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１０
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「すまなかったな」ホテルのロビーで待っていた京浜東北の元に、東海道本線が姿を現した。山陽が、部屋まで来るかと聞けば、流石にここで待つと言った。まあ、あの上官ばかりの部屋に、必要がないなら行きたくはないだろう。 「ううん。で、どうしたの？」 「…京浜、腹減ってないか？」 「…そうだね。何か軽いものなら…」 なかなか核心に触れない東海道の話に、流石長い付き合いの京浜東北は心得たもので、変にせかそうとしなかった。東海道は、あたりを確認し、フロントに何か告げ、未だあいてるレストランに京浜東北を伴って入った。先に予約してあったのか、個室に案内され、二人は簡単な食事を頼む。Jrは、先程は食べ物が喉を通らなかったので。 「で、何？」 運ばれてきたオムライスに、京浜東北はスプーンを入れ、東海道に聞く。 「兄貴が…襲われた」 「……それは」 京浜東北が、一瞬手を止め、東海道を見る。彼の方は少し落ち着いたのか、淡々と状況を説明し始めた。
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「…そうなると、僕たちも危ないのかな」一通り、起こった事とJrの見解を聞いた京浜東北は、考え込んだ。 「いや、僕たちより、君とか、宇都宮とか……」 かつて、優等列車が華やかなりし頃、それを多く走らせており、今は廃止している路線。理屈から言えば、高速鉄道達が憎しみの対象だろうが、“本線”と呼ばれる者達も、十分その対象になりうる。 「在来達にも、注意喚起した方がいいのかな？」 「それは…そうなのだが…」 出来るなら、在来達には話したくない。これは高速鉄道の、もっと言えば、東海道新幹線の意向だ。そうでなくても、新幹線の新設は、地元とも色々揉めるのだ。在来の中にも、あまりいい感情を持ってない者も多い。いくら上官といえど、下の者の不満に、無頓着なわけには行かない。 「少なくとも、宇都宮には言わなきゃだね」 ため息を吐きながら、京浜東北は言う。つまり、彼には京浜東北が話をしてくれると いうことだ。東海道本線は、目の前の男に頭を下げた。 「君に、こんなに丁寧に、頼みごとをされるなんて、珍しいからね」 京浜東北の言い様に、東海道は少し顔をしかめた。
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「Jr。話は付いたのかい？」部屋に戻ると、山陽が声をかけてきた。 「はい。こちら首都圏の在来に関しては、何とか…」 ちらりと東北新幹線を見ると、鷹揚に頷かれた。その先には、テーブルで書類を見ている東海道新幹線がいた。 「…あの」 「あぁ、執務室行ったとき、持ってきたんだ。こうなったら、ただここにいるのは、間が持たないだろ？」 肩をすくめながら、山陽が言う。確かに、余計な事を考えなくていいという点では、山陽の判断は正しい。 「兄貴…」 Jrが、そっと兄に近寄る。 「もう、風呂入って寝ようぜ。久しぶりに一緒に寝られるし…」 ちらりと、山陽の方を見たのは、気のせいだろうか。 「……そうだな」 確かに、今日はこれ以上出来ることはない。弟がいるのなら、東海道新幹線は弟と同室で寝ると言うだろう。 「じゃあな…」 山陽は、ひらひらと手を振り、二人を見送った。 「で、俺はお前と……寝るのかな」 「そうなるな」 最初の予定が、大幅に狂ってしまった山陽と、その意味を、全然解っていず、返事をする東北。分かれという方が難しいが、寝室でこの男と寝るのは、とても寒い光景だ。
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「千代田…それから」「兄貴。もう寝よう…」 ベッドに入ってからも、結局先程の話になり、東海道を走っていた、優等列車の名前を再度列挙しだした。 「……こんなに…いたのだな」 そのほとんどを、自分が追い出した。そのすべての恨みを、自分と、そして山陽が背負っているのだ。 「兄貴達だけじゃ…ねぇよ」 自分も、そして山陽本線も。このままでは、鉄道というインフラが、衰退していくと。そのための高速鉄道。そして、高速鉄道に乗ってもらい、高収益をあげるという戦略にシフトしていった。その為に、切り捨てていったもの。高度経済成長という時代の元、あの時はあれがベストだったと、東海道達は信じていた。
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「どうなんだ？」東海道達の後に、山陽達も別の部屋に入り、ベッドに入る。 フットランプのみを点け、『おやすみ』と言った後、おもむろに東北が言い出す。 「何が？」 「犯人の見当」 「うーん」 先程、山陽達が執務室と宿舎を回ってくる間、残った兄弟が、思い出した優等列車のリスト。途中までだったが、山陽の知る名前も、沢山あった。が、ぴんとくる者がいないと言うのが、三人の感想だった。 恨んでいると言えば、みな等しく恨んでいる。東海道から追い出されて、山陽本線を走っていた者も、最終的にそこから追い出された。そうすると、山陽にも等しく恨みを抱いているのではないかと。 「もし、これが東海道個人への恨みなら、俺には見当がつかない」 「…そうか」 確かに、先ほどの東海道の話を考えると、純粋に彼へのみの恨みと言う線もある。 「そう言えば、お前は、どうなんだよ」 ずっと、疑問に思っていたことを、山陽は言う。 「お前だって、恨み…買ってるだろう？」 少し、東北が考え込む気配がした。 「ウチは…」 少しの沈黙。 「本線は、最初から、厳しかった」 「……はぁ」 恨みとか言うレベルではないのか。彼らは、東海道や自分のように、鉄道という物も知らず、苦労したわけではない。 「……そうかぁ」 あの、宇都宮の顔を思い出し、山陽は複雑な気分で、無難な答えを返した。この鈍い男がこう言うのだから、実際はもっとすごかったのかも知れない。東北本線は、ひねくれていそうだし、よく気がつくから。見たくない物も、見えてしまうのであろう。 「彼には、感謝している」 「……あ、そう」 まあ、この男なら、大丈夫だろう。あの部下にあの同僚。自分と別の意味での苦労を、何とかこなしている鋼鉄の精神。列車格の恨み言など、歯牙にもかけないだろう。それはそれで、腹立たしいのだが。
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次の日、早朝に起きた面々は、打ち合わせ通りに各仕事場に向かった。Jrは、兄が山陽と一緒に、高速鉄道の執務室に入るのを見届けると、在来の執務室に向かった。簡単な打ち合わせをしたら、こちらに戻って来て、兄と一緒に東海の東京本社に詰める事にした。早朝に、東京に向かった上越も、定刻通りにこちらに着いた。説明をはしょる東北に代わって、山陽から事の顛末を聞いた。 「それって、東海道の優等列車から、いっぱい恨まれてるって事だよね〜。よく今まで、刺されなかったよね〜」 「…上越」 茶化して言ったが、それは自身への嘲笑も混じっていることも知っているから、東北が軽く『上越…』と窘めただけで、それ以上は言い争いにはならなかった。 「と言うわけで、各自気を付けるように」 一応、高速鉄道のリーダーの威厳を見せ、東海道はそう締めくくった。 |
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久々です。終わり方は決まっているので(^_^;