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「誰が、会議だって？」 霧島が出て行ったのを確認して、山陽が言う。 「あれ以上、話しても、埒は明かないだろう？」 当然のように東海道が言う。が、確かに山陽も、同意するしかない。 「で、どうするの？」 「どうもしない…」 「…東海道？」 それはないだろうと、山陽は非難する。 「霧島…期待してるぞ〜。あれは…」 山陽は、後ろめたさもあるのか、同情的だった。最初の頃、そう言う感情は持つなと東海道に言われたが、やはり目の前にすれば、考えてしまう。 「私は、期待するなとは、言ったぞ」 「そうなんだけどよぉ」 だったらきちんと、無理だと断ればいいのにと、山陽は思う。 「断れるなら、そもそも話など聞かない…あの立場の鉄道が、私達の所に来て言うことは、貴様とて想像がつくだろう」 「だけどさ〜、昔なじみなんだろ？少しは…」 「はっ。昔なじみ？」 東海道は、嘲笑を持って答えた。山陽は、それ以上何も言えない。目の前の男は、“はと”という名前を憎んでいる。それは、つばめに対しての確執だけではないらしい。 「…だったら、何で霧島の話聞いたんだよ？あそこで、色々言われるのが、面倒だったの？」 「…それもある」 “も”と言ったからには、他の理由があるわけだが、東海道は返事もせずに考え込んだ。 「…霧島だったから。もし…月光辺りなら…」 「東海道？」 そして、ぽつりと言った言葉に、山陽が聞き返せば、結局『何でもない』と、返すだけだった。 「まあいい。だがこの先、もし奴の肩入れをして、他の廃止路線まで来たら、貴様は責任が取れるのか？」 東海道が、その事には触れるなとばかりに話題を変えたので、山陽もそれ以上は突っ込まなかった。そして、その後の彼の質問は、山陽も頭が痛いことだとは思う。 「まあ、あんまり、お前の所には、来ないと思うよ」 この『恐い東海道新幹線様』には、そうそう直訴しよう何て考える奴は居ないだろう。その代わりのように、自分や東の連中が、とばっちりを食う可能性はあるなと、山陽は考える。自分などは在来などにも、案外“話しやすい”と、思われているらしい。それは、西での自分のスタンスがそうなのだから、仕方ないと思うが、山陽新幹線が開業したおかげで更に西に追いやられた連中は、別の意図を持って、自分の所に来るかも知れない。また、東の新しい高速鉄道に、直訴するバカもいる可能性もある。 「貴様は、霧島に同情的なようだが、じゃあ私に、文書の一つでも、書けとでも言うのか？何某という元優等列車が当社に訪れ陳情いたしました。つきましては…」 「……無理だね」 東海道の、いい加減な言葉に、山陽も諦めたように同意した。 自分も廃止の危機の時は、同様の仲間と不安な心持ちで時を過ごしてきた。そして、廃止された彼らの何人かは、隠居のような生活を送っている。だが、いつ消えるかという不安を抱えながら居るのは、辛いだろう。 だが、どこのＪＲだって、自分の所の新設路線には、やはり自分の所の誰かを、当てたいであろう。 いずれにしても、このようなことが今まで無かったのが、不思議だ。 「さて……」 そう言うと、東海道は突然出掛けると言い出した。 「何？」 「東海ツアーズとの打ち合わせがある」 「あ…うん」 聞いてない…と思いながらも、山陽は“わかった”と返事をする。去年末に東海が立ち上げた、旅行会社。主力商品は、東海道新幹線を使った、首都圏と、京都・大阪間の旅行だ。 「山陽。貴様は、今日はこちらであがりだったな」 「あ、そう。ずっとこっちで書類整理…」 本来は東海道もそのはずだったと思いながら、見れば、東海道は鞄に書類を詰めている。 「夜には戻る。そちらのサインがいる物もあるのだが、帰ってからでいいか？」 「あ〜、いいよいいよ。待ってるから。そんなに遅くなんねぇだろ？」 「…つもりだ」 「じゃあ、帰ったら一緒に夕飯食おうぜ」 「…貴様の奢りならいいぞ」 相変わらずの物言いに、山陽は苦笑する。 「おばんざいの店だけど…」 「任せる。向こうを出るとき電話する」 東海道は、既に次のことを考えていて、さっさと歩き出そうとした。 「東海道……」 いつもと違う調子の山陽の呼びかけに、東海道が足を止める。 気が付けば山陽が自分の側に居て、いきなり抱きしめられた。 「……っ！さ……んよう」 驚いてそう言うのが精一杯で、東海道は顔を赤くして、抱きしめられたままだった。 「あんまり…無理するなよ」 「……別に…」 こういうのはズルイと、東海道は思う。山陽は、本人が思っている以上に、イケメンだし、声だって、その気になれば、すごく“いい声”なのだ。 それを、抱きついて、耳元で囁くなどと言う反則技を、しかも上官室でするなど。『勤務中だ』と、怒るのが筋だが、山陽に惚れている東海道は、時として、そんな事など言えないくらい動揺する。自分もこのまま、彼に甘えたくなる。 「大丈夫だ。今日は…帰ったら…お前が…ねぎらってくれるのだろう？」 「え、ああ。まぁ…」 東海道の言葉に、山陽は手の力を少し緩める。下から、東海道が見上げていた。 「食後に…肩の一つも揉め…」 悪戯っぽく笑う彼に、山陽は返り討ちにあった気になる。 今日は、二人共早上がりだ。だから、東海道の帰りを確認し、夕食に誘った。当然仕事を上がってから行こうという暗黙の了解で、その夕食の後、肩を揉め（言葉の上だったとしても）と言うことは…。 （どちらかの部屋で、一緒に過ごす…って事だよなぁ） 計算なのか、無意識なのか。彼は時々こういう事を言う。で、それにやられた自分は、降参するしかない。 「じゃあ、行ってらっしゃい」 駄目押しで、山陽がもう一度耳元で囁く。東海道は赤くなりながらも、山陽に軽く手をあげ、上官室を出ていた。 |
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と言うわけで、1990年のネタですだ。 |
山陽さんが、余裕があるぞ！？