな風に優しいのであろうが、その手管に溺れるのは、イヤだった。 「あ……あ…、んふ…っ」 それでも出てしまう声を、顔を枕に押し付けて殺し、太乙は耐えた。 「そんなに、我を張るものではない。気持ちいいのだろう？恥ずかしがる事はない……｣ 玉鼎は、何度も己の指に香油を垂らし、太乙の中を広げていった。その間にも、太乙の腰や背に、優しく口付けをする。 「男同士だからな。逆に言えば、どこが一番感じるか……良くわかっている。だから、そんなに我慢をしても無駄だし……緊張しないで……、私を受け入れるんだ｣ そんな事を言われても、素直に従えるものではない。そして、太乙は彼から逃れるように、腰を振る。だがそれは逆に、玉鼎を誘っているようだった。 「ふむ。女性なら、この位でいいのだが……｣ まだ、十分潤っていない太乙の秘部を指で責めながら、玉鼎はつぶやく。 「それでも……気持ちはいいようだな」 「……あっ！あああーーー」 玉鼎は、片手にもっていた瓶を傾け、太乙の中に、直接香油を注ぐ。その潤いを借り、更に奥へと、指を進ませた。 「あ…ん。んん……あふ…」 自分のくぐもった声と、玉鼎が内部を掻き回す音が、部屋に響き、太乙は更に恥ずかしさを感じ、顔が赤くなった。 「そろそろ…いいようだな。太乙…力を…抜いて……｣ 玉鼎は、猛っている自分自身にも、香油を塗り、太乙のヒクついてる部分にあてがい、力を入れる。 「ひ…ひ……あっーーあ」 「ほら。力を抜いて。気持ちよく、してあげるよ｣ 抵抗していたはずの太乙は、玉鼎に前を握られ、驚いた隙に、更なる侵入を、許してしまった。 「あ……い、いや……だめぇ」 「もう、ここまで入ったのだから、観念しなさい。それに……｣ 玉鼎は太乙の腰を掴み、もうこれ以上無理と言うくらいまで、自身を埋め込んだ。 「痛くは…ないようだしな」 イヤだとか、止めてくれと言う割には、太乙は痛がる言葉を言わなかった。そのことを指摘され、太乙は顔を赤らめる。玉鼎の言う通り、太乙は与えられる行為に、感じていた。 「ち…違うよぅ……い、痛いよォ……あ…もう……止めてよ…無理だって…ば…｣ もう、全て玉鼎のモノを自分の中に収めていながら、その台詞はないが、玉鼎はその状態で、動かないでいてくれた。 だが、それは、自分がひくひくと、玉鼎を締め付けている感触を楽しんでいるのだと、悟った太乙は、何とか力を抜こうとする。 が、既にその最奥に当たっている玉鼎のモノが、太乙の敏感な個所を刺激しており、思うようにはいかない。 「あ……あふ…、い、いやぁーーー」 何時の間にか、先程以上に艶を含んだ声が、太乙の口から漏れていた。それに合せる様に、玉鼎が太乙の背中や前を、愛撫する。 「もう……いいな」 「いや……いやだ、ああ……い…や…やめてー｣ 玉鼎の更なる念押しにも、太乙は応じない。だが、どう聞いても、すっかり感じているその声は、玉鼎を制止するには至らず、太乙自身も、もう何がいやなのか、わからなくなって来ていた。 玉鼎に、される事がいやなのか。 感じている、自分がいやなのか……。 そして、玉鼎が腰を動かし始めた。 「あ……ああ」 太乙は、後ろ手に縛られているため、身体を支えるのがとてもつらかった。その腰を、玉鼎の手が支える。そして、玉鼎が腰を動かし出すと、太乙は動きにあわせたような、悲鳴をあげた。 「だ……め、やめて、……ああ｣ その割には艶を含んでいる声に気を良くし、玉鼎は太乙の前を握っていた手を、扱き始めた。 「あ、ああ……い、いやぁーー」 今まで以上の悲鳴をあげ、太乙はあっけなく、玉鼎の手の中に、己の欲望を吐き出す。 勿論、玉鼎に、後ろから貫かれたままで。 「ほら。気持ち良かっただろう？」 