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100年の孤独
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「で。君の感想は？」「何の話ですか？」 東横とみなとみらいは、自由が丘に向かうべく、東横線の上りに乗った。二人きりになったからか、いきなり東横が聞いてきたのだ。 「君から見た、東急の内情だ」 「さあ。まだみなさんに、お会いしてませんから」 みなとみらいは、当たり障りのない言葉を選ぶ。 「…では、すべての路線に会ったら、聞かせてもらおうか」 まいったと、みなとみらいは思ったが、勿論顔には出さずに、適当に返事をする。これでは、自分が偵察をしているのか、逆にテストされているのか、わからない。まあ、想定の範囲内ではあるが。 『あまり、姑息なことをするな』とは、こどもの国線からの、忠告だ。この後で、横浜で見かける国鉄…今はJRか…の連中も、つついてみたいと思っていたのだが、これは難しいかもしれない。 「そういう東横さんは、どう思ってらっしゃるのですか？」 殊更丁寧に聞いてみると、東横は複雑な表情で、みなとみらいを見た。 「……どうと、言われても…」 「色々おありでしょう？」 意趣返しのように重ねて聞く。少し、踏み込みすぎたかなと、思いはしたが。 「皆は、よくやってるよ」 予想した通りの、こちらも無難な答えだ。その一言で、言いたい事を飲み込んだようだった。そのまま顔を上げる。 「もうすぐ着く。大井町が待っているはずだ」 ドアが開き、一番最後に降りた。最後尾の車両から、ホームの真ん中に歩いていき、階段を下りた。
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「やあ、東横」 大井町線のホームに着けば、やはりダブルのスーツを着た男が手を挙げる。 随分と、スマートな感じの男だ。成る程東急の中でも、イケメンの部類なのか。基本的に、東急の路線は、おしゃれと言われる所を通っている者が多いのではあるが。 「はじめまして。これからよろしくお願いいたします」 型どおりの挨拶をして、みなとみらいが笑ってみせれば、大井町線はやはり静かにほほえんだ。 「君とは、あまり路線的には繋がらないが…これから、よろしく…」 そこまで言うと、大井町線は少し考え込むように、言葉を切った。 「そうか。京浜東北が…」 大井町線は、自身の終着駅で接続する、JRの路線の名前をあげる。あまり気安そうでない彼だが、大井町とは結構話すのか。 「君の開業について、少し神経質になっているようだったから…」 やはり、会うのは慎重になった方がいいのかと、みなとみらいは考え込む。 「東横は、何か聞いてないかい？」 今度は、急に自分に話題が振られて、東横は当惑する。 「いや、自分は…あまり国鉄とは…話さないから」 そう言うなら、池上や多摩川の“蒲田組”の方が、国鉄…京浜東北と、接触があるのではないか…と、自分の話題を逸らすように、東横が言ってみる。 「多摩線が…と言うなら…目黒は…？」 以前、目蒲線として走っていた目黒は、蒲田では彼と懇意であったろうに。 「そんな話は…あまり…」 東横は、遠い目をして昔を思い出す。東急と国鉄は、仲が余り良くない。 目黒線は、目蒲線だった昔から偉そうだった。京浜東北の前でも、ああだったのであれば、彼の口から京浜東北の事が、語られることはあるまい。反応の薄い国鉄…位の感想だろう。多分彼には、それ以上の感想はない。大井町線が見るに、あのやはり偉そうな東海道本線の緩行線と言うことで、京浜東北は色々苦労を抱え込んでいるように見えた。 「そうだ、みなとみらい。今度京浜東北と会ってやってくれ。競合するとはいえ、色々と協力しなければならないことも、あるだろうし…」 「……はい」 まさか、そんな事を言われるとは、思わなかった。みなとみらいは素直な返事をするしかなかった。何より自分は、根岸まで延伸するという計画もある、京浜東北には、いずれ挨拶しに行かなければだろう。 「そういえば…どう思ってるんですか？…桜木町駅のこと」 そこまで考え、連想的にその駅を思い出した。つい、好奇心に負けて、みなとみらいは口に出した。その言葉に、大井町と東横が、彼を見る。 自分と直通するために、東横線は桜木町駅を捨てる。横浜の手前から地下に潜り、横浜の地下に、巨大な駅が出来る。 「…あれは、良い思い出だった」 東横線は目をそらす。『桜木町』を捨てた…とまではいかないが、収益の悪い横浜−桜木町間は、お荷物であったことも事実なので。 「そう言う君だって、もしかしたら横浜線からの延伸で敷設されるはずじゃなかったかい？」 助け船を出すように、大井町線が気安い口調で言う。もしそうなら、こうやって東急グループと気安く話をしているシチュエーションはなかったはずだ。どころか、自分たちのライバル路線に、なっただろう。そうすれば、東横線も、桜木町駅を手放すことはなかったのかもしれない。 「そうしたら、横浜駅の未来も、変わっていたでしょうね」 みなとみらいが営業開始すれば、あの、横須賀線の隣のホームは、用無しになる。 勿論、自分達が地下に潜って、良いこともある。我が東急グループが、すばらしい商業施設を建て、発展していくのだ。いや、し続けていく。 「まあ、東洋のサグラダファミリアについては、またの機会にしましょう…」 何時までも工事が終わらない横浜駅は、そう揶揄されている。まあ、その長大な工事の現在最大の要因が自分達なのだが。 「発展することは、いいことです」 微妙な空気が流れるその場を、大井町の一言が締めくくった。 その、穏やかな言い方に、みなとみらいは納得した。数多くの、路線と繋がっているだけはある。スマートに意見を述べ、その場を納める。多分、一番気が利くのかもしれない。 「そうですね。私も、東急グループの発展の一助となれば、幸いです」 わざと畏まった言い方をしたみなとみらいに、二人は頷いた。
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「このまま、田園都市線に行くのかな？」 『では…』と言った東横を、大井町線が止めた。 「そのつもりだが？」 意味がわからない東横は、不思議そうな表情をしている。みなとみらいの方は、すごくいやな予感がした。 「では、田園都市には、私が連れて行こう。君は、色々忙しいだろう？このまま、私の路線に乗ってしまえば、田都はすぐだ」 別に、東横線に乗って、渋谷で会うのもすぐだ。下手をすれば、そちらの方が急行も通っているので、早いかもしれない。 「彼には私も用事があるし、このまま乗っていくつもりだった。そうだ…彼がどこにいるかで決めようか」 そう言って、大井町線は携帯を取りだし、素早い動作で電話をかける。 「田都か？いまどこに…そうか。じゃあ今から新人の、みなとみらいを連れて行く。接続駅で待っていてくれ」 さっさと話を付け、大井町は電話を切る。 「……彼はどこに？」 当然東横が聞く。 「たまプラに居るそうだ。そうなると私の方が近い」 そう言って笑うと、みなとみらいに目配せをする。彼としては従うしかなかった。 「そうか。では、よろしく頼む」 東横の方も、あっさりと、役目を大井町に渡した。 「そういえば…」 東横線を見送り、大井町線の上りを待ちながら、みなとみらいが口を開いた。 「あなたは昔…田園都市線でしたね」 その言葉に、大井町はうっすら笑った。 ホームに電車到着のアナウンスが流れた。 |
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大井町線さんは、私の中では |
タイトルは、お酒の名前。
あ、でもまだこのときは、１００年じゃないか
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