再会２

＊

「あー、オレ…」
　東海道新幹線の姿を見たとたん、武蔵野線は、また逃げ腰になった。
「おや…」
　勿論、そんなことは許されるはずもなく、目の前の立ちはだかった東海道新幹線の視線に、武蔵野は小さくなるしかなかった。
「お前は…」
　片目を眇めた東海道は、何か記憶を探しているようだった。このまま思い出さないで居てくれればいいと思った武蔵野のささやかな願いは、当然のように破られる。
「…先程、車両点検で、止まっていなかったか？こんな所で何、油を売って居るんだ？」
「あの～オレのこと覚えて…」
「何を言っている？武蔵野線だろう？ここにくる途中、電光掲示板で見たぞ」
「東海道。それならもう復旧してるよ」
　気の毒に思った山陽が、助け船を出した。
「…そうか。それならいいが」
　それでも、まだ納得しないのか、東海道新幹線は、何かを考え込んでる風だった。
「って、お前その手に持ってるのは何？」
　その東海道に、今度は山陽が突っ込む。
「買い物と言ったろう。ここの土産物屋は安くて美味い」
「土産は最後に買えばいいのに…」
「何を言う。ここの土産物は、人気が高いから、午前中に売れてしまうのだ。折角ここまで来たんだから、手に入れたいではないか」
「お前…本当甘党だね」
　東海道の持っている袋には、ここの名物であろう饅頭の箱。
「東海道上官。この先にも美味しい羊羹を売ってますよ」
「おお、それはいいな。よし行こう」
　八高線の言葉に、東海道はテンションが上がる。
「…何しに来たんだ？東海道上官」
　ぼそりと武蔵野が呟く。
「こっちに来るって言ったら、付いて来るって言い張っちゃってさぁ。ごめんね～」
「……っ！あ……いえ…」
　つぶやきを聞かれたのか、突然の山陽の言葉に、武蔵野は焦る。さすがに、上官に謝られて、武蔵野は恐縮するしかなかった。
「山陽！行くぞ」
　声をかけられて、山陽はそちらに駆けていく。やれやれと思って歩き出した武蔵野の隣に、今度はいつの間にか東海道が立っていた。
「……～～～」
「そう言えば…君には、言いたいことが、結構あるんだがな」
「オレは…ないですぅ～」
　武蔵野は、そう言うのが精一杯だった。

＊

「なかなか来れなくってな…」
　並んで先を歩く、山陽新幹線と八高線は、積もる話に花を咲かせる。
「いえ。ゆっくりお話しできそうで、良かったです」
「あ、あれ…済まないね。その…」
　後ろを軽く振り向いて、山陽が言い訳をした。
「いえ。東海道上官にも…久しぶりにお会いできて、うれしいですよ」
「…ああそうか。こちらはこちらで…色々あったんだな」
「……はい」
　八高は、その件については、それ以上は語らなかった。

＊

「今日の車両点検と言うのは、何だ？日頃の点検が、なってないんじゃないのか？」
　東海道の話したいことは、やはりお小言で、武蔵野はうんざりする。
「は…あ。すいません」
「それに、ちょっとの雨風で遅延や運休というのは、ふざけた話じゃないのか？解っているなら、もう少し何とかしろ」
「……したいんですけど…」
「そのやる気のない返事は何だ？この間の言葉は、出任せか？」
「あー。って、それも覚えてるんですか？」
「覚えてる。君の誓いとやらを、期待していたんだがな」
「嘘をついたつもりは…ないんですが」
　もう、どう答えて良いかわからない武蔵野は、半ば投げやりでそう言った。
「…まあいい。これからも、努力してくれ」
　そう言うと、東海道は静かになった。二人並んで歩くと、居心地の悪いこと、この上ない。ちらりと、隣を見れば、少し険しそうな表情で、東海道が前を見つめていた。その視線の先には、山陽と八高が談笑しながら、歩いている。
「あの…二人…って」
「何か、古い知り合いらしい。まあ、山陽の奴も、古いからな」
　そう言えば、八高線も、自分よりはずっと年上な筈だと、武蔵野はぼんやりと思う。
　戦後生まれの自分には、解らないことも色々あるのだろう。
「あれ…山陽上官も東海道上官も、戦後の…ですよね」
　実際、自分たちの外見は、年相応ではない。良い例が、越生だ。あれで昭和一桁生まれなのだから、解らない。
「まあ…な。高速鉄道の連中は、色々あるからな」
「東海道上官も、そうなんですか？」
「…何が」
　ピクリと肩を震わせたのが、武蔵野線にも解った。
「それは…」
「おーい。昼にしようぜ」
　絶妙のタイミングで、前の方を歩いていた山陽が、振り返って声を掛ける。
「…行こうか」
　何もなかったように、東海道は武蔵野の肩をたたき、先に歩いていった。

「はぁー」
　武蔵野は、ポリポリと頭をかいた。どうも、聞いてはいけない事だったらしい。
「まあ、オレには関係ないけどねー」
　ワザと、声に出して言ってみた。
　八高と山陽の仲もどうでもいい。単に旧知と言うだけだろう。そして、東海道新幹線の事だって、ただの口うるさい上官という認識でしかない。最も、正確に言えば、彼は東海の路線で、東の自分にとっては、色々言われる謂われはないのだが。

「って、それを言ったら、何で東海と西…」
　あり得ない訪問者に、武蔵野は己の不幸を呪った。じゃあ、東の上官連中だったらいいのかと言えば、勿論それはそれで面倒で、つまりはこういうシチュエーションは、苦手なのだ。

続きます。
つか、終わらなかった～～　○|￣|＿
続き

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