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大阪。乗車業務を終えた東海道と山陽が、新大阪の構内を歩いているときだった。 「……なぁ、東海道。あれ……」 自分達を見る視線に気が付き、山陽がそちらを探せば、そこにはどこかの鉄道の姿があった。こんな昼間に、ここにいるのも不思議だったが、とにかくじっとこちらを見ている。自分には記憶がないので、東海道の知り合いかと思って、相方に声を掛けた。 「……霧島？」 東海道の口から、困った口調でその名前が出される。霧島と言えば、九州まで行く長距離の特急な筈だ。 「何でここに…」 当然の疑問を山陽は口に出す。だがそれは、彼が近づいて来ることで、答えが聞けそうだった。 「…あの、はと」 「…その名で、私を呼ぶな」 地を這うような低い声。普通の在来なら、逃げ出しそうな顔で、東海道は霧島を睨んだ。 「…あ、東海道…上官？」 「何か用か？」 この、東海道の睨みにも逃げ出さず、霧島は東海道の側に立っている。 「話が…あるんだ」 「私には、ない」 これまで見たこともないような、不機嫌な顔で、東海道は切り捨てた。そのまま、行こうとする背中に、霧島が意を決したように叫ぶ。 「話を、聞いてくれないなら、ここでお前のこと……あることないこと…言うぞっ」 上官を脅すとは良い度胸だと、山陽は驚く。その言葉に、東海道が振り向き、霧島の胸ぐらを掴んだ。 「……やってみろ。消すぞ…」 「お、おい、東海道…」 あまりの言葉に、山陽が止めに入った。だが、このＢＴ相手に、こんな事を一介の在来が言うこと自体、消されても文句は言えない。 「……ついてこい」 ここで騒ぎを起こすのはまずいと東海道も思ったのか、霧島を放し、そう言ってまた歩き出した。 山陽は、どう声を掛けて良いかわからず、東海道の後を追う。霧島も、当初の目的を達したのか、黙ってその後に付いてきた。
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「座れ。で…用件は何だ？」霧島は、入ったことのない上官室に足を踏み入れ、先程の勢いはどこへやら、そわそわし出した。そんな彼のことなどお構いなしに、東海道はソファにどっかりと座り、単刀直入に言う。 「あ…その、山陽…上官は…席を外して欲しい」 「……断る。私は、お前達を信用しては居ない…」 “達”って言ったよ…と、山陽は心の中で突っ込んだ。 「お前と二人きりで、話など出来ない。山陽が同席しないなら、話は聞かない。帰れ…」 ちょっとばかり、山陽は感動する。もし自分が居なければ、東海道本線でも呼び出したのだろうが、彼の同席は、霧島の来歴を考えれば、いただけない。そして自分が信用されたようで、山陽は二人に見えないように微笑んだ。 山陽は、そのまま簡易キッチンに向かった。間が持たなかったので、お茶でも入れようと思ったのだ。 「山陽。そんな物はいい。彼はすぐに帰る」 「東海道…それは…」 どうも、彼と東海道は、知り合いらしい。“はと”と呼んでいたことから考えると、彼が特急時代の仲間だろう。ただ、山陽の記憶にある霧島は、京都から九州まで、夜行で走っていたはずだ。だがそれも、かなり前のこと。今は、霧島という特急は存在しない。 「オレ…廃止になって、かなり経つ」 「……お前は、桜島になったと、記憶していたが…」 “桜島”とは、霧島が改名した特急だ。それも、結局は廃止されていた。 そんな話を聞きながら、東海道に睨まれようと、山陽は二人にお茶を出した。実際、霧島に出した所で、飲まないかも知れないが、疲れた東海道にお茶の一つも飲んで欲しかったからだ。 「ああ。結局廃止になった…それに…」 先程の勢いはどこへやら、霧島はソファに座り、下を向いたままだった。 