|
【５】 「太乙……」 身体の下の太乙を、玉鼎は愛おしそうに見つめ、その髪を撫でた。 「あのね…玉鼎。優しくしてね」 「勿論だ」 玉鼎は、まるで初夜のようだと思った。この状況は、言ってみればそれと変わりない。その事に喜んでいる自分に、心の中で、先程とは違う意味で、苦笑する。いずれにしても、自分は修行が足りないようだ。 玉鼎は、軽くついばむように、太乙に口付ける。そして、それを更に深いものに、変えていった。 「…ん、あふ……」 玉鼎の口付けで、太乙は身体が熱くなってくるのを感じていた。熱くって、とろけるようで、緊張していた身体は、少しずつほぐれていった。そして、目の前の玉鼎を、熱い目で見つめる。 「太乙、愛している」 玉鼎は、その唇を首筋に移動させ、そこをたどり、鎖骨まで降ろす。 「…あ…ん……んふ…」 太乙の声に誘われるように、玉鼎の唇は、もっと下まで降りていった。 「あんー。くすぐったい」 時折、玉鼎が口付ける場所により、太乙はくすぐったがり、笑った。 「我慢しろ」 言いながらも、玉鼎の言葉は、優しかった。笑顔を見せながら、玉鼎は愛撫を続ける。 その反応は、本当に彼を最初に抱いた時のようだと、玉鼎は感じていた。こんな感覚を、もう一度味わわせてくれた状況に、少しだけ、感謝してもいいかもしれない。 太乙の服を、すべて脱がし、更に、自分のそれも脱ぐ。 ゆっくりと肌を合わせると、太乙の暖かさが、伝わってくる。 「愛してる……よ」 最近、こんな風に、ゆっくり時間を掛けて、彼を抱いていない事に、玉鼎は改めて、気が付いた。 実は、玉鼎はここに来る前に、ちょっとした“道具”を、持ってきていた。自分たちの部屋で、そう言うものを使うのは、少し気が引けていたので、折角こういう機会だから……と、用意をしていたのだ。 勿論、いきなり使うのは無理だが、一緒に持ってきたローションは、逆に使った方がいいように思う。太乙の中では、この行為は“初めて”なのだから。 「太乙……」 太乙の身体と気持ちをほぐす為、玉鼎は何度も彼の名を呼び、手や唇を、その身体に這わせる。脚も絡めると、逆に、そのなめらかな感触に、玉鼎の方が熱くなった。 「玉鼎……私…」 すっかり潤んだ瞳が、玉鼎を誘っていた。太乙の身体は、既に彼自身が勃ち上がり、その状態に、玉鼎は微笑む。 「あ……あの、私……」 「恥ずかしがる事はない。太乙…うれしいよ」 玉鼎の手が、太股の辺りをさまよう。そのじれったさに、太乙の腰が、ねだるように動いた。 その様子に笑顔を浮かべた玉鼎が、身体を下にずらして、太乙の腰の辺りに、口付け、舐める。 「あ、ああん……玉鼎…」 「太乙。まずは、達かしてあげよう」 「そ、そんな……」 「そうしないと、後が…つらいぞ」 言いながら、玉鼎はごそごそと、先程思いついた事を実行する為に、ローションを取り出した。そして自分は、淡い茂みの中にそそり立っている、太乙のモノに、唇を寄せる。 「…あっ、ああー」 まだ、軽くキスをされただけというのに、太乙は甘い声を出す。それが嬉しくて、玉鼎は脚の付け根から、ねっとりと唇を這わせ、合間に舌先で、嬲るようにつついた。 「ああ…ん」 太乙は、自分の出す声が、はずかしかったが、それが更に、自分をあおるのも感じていた。 「こちらも……慣らしておいた方が、いいな」 玉鼎は、先程取り出したローションを指に付け、太乙の可愛らしい秘部へと伸ばす。彼の膝を立て、その部分を露わにさせる。そして、玉鼎の唇は、太乙自身をくわえ、舌で柔らかく刺激しながら、その唇でも、それを扱く。 「ああ、玉鼎…で、出ちゃ…う」 「いいよ。太乙」 そう言うと、玉鼎は、また太乙をくわえる。 「あ…あん、……だ、だめぇ……ああ、玉鼎ぇーー」 太乙の腰が揺れ、悲鳴の中、太乙は玉鼎の口の中で、果てた。 「……太乙」 嬉しそうな顔で、玉鼎は太乙を見つめる。その間にも、玉鼎の指は太乙の内部を、ほぐしていた。 「少し……我慢しろ」 玉鼎は、太乙の中を濡らし、更に、自分自身にも、たっぷりローションを塗った。 「あ……」 「力を…抜いて……」 言いながら、もう一度太乙の身体を愛撫し、まずは、先っぽだけを、その場所にあてがう。 「あ…ん、ふ……」 力を入れると、太乙の協力もあり、何とか先端が収まった。太乙は、身体の方が反応し、玉鼎自身を、引き込むような動きをした。 「あーーあん、玉鼎……ああ…」 これほど、自分の身体が淫らだとは、思わなかった。確かに、玉鼎が言った事は、本当だったのかもしれない。 慣れている身体の反応に、とまどいながらも、太乙は自ら腰を動かしていた。 「玉鼎……」 太乙は、何時しか玉鼎に、しがみついていた。 そして玉鼎は、太乙の内部に、すっかり自身を。埋め込んでいた。 「太乙……愛している」 結局玉鼎も、我慢する事など出来ず、己の欲望を、注ぎ込んだ。 その後。ベッドの上には、すっかり果てて、気持ちよくなってしまった二人が、眠っていた。 「……」 太乙は起きると、無言のまま辺りを見回した。 「…えーっと」 とりあえず、起きあがりドアを開ける。 「太乙。起きたのか？」 そこには、彼の恋人の、玉鼎が座り、お茶を飲んでいた。 「……うん」 「支度をしてくるといい。朝食は、庭のテラスで取ろう」 「うん」 何故か、曖昧な返事をし、太乙は洗面所で顔などを洗い、着替えをする。 玉鼎の言うとおり、庭に出ると、そこにあるテラスのテ−ブルに、朝食が用意されていた。 「お前の好きな、中華粥だ。きちんと野菜でダシを取った、銀餡も掛けてあるぞ」 玉鼎は、太乙の好物がよく分かっている。記憶がないといっても、食べ物の嗜好は変わってないであろうから、彼を喜ばせるつもりで、そう言って見せた。 「……うん。ありがとう」 元気のない声で、太乙は返し、席について箸を運んだ。 「太乙。とりあえず、崑崙に帰ろうと思うのだが…」 太乙の元気がないのを心配しながらも、玉鼎はとにかく、当面の指針を話さなければと、口を開いた。 「……帰る？」 「ああ。昨日言ったであろう？お前は崑崙の仙人なのだ。ともかく、一度帰った方がいいと思う」 「……あの…さあ、聞いてもいいかなあー？」 言いにくそうに、太乙は切り出した。 「何だ？」 玉鼎はいつもの笑顔で、彼の方を見つめた。 「えーー、とさ。何で私、ここにいるのかなぁ？」 「……！た、太乙！？」 玉鼎はびっくりして、立ち上がってしまった。 まさか、彼は昨日自分が、一生懸命教えた事も、忘れてしまったというのだろうか。まさか、あの『忘却の実』は、そんなに強い作用があるというのか。 「……確か…さあ。私…天帝の所に…居たよねぇ」 「太乙！」 だが、玉鼎は、今度はうれしさで大きな声を出し、太乙を抱きしめた。 「…ちょっ…玉鼎？」 何が起こったか分からない太乙は、声を上げる。 「済まない。だが……」 一旦は謝りながらも、玉鼎はやはり太乙を抱きしめ続けていた。太乙は、これほど、冷静ではない玉鼎を見るのは、久しぶりだったし、玉鼎自身も、自らがこれ程、喜怒哀楽を激しくするとは、以外だと思っていた。 「だが……本当に…良かった。元に、戻って」 玉鼎は、太乙に頬ずりをする。 「あの、きちんと説明してくれないかなぁ」 とうとう、太乙が言うに及んで、玉鼎は彼と向き合い、またもや事情というか、自分たちの身に起こった事を、説明する羽目になった。 「一晩寝れば戻るんだったら、あれ程……」“大騒ぎする必要はなかった”のかと、玉鼎は少しばかり憮然とした表情で言った。 「……それは、わかんなかったんだから、仕方ないよー」 今度は、太乙が玉鼎をあやすように言った。太乙自身とて、あんな果実は知らなかった。生物学の得意な雲中子なら、知っているのかもしれない。 「心配させて、ごめんね」 太乙は、玉鼎の頬に、優しく口付けをした。 「あとさ、もういくつか、確認したいんだけど」 表情をあらためた太乙が、玉鼎を注視する。 「……何だ？」 「私……達、天帝の所からここへ、直接来たんだよね？当初泊まるはずだった、この宿に」 「そうだ」 「で、勿論予約入れてあったんだから、あんないい部屋に泊まって、勿論、おいしい食事も、食べたんだよね？」 「……ああ…」 「で、確か玉鼎、ここの温泉貸し切りに出来るって、言ってたよね？それにも入ったの？」 「……勿論だ」 玉鼎は、どんどん困惑した声になっていった。 「……エッチも…した？」 「……ぁぁ」 この質問には、さすがの玉鼎も、小声で返答した。 「…私、なーーーんにも、覚えてない！」 「太乙？」 「美味しい食事も、気持ちのいい温泉も、全然記憶がないんだよー」 次の瞬間には、太乙は涙声で、まくし立てる。その勢いに、玉鼎はたじたじっとなる。 「折角、楽しみにしていたのにー」 心底残念そうに、太乙は言う。 「天帝様に、文句言ってこようかなぁ」 「そ、それは、止めた方が……」 慌てた玉鼎が止める。勿論、こんな状況で太乙が天空城に行くなど、危険極まりない。 「わっかたよ。……ねえ、玉鼎」 彼の言葉で、それは思いとどまったのか、太乙は今度は何かをたくらむ表情で、玉鼎を見た。 「もう一泊…しよう」 「……あ」 「だってぇー」 太乙は、不満を露わにして、声を上げ、玉鼎に上目使いで“お願い”をする。 「私だって、楽しみたいよー。玉鼎と温泉入って、背中流しっこしたいよー。記憶がないんじゃ、意味ないもの」 うるうるとした目で見つめられ、玉鼎は折れた。 「だが……、原始天尊様には…何と……」 「それなら大丈夫！」 いやに自信ありげに、太乙は言った。 とりあえず食事を終えて部屋に戻ると、彼は荷物から小さな機械を取り出した。それは、小さな、プラモデルのような黄巾力士だった。太乙がお腹を開けると、丁度数本の竹管を入れられる空間が空いている。 「これはね、ちょっとした通信に使えるんだよー。これに、帰りがもう一日遅れるって書いて送れば、ばっちりさー」 全然ばっちりではないような気もしたが、玉鼎は仕方なさそうな表情で、溜息を吐いた。 「分かった。今、女将に頼んでくる」 「わーい。玉鼎、ありがとう！」 帰ったら、自分が教主に謝れば何とかなるかな…等と、玉鼎は算段しながら、フロントへ向かった。 「料金は、天帝様への請求書に、乗せていいからねー」 「……」 太乙の言いように呆れながらも、玉鼎はそれは良い案だと思った。後日、二人分の、しかも二日分の請求書が、天帝の所に送られた。
一応、終わり。
|