ずるり……と、己のモノを引き出し、玉鼎は、放心してしまった太乙の顔を見ようと、彼を仰向けにさせる。 「太乙……」 玉鼎は、愛しそうに声を掛け、目の焦点の会っていない彼の頬に、軽く口付ける。そして痛くないようにと、彼を縛っている紐を外した。 「あ……｣ 太乙は、無意識のうちに声を出した。少しは正気が戻ったようだが、本人は身体中が弛緩し切ったままで、起き上がる事も出来ない。 「…玉…鼎……」 「随分と…気持ちよさげな声を、上げていたようだが……」 「……」 そう揶揄されると、太乙は返す言葉がなかった。 「今度は……お前の顔を見ながら…したいな。きっと、すごく良い表情を……するのだろう？」 「ーーーー！」 太乙が拒絶する間もなく、その口は、玉鼎のそれに塞がれ、相変わらず、うっとりするような口付けをされた。 両足を抱え上げられ、一度抜かれたはずの玉鼎のモノが、太乙の秘部に侵入する。 「あ……ああ…」 今度は、何の抵抗もなく、太乙は玉鼎のモノをすんなりと受け入れてしまった。そして、一旦納まったはずの熱が、またじわりと太乙の身体を熱くした。 「あ…ーーあ、はうっ…！ああん」 「さっきよりは、慣れたからな。今度はもっと、気持ち良いはずだ｣ 玉鼎は、ゆっくりと腰を動かし始めた。 「そ…そんなぁ。ぬ…抜いてよぅ」 「お前のここは……本当に、いい…よ」 太乙の言葉など聞かず、玉鼎は嬉しそうに、太乙の身体を抱きしめる。 「いや…そんな…コト……言わないでぇ……」 「何故だ？私は…誉めているのだよ。その声も…身体も……表情も……本当に…すばらしい。綺麗だよ……太乙…｣ 「……ーーーっっ！｣ 既に、太乙の身体は、玉鼎に抗う術もなく、あっさりと、陥落する。今度は、先程よりずっとタイミングよく、玉鼎が太乙の秘部を、突き上げる。 「いいよ……本当に…良い表情だ」 玉鼎の方も、熱い太乙の身体に溺れ始め、声も途切れがちになって来た。 「ひ……ひあ…い…いいやぁ…い…い…あああーー」 太乙の方も、いやがっていたはずの言葉は意味をなさなくなっていった。 「今度は……私がいかせてもらおう」 先程、玉鼎はまだ達してなく、太乙だけが、玉鼎のテクニックでいかされていた。そして、玉鼎の動きが速くなり、それにつれて、太乙の表情も、つらそうな、それでいて、感じているとしか言い様のないモノになっていく。 「太…乙……」 「あ…ああーーあんっ！」 太乙の中のモノが質量を増す。だが、すでにとろけそうな程熱くなっていた太乙の内部はそれを歓迎し、その中へ玉鼎は欲望を吐き出した。 フーと、玉鼎が満足そうな顔で、溜息をつく。 「本当に……気持ちよかった……ようだな」 嬉しそうな玉鼎とは対照的に、太乙は顔を背けていた。 「……」 勿論答えなど返さない太乙に、さすがの玉鼎も、自分がかなりヤバイコトをしてしまったと言う、認識をしだした。だが、太乙を目の前にして、欲しいと言う思いが、止まらなかったのだ。だから、太乙を、すっかり自分に溺れさせてしまわないと、自分の身が危ない。 「太乙……」 優しい口調で呼びかけ、太乙の髪を撫でる。 「太乙。これ以上…我慢をするな。本当は……感じているのだろう？｣ 「し、知らないよ……｣ そんな言葉を返しながらも、太乙の表情ははにかんだ様子を見せていたので、玉鼎はもう少しだと思った。何よりも、雲中子にもらった媚薬を嗅がせてあるのだ。自分を好きにならぬ訳はない。 「太乙……」 もう一度優しく囁いた玉鼎を、太乙は突如突き飛ばした。 「玉鼎…玉鼎なんか……大ッ嫌い！｣ そう怒鳴ると、太乙は、手近にあった服を掴み、ドアを開けて、出て行ってしまった。 「…………」 突然の事に、玉鼎はその姿を、見送るしかなかった。 |