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秋風に伝えて
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「よかった。移動をしてなくて…」 社交辞令的な笑顔を見せながら、目黒は二人に近づいた。 「丁度…お前に用事があったのだが…東横…彼が？」 ここに来たのは偶然だと言い訳し、ついでに、みなとみらいの方に視線を向けた。先程の東横からのメールで、聞いていたのだろう。 「そうだ。目黒…彼が、みなとみらいだ」 聞かれた東横が、彼を紹介する。 「はじめまして」 にこやかに、右手を差し出して、みなとみらいは挨拶した。 「我が東急へようこそ。歓迎する、みなとみらい」 力強い調子で、目黒が手を握った。 「東横と直通するのだったな。私とも併走するし。仲間が増えると、心強い。君も、東横をサポートしてくれ」 成る程。東急の内情は複雑だ。目黒と東横は仲がいい。二人の出自を考えれば、当然だが。だから、直通する自分は、“自分達”の仲間だと、認識をしたのか。…したいのか。 見れば、その黒縁眼鏡の奥の目が、自分をヒタと見つめる。まるで……『お前はいざというとき、東横の味方をするのだろう？』と、言っているように、みなとみらいには取れた。 こどもの国が、あの外見のまんまの偽装をしたくなる理由も分かる。この、面倒な…表面化はしない争いに、巻き込まれたくないのだ。だが自分は、そうはいかないだろう。新人の振りは出来ても、子供の振りは出来ない。 「はい…。直通相手のことを気遣うのは当然ですから」 これで、自分の立ち位置が決まってしまったと、みなとみらいは腹をくくった。まあ、走っている路線から考えれば、当然というか、仕方ないというか。 当の東横線は、相変わらず困ったような表情をしている。自分の方が先輩なのだから、自分が面倒を見るのだと、目黒にぼそぼそと言っている。 「これは、昔から心配性で…」 東横の言葉を、あしらった目黒が、『もう少し自信を持ってもらいたい物だ』と言う。ハッパをかけているつもりらしい。 ぶった切られ、こんなになっても、目黒は偉そうだ。まあ、大東急の時代を経てきた彼らに、しおらしくしろと言う方が、無理か。 分断された目蒲線の片割れ。そして目黒線は随分進化を遂げたと言っていいだろう。残りの多摩線のあの編成は、あれ以上の発展の余地がない。ホームも昔のままの為、狭いから、他社との乗り入れも不可能だ。地下化でもしない限り。 まあ、地下に潜り、蒲田で京急と繋がると言う手も、あったろうが。それはまた、すさまじく未来の事の気がする。 「東横線も、これからどんどん発展するからな」 ぽんぽんと、背中を叩かれて、東横はますます困惑した表情になる。 「発展…ですか？」 「「……」」 “発展”なのかと、みなとみらいは、首を傾げそのまま素直に口に出した。一瞬、二人の表情に、緊張が走る。 「そうですね。私と繋がって、どんどん観光客を、運ぶのですから…」 明るく言ってみたが、東横はまた不安そうな顔になり、目黒は一瞬きつい表情をしたが、一転して、声を上げ笑った。 「ああそうだ。君の頑張りに、かかっている」 わざとらしく、目黒は今度は、みなとみらいの肩をたたいた。 「勿論です」 みなとみらいの答えに、目黒は機嫌が良さそうだった。 表面上は。 やはり気にしているのかと、暢気にみなとみらいは思った。まあいい。自分には…関係なくはないのが、頭の痛い所だが。 「この後は？」 そう聞かれて、みなとみらいは視線をそらした。このままで行くと、この後の挨拶にも、二人は付いて来かねない。 「そうですね…では…」 そして考えた。この二人の前では、なんと答えるのが一番いいかを。 「ちょうどいいですから、このまま大井町線さんに…会いに行こうかと…」 さっき言っていた予定と違うのを、東横は気がついた様だったが、それ以上のリアクションはしなかった。 「そうか。それはいい」 目黒が、うれしそうに言う。確かに、大井町線はこの二人に近い。まあ、自分の路線の近い方から挨拶に言ったと言えば、納得してもらえるだろう。因みに、多摩川線は気をつけろと、こどもの国線に言われたので、他の者と会ってからにしようと思った。池上線に関しては、言わずもがなだ。あれは、東急に、山の様に言いたい事があるだろうから。 何れにしても、本当に気を遣う。 「…ですから」 言いながら、みなとみらいは値踏みをする。大井町線は、この二人のどちらでも行けるのだ。アクセスするだけなら。 「折角なので、やはり…自由が丘でも、見ていこうかと…」 「ああ。是非見ていってくれ」 自由が丘。東急東横線が誇るおしゃれな街の一つだ。 「東横さんも目黒さんも、沿線はおしゃれですからね」 先程の埋め合わせのように言えば、案の定目黒が胸を張る。 「君こそ、観光客がいっぱい来る“港町ヨコハマ”ではないか」 東急に限らず、鉄道は、沿線を開発し、乗客を増やすことに腐心してきた。その意味では、みなとみらいを直通相手として手に入れるのは、さらなる発展に繋がると、目黒は楽しそうに言う。そう、東横の沿線は、東急の誇りだ。 「そうだな、やはり…直通する私が…案内しよう」 結局、東横がそう言いだした。 「お願いします」 みなとみらいは、素直に頭を下げた。
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「どういうつもりかな…あの……男」 二人を見送った目黒は、一人つぶやく。東横は、後輩が出来た事にうれしそうだったが、アレはかなりのくせ者だ。 （まあ…私たちの側に居るなら、文句はないがな） 少し先輩から意見をしてもらうために、こどもの国に釘を刺すというのも考えたが、あの路線では役には立たない。まあ、言いたいことをストレートに伝えてもらうには、子供の物言いは、有効かもしれないが。 「東横を…傷つけたら、許さない」 先程飲み込んだ言葉を、目黒は口にしてみた。その言葉は重い。言わなくても、多分あの男は解っているだろう。今時の若者らしく、空気を読まない態度かと思えば、上手くかわしてみせる。国鉄とも競合するあの路線、ああいうのが一人いても良いだろう。国鉄…特に横浜方面は面倒だと、東横が愚痴っていたのを、目黒は思い出した。 「……あっ」 用事があると言って来たくせに、東横とも何もやり取りをしなかったことを、目黒は思い出す。 「まあ、いいか」 まったく用事がなかったわけではないが、急ぐほどの事ではなかったし、みなとみらいは、気がついていただろうし。 仲間が増えることは良いことだ。 多分。 |
前回の続き。ウチでは、目黒さんが一番怖いです。
ちなみに目黒と東横は、こどもの国に欺されてます。
彼の中身が、じじいとは気がついてない。
タイトルは…目黒だから。
（ものすごい、連想ゲームですが）
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