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ニコタマ…にて
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「君は国鉄と、直通したかったかい？」 大井町線は、電車に乗ると、みなとみらいに聞く。 「…それは」 先ほどの台詞に、意趣返しをされたようだが、まあ軽い方だろう。大体、先程の台詞は、新参者が口にしていい内容ではない。あの昔話は、大井町線にとっては、おもしろいものではないであろうから。 「どの様に答えるのが、正しい答えなんでしょうか」 質問に質問で返すのは、卑怯だったかと思ったが、大井町は気にした様子もなく、涼しい顔で反応する。 「東急グループに入れて、“光栄”なんだろう？」 静かなその言い方は、感情がよくわからない。まあ、怒ってはいるのかもしれない。 繋がりたかったかと聞かれても、みなとみらいにとっては、なるべくして成った結果だ。最初は予定通り、自分は国鉄に組み込まれるのだと思っていた。それが、紆余曲折の上、こういう形になった。それだけの事。どちらが良かったかなど、解らない。 そして、その時まで気にしていなかった『東急』と言う巨大企業に、関心が行くのは当然だった。みなとみらいとしては、純粋に、自分が調べた“東急”の実体を、確認してみたかった。若造と言う免罪符に期待をして、疑問に思った事を、ストレートに口に出して。こどもの国線に言わせれば『それが失礼なのじゃ』と言う事だったが。 「勿論。東横さんと繋がれるなど、この上ない名誉で…」 言葉の途中で、大井町が笑う。だから、みなとみらいは、そこで言葉を切る。 「…まあ、面白い物が見れた…と言うところでしょうか」 みなとみらいの言葉に、何かを思いついた大井町が、口を開く。 「好奇心は…猫をも殺すよ」 「…？」 唐突な言葉に、みなとみらいは素直に不思議そうな表情を見せた。 「あまりあちこちに、首を突っ込むな…と言うことだ。それに…」 自分の言葉に、何かを思い出した大井町は、少し笑った。 「猫と言えば、横浜の猫に、殺されないように気をつけた方が良い」 「横浜のネコ？」 みなとみらいは、更に眉をひそめる。 「ああ、君はまだ、会ったことがなかったか。私も、走っている所くらいしか、見たことがないんだけどね。昔は、大井町でよく見たんだが…」 昔と言うことは、今は大井町を走っていないのか。 「ああ、もうすぐ着くよ」 自由が丘から二子玉川は短い。そして大井町は、その話を打ち切ってしまった。 後日、みなとみらいは『横浜の猫』が、誰かを知った。
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「こちらだ」 二子玉川に着くと、みなとみらいが階段を下りようとするのを制し、大井町がホームの反対側、田園都市線の下り線を示す。それで、大井町が嘘を吐いたことを、みなとみらいは悟った。先程彼が言ったとおり、たまプラザー駅にいたなら、彼は上り線で、ここに来るはずだ。 「欺したんですか？」 「…何の話だ？」 にやりと笑う。 みなとみらいは追求するのをやめた。あの電話も、考えれば伝聞でしか、自分達は田園都市の言葉を聞いていない。それを計算して、大井町は電話をしたのだ。ああ言われれば、東横もみなとみらいを案内するのを、素直に大井町にゆだねるしかないのだ。 ホームで立っていれば、入線した電車から田園都市線が降りてきた。 「やあ、田都」 大井町線が、やはりスマートに片手を上げて挨拶をする。 「彼が？今度東横線と直通する？」 「ああそうだ。わざわざ済まなかったね」 笑顔を見せながら、大井町線が田園都市線に、みなとみらいを紹介する。 「こどもの国と、同じ扱いだったな」 計画されたのは自分の方が先だが、こどもの国線の方が、早く開業した。もっとも彼の路線は、はじめからあった軍事路線の転用で、自分とは事情が違う。 「あの子も、仲間が出来てよかったではないか」 田園都市線の言いように、大井町は一瞬動きが止まった。が、何事もなかったように涼しい顔をして。 「これで彼にも『引率のお兄さん』が出来て、よかったのではないか？」 と言ったので、田園都市線は笑った。田園都市線は、田園都市線で、みなとみらいの方を向き 「でも、君は当分忙しいだろうし、離れているからな。彼の世話は、私に任せたまえ」 等と、後輩が出来たことを、楽しんでいる。 「…ありがとうございます。よろしくお願いします」 頭を下げながら、みなとみらいはそっと大井町線を盗み見た。 田園都市線は、見た通りの男だった。勿論東急電鉄のトップグループに居る男だし、尊大な態度も思っていた通りだったのだが。やはり、問題は大井町線だ。 あの態度は、知っている。 こどもの国線の、本当の中身を。 「お二人は…以前同じ名前でしたよね？」 歴史を確認してみた…と言う態度で、みなとみらいは軽く聞いてみた。 大井町は、唇の片方を軽くつり上げ、田園都市線は…うろたえていた。 「我が社は、色々と合併しているからね。君も……東横と同じ名前にならないよう、気をつけたまえ」 大井町線らしくない言い方に、田園都市線が彼を見る。言った当人は、穏やかな表情を見せていた、他意があるようには見えない。 「…彼が、東横になるのは…その…困る…かな」 田都が、漸う口を開き、気を遣ったように言う。 「確かに、東横も困るでしょうねぇ」 大井町線の口調は静かだが、かなり棘があった。 「…そうならないよう、頑張ります」 すっかり警戒されてしまったと、みなとみらいは観念した。大人しくそう言ってみれば、二人は普通に“先輩”の顔を見せる。 「次はどこに行くんだ？」 大井町が聞く。と言っても、ここにいるのなら、訪ねる先は、一つだろう。 「後、行っていないのはどこだ？」 「世田谷線さんと、多摩線さんと…池上線さんですね」 「こどもの国線には、一番に会ったのだな」 「ええ。同じ…横浜高速鉄道の路線ですから…」 田園都市線の質問に答えれば、何だかご機嫌だった。勿論、みなとみらいは、いやな予感がする。 「では、世田谷線まで、私が案内しよう」 案の定、田園都市線が、楽しそうに言う。 「……よろしくお願いします」 みなとみらいは、そう言って頭を下げるしかなかった。ちらりと横を見れば、大井町線は笑いをこらえた表情で、黙っている。 |
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横浜の猫は、言わずとしれた横須賀線です。
昔は、東海道を走ってたから、大井町さんも見てる…筈。
そして、みなとみらいの思惑が外れていく…（ｗ）
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