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偉大なるローカル線
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世田谷線というのは、東急の中でも特殊な路線だ。みなとみらいは、以前東急の歴史と概要を調べた時、そう言う感想を持った。 田園都市線の上りに乗り、三軒茶屋で降りる。 「成る程…」 改札を出て目の前にあるのは…。 「路面電車…」 「誰が路面電車なのかな？」 みなとみらいのつぶやきを、みみざとく聞きつけた男が一人。その制服のスーツと黒眼鏡は、まごう事なき東急の路線だ。 「おや。はじめまして」 田園都市線は、紹介するタイミングを見失い、世田谷線の方は、うさんくさげな表情で、みなとみらいを見る。 「また随分と…今時の若者が来たな」 「…まあ、彼も色々あったからな」 今更だがと、田園都市線はみなとみらいに世田谷線を紹介した。 「はじめまして。この度は、東急グループの末席に加われる事を…」 「そんな社交辞令はいい。君だって、出来れば国鉄か…独自会社で開業したかったんだろう？」 さすが、世田谷線。下調べの通り、すっかり曲がっている。まあ、東横や目黒の前では、こんな事は言わないだろうが。 「いえ、このご時世ですから。開業できただけでも、行幸です」 それは本心だ。自分の開業は揉めにもめたから。東横は、自分が直通すると解ったら、さっさと桜木町駅を廃止した。まあ、端で見てるほど『あっさり』捨てたわけではないのだが、沿線住民にしたら、腹立たしかっただろう。 「また、ずいぶんと優等生な挨拶だな。君が国鉄で開業したら、面白い物が見れたのにねぇ…」 その言葉を、眉間に皺を寄せた顔で、田園都市線が遮る。 「…世田谷。彼は、東横と…直通するのだから…」 もう、“元玉電”達の中では、自分の立ち位置は、決まってしまったらしい。みなとみらいの立場を、田園都市線は、小声で言って、世田谷を窘める。 「ああそうだったな。まあ、今更だろう？何？東横に言うかい？」 「何のことですか？こどもの国線共々、よろしくお願いします」 もう、楽しいモノは見れたから、みなとみらいは大人しく頭を下げる。 「ああ、彼ね。そうか…彼の仲間だったね」 世田谷線は、少し軟らかい表情になる。ああなるほど。こどもの国線は、本当に上手く、彼らをだませているのだなと、みなとみらいは了解した。 「…わかったよ。こちらこそよろしく」 やっと世田谷線が片手を出し、軽く握手をする。 「どう？君……こちら側に付く気はない？」 「…世田谷。だから、やめておけ。彼は先程、大井町にも釘を刺されたんだ。ましてや、東横とは直通なんだから。無理だ…」 随分と、物わかりのいい台詞を、田園都市は言う。まあ彼としては、複雑なのかもしれない。 「君が、こちら側に付いたら、それもまた面白いと思ったのだが。大井町が牽制したというなら…やめておくか」 その言葉を聞きながら、みなとみらいは彼の顔を思い浮かべる。出自と実際の力関係は、わからないものだなと、改めて感じた。 いずれにしても、大井町の前では大人しくしていようと、心に決めた。 「で、後は多摩川線と池上線か？まあ……面倒なところを後回しにしたねぇ」 やはり面倒なのかと、世田谷線の言葉を聞きながら、みなとみらいは曖昧に笑ってみせる。 「じゃあ、彼と渋谷に回るから…」 そういって去ろうとする田園都市線の肩を、世田谷がぽんと叩く。 「多摩川線に、よろしく」 「…あまり…気が乗らない」 「会議では、いつも会っているじゃないか？」 「…そうなんだが。会議では、奴も猫をかぶっているだろう？」 「ああ。久々に、彼に愚痴られるかな」 「……やめてくれ」 心底イヤそうに、田園都市は言う。それほどに、多摩川線は面倒なのだろうか。 「彼と池上と…私は、東急の弱小路線だからね」 二人の会話に、ちょっと唖然とした表情で聞いていたみなとみらいに、世田谷線は脈絡ないことを言い出した。 「…あまり卑屈になるな」 困った表情で、田園都市線は世田谷線を宥める。 「弱小なのは、私も同じですよ…」 そう言うと、二人は苦笑した。
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「……変なところを見せたな。彼は…時々ああいう愚痴を言いたがるので…」 三軒茶屋からもう一度田園都市線に乗り、渋谷を目指す。その車内で、ひどく気弱な感じで、田園都市線が言う。 「いえ。気にしてません」 あれは、愚痴なのか？わざと自分に聞かせたような気が、みなとみらいはする。本当に、こどもの国線のように『僕、よくわかんなーい』と言えるものなら、言いたくなってきた。 渋谷から、また東横線に乗って、多摩川で降りる。だが、待っていると思った多摩川線は、そこにはいなかった。代わりに居たのは、こどもの国線だった。 「……おや、どうしたんだい？」 欺されている田園都市線は、少し屈んで彼に問いかけた。 「お兄ちゃんが、心配だから……行ってあげなさいって…」 「大井町線ですか？」 無表情で、みなとみらいが口を挟む。瞬間黙ったこどもの国線は、すぐに子供の顔になった。 「うん、そう。大井町線さんと、みなとみらいさんは、仲が良いんだね！みなとみらいさんは、僕の後輩だから、君が案内してあげなさいって」 「……しかしそれは…」 田園都市線の方が、とまどった表情になる。こどもの国線は、無邪気にニコニコと笑っているだけだった。 「田園都市線さん。折角