|
「おや。やっと来ましたね」 そこは、今や教主となった、ヨウゼンの執務室だった。アポイントなしに訪ねてきた太乙を、ヨウゼンはにこやかに迎える。 「あ……あの、頼みが、あるんだけど……」 おどおどと、太乙は言葉を切り出す。 「……あれ程、私の所へ来るように言ったにもかかわらず、ずっと顔も見せなかったというのに」 ヨウゼンは、机に座ったまま、意味ありげに手を組み、太乙を見据えた。 「やっと来たと思ったら、お願い…ですか？随分と、虫のいい話だと…思いませんか？」 「……そ、それは」 太乙は、無意識に自分の服を握りしめた。ヨウゼンは、表面こうやってにこやかに話してはいたが、その瞳は、自分を射るようだった。 「どうせ来るなら……こんな昼間でなく、そして、僕の部屋に直接来て欲しかったですねぇ」 「そ、そう言う事で、来たんじゃないよ……。その……通行証が…欲しいんだ」 やっとの思いで、ここに来た目的を切り出す。でも本当は、早くここを逃げ出したかった。 「おや。そして、神界にでも、逃げるおつもりですか？」 意地悪く笑いながら、ヨウゼンは問うた。 「そんな事、出来る訳ないじゃないか。ナタクが……ここにいるのに」 太乙がぼそりと言うと、ヨウゼンは今度は声を立てて笑う。 「成程。今や、彼があなたがここに居る理由ですか。いいでしょう。発行してあげましょう。……でも、何をしに行くんですか？」 「…う……、そ…それは」 「僕には、言いたくありませんか？」 「……そ、そう！十二仙のみんなに、会いに行くんだよ」 「……相変わらず、嘘が下手ですね」 そう。いつでも、彼には何もかも見透かされてしまうのだ。それでも、太乙は、本当の事を言いたくはなかった。 「……ヨウ…ゼン君……」 「まあ、いいでしょう。はい、通行証」 「……あ、ありがとう」 ヨウゼンが差し出す通行証を受け取ろうと、太乙は手を伸ばす。だが、その紙片を掴んだと同時に、ヨウゼンのもう片方の手が、太乙の手首を掴んだ。 「……あっ」 「誰が、ただであげると、言いました？」 「ヨ…ヨウゼン…君……」 次の瞬間、太乙の目の前に、ヨウゼンの顔があった。気が付けば、両手ごと彼に抱きすくめられていた。 「あ……ヨ…」 「相変わらず、いい表情をしますね。それに……」 太乙の抵抗など無視し、ヨウゼンはその肩に顔を埋める。 「とても……いい匂いがしますね」 「……や…め」 「どこがいいですか？机の上？それとも……」 「離れてよ。だ、誰か来たら……」 「そんな心配は、無用ですよ」 ヨウゼンが指を鳴らすと、扉が閉まり、更に鍵の掛かる音がした。 「ほら。これで誰も…入れません」 「……ヨウゼン君」 そんな会話を交わす間にも、太乙は彼の手によって、床に押し倒されていた。 「それとも、ソファの所にでも……行きますか？まだ、あそこの方が、痛くないでしょう？ただし……」 言いながら、ヨウゼンは太乙の首筋をなぶる。その感触に、太乙が堅く、瞳を閉ざすのを楽しむように。 「その場合は、ご自分で歩いて行って下さい」 「……ここでいい…よ」 太乙は、自分でそんな場所まで行くなど、まっぴらだった。そんな事をすれば、まるで彼が自分を抱くのを、認めたようではないか。 「では……」 そう言って、ヨウゼンは太乙の髪に、口付けた。
とりあえずえんど
|