「国鉄が、ＪＲになって、分割されて、長距離特急は…あまり必要とされなくなったから…」 霧島の言うとおり、昔の優等列車全盛の頃から比べると、特急も急行も、ましてや夜行列車などは数えるほどしかない。そして、分割された国鉄は、二社や三社に跨る長距離列車を、新設する気がない。 「お前……名前が名前だからなぁ…」 自分も東海道の隣にお茶を持って座りながら、山陽が溜息と共に言う。“霧島”と言う名前のせいで、彼が走る路線は、九州関係に、限定される。 「だったら、九州に掛け合うがいい。私に言ったところで…東海は、在来に関しては手一杯だ。お前の為の路線など、用意できない。まだ、こいつの方が…」 そう言って、東海道は山陽を見る。 『イヤ、俺の所だって、余裕はないのよ』と、山陽が小声で言えば、『解っている。どこだって同じだ』と、東海道が返した。 「九州には、とっくに。それに、こ、こいつには…頼みたくないっ」 上官をこいつ呼ばわりとは、また良い度胸だ。だが、山陽はその言葉に仕方ないかと思う。山陽新幹線開業のせいで、そこを走っていた優等列車は、軒並み西に追いやられた。それを言ったら、東海道だって、東海道本線の優等列車をほぼ追いだしたのだから、同じだと思うのだが。 （ああ、でも東海道の時は、霧島は、廃止されなかったんだっけ） 山陽は、それ程覚えているわけでもないが、東海道が開業の時、夜行列車は案外残っていたのを、おぼろげながら覚えていた。 「そうか。桜島は、山陽の博多開業の時に、廃止だったな…」 だからそう言うことは、思い出さないでくれと、山陽は涙目になる。そっと前を見ると、霧島が睨んでいる。 先程から、東海道の記憶力はすごいと、山陽は感心していた。もしかして、自分が関わった列車や路線を、きちんと思えているのか。まあ、彼の記憶力や計算力など、卓越した能力は今更なので、ただ単にすごいと思っておこうと思う。ただ、その代わりのように欠如したあのセンスは何とかならない物か。出来ることなら、今の彼の能力の一部が劣っていてもいいから、東海道にセンスという物を、授けて欲しかったと、山陽は溜息を吐く。 「お前は、名前が変わっても…構わないのか？」 東海道は、考えるようにお茶を飲みながら、霧島に核心を聞く。 「いざとなれば…」 彼は、力なく答えた。 「東日本に、頼ったらいい」 「え？」 「まだ、あそこの方が、のぞみがあるぞ」 「で、でも、オレ…“ツテ”が…」 だから、頼み辛いであろう東海道を頼ったのかと、山陽は納得する。ある意味、霧島は運が良かったのか。ずっとあそこで、東海道のことを待っていたのだろう。それは、結構根気の要ることだ。東海道の乗車業務を、この男が知ることなど出来ないはずだから。そして、自分が一緒にいたのも、東海道が話を聞く気になった一因かも知れない。 「……期待はするな」 「え？」 「私が言ったところで、東日本の経営に口を挟めよう筈もない。九州も同じだ。だから、期待はするな……」 「あ、あの、それは……」 霧島は、一瞬喜色を浮かべるが、東海道の厳しい顔を見て、だまってしまった。それでも、一応話はしてくれると言うことか。 「…私達は、これから会議がある。話は終わりだ…」 「……わかった」 それ以上はどうしょうもないと、霧島も解っているのか、立ち上がり、流石に軽く頭を下げた。 「お前…今はどこに？」 ドアに向かう霧島に、思い出したように、東海道が声を掛ける。 「九州に世話になりながら、他の列車や路線の手伝いを…」 「…そうか」 その言葉を聞いて、霧島は部屋を出て行った。 |
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急行霧島は、昔は東京から鹿児島まで走ってたんだよ〜 |
何だか、霧島が浮かんでしまったので。
イメージはちょっとそばかすで、巻き毛。背は高め。
格好いい山陽さんキャンペーン。
どうかな？