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再会
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「あ〜、八高線…」 ぽけぽけと、歩いていた武蔵野線は、そこに八高線の姿を見つけて、声を掛ける 「おや、武蔵野線じゃない。どうしたの〜？」 八高線は、何だかいつも元気だ。元気というか、脳天気というか。 やる気がなくて、駄目ダメな武蔵野でさえ、やはり東上線に振替を頼むときは、気を使うし、申し訳ないとは思っているのだ。なのに、八高線の場合はどうだ。そのすがすがしい物言いが、いっそ諦めがつくと東上線に言われ、それに習って自分もあっさりと言ったら、小言を言われた。 不公平だと思う。 それとも、やはり年期の違いだろうか。 「…今、東上線に振り替え頼んできてさぁ…」 「あ〜、車両点検だっけ？さっき、電光掲示板で見たよ〜」 あの、駅にある掲示板の所為で、およそ自分のところは使わないだろう場所にまで、遅延の情報が伝わるのは、何とかならない物か。いや、神奈川の最果ての人間が、府中本町辺りに来ることも、あるかも知れないが…。 「そういう、お前は？」 「ボクの所は、通常運転だよ〜。今日は天気も良いしね」 そう。天気は良いのだ。素晴らしい運転日和。 なのに、ここでうだうだしているのも、ちょっと悔しい。まあ、仕事以外では基本動きたくない武蔵野は、このまんま日向ぼっこでもしたい気分だったが。 「ちょっと、予感が…してね」 「予感？何の？」 「待ち人来たる…ってとこかな」 「……待ち人？」 この、八高線を、わざわざ訪ねて来るなど、どこの路線だろうか。越生辺りが、逆に振替を頼むとでも言うなら解るが、そんな話は聞いていない。 「あ〜来た。篠山上官〜」 そう言って、八高線が手を振る先には、淡い色の髪をした長身の男。服は、象徴的な、高速鉄道のグリーン。 「え〜、マジっ」 武蔵野は、八高が呼んだ名前に疑問を持つことなどなく、ただただ、自分の苦手な高速鉄道のお偉方がいることの方に、びびっていた。 「何逃げようとしてるんだい？失礼じゃないか〜…」 逃げようとした武蔵野線は、その襟首を八高線に掴まれた。 「ごきげんよう、八高線。お言葉に甘えて、来たよ。あ、それからオレは…」 「ああ、すいません。今は、山陽上官でしたね」 言って、八高線は、サングラスを外す。 「無理はしなくて良いいよ、八高…」 穏やかに微笑む山陽は、恐そうな他の高速鉄道とは違うように、武蔵野には見えた。 「そっちは？」 じたばたしている武蔵野に気が付いたように、山陽は八高の隣に目を向けた。 「彼は、武蔵野線です。ほら、関東最果て同士で……」 にこにこと説明する八高に、武蔵野は頭を抱えた。また、この間みたいに、小言を言われるのは、御免だった。 「あ〜、彼が噂の、武蔵野線ね」 どう噂なのか、聞くのは恐かったが、その口調が面白がるようだったので、武蔵野はちらりと彼を見る。明るい髪に、やはり色の薄い瞳。その表情は、それ程険しくはないようだった。 「さっき、車両点検って見たけど、良いの？」 「あ、は……い。申し訳ありません。その、鋭意…復旧中で……」 腹を括って、武蔵野は山陽の前に出て、頭を下げる。 「まあ、君の所の車両も、古そうだからね〜。大変だなぁ…」 「あ…の、怒らないんですか？」 「何で？怒って直るなら、怒るけどさぁ…」 のほほんと言う山陽は、あの恐そうな高速鉄道の面々と、違う気がした。 「……ああ、直ったようだね。再開見込み…出てるよ」 言われて、電光掲示板を見上げれば、武蔵野線復旧の文字が流れる。 「……良かった」 「良かったね〜。じゃあ、武蔵野も一緒に来る？」 相変わらずの表情で、八高が言う。今のやりとりなど、気にしてないようだった。山陽が言ったからか、またメガネを戻していて、表情は解り難かったが。 「……どこへ？」 出来れば動きたくない。このまま帰って寝たい。 「八高線がね。ここら辺の、良い景色案内してくれるって言うから…」 「……それでいらしたんですか？」 ちょっとだけ慣れたように、武蔵野は聞いてみた。 「うん。なかなか来られなかったんだけど、やっと暇が出来てね。朝の伝言伝わったんだ」 「伝言？あ、お前って、伝書鳩だよなぁ」 「朝、東京駅で、Ｊｒに聞いたんだ〜。って、ボクだって、いつも伝書鳩ばかりじゃないよ〜」 「……そうなのか？」 疑わしそうな表情で、武蔵野は八高を見る。 「黒電話だってあるからね〜」 「「……黒電話なんだ」」 思わずハモった武蔵野と山陽は、顔を見合わせた。 「じゃあ、行きましょうか？」 結局、逃げるタイミングを失った武蔵野は、一緒に行く羽目になった。 「あ、ちょっと待って。奴…今……買い物してるから」 「え？まだ…誰か、居るんですか」 「あ〜、こっちこっち」 武蔵野への答えのように、山陽は手を振った。その先には、やはり同じ、グリーンの制服。 「…………げっ」 「あれは…東海道上官だねぇ」 呑気そうに言う八高の隣で、武蔵野は、このまま気絶できたら、どんなに楽かと思った。 |
続きます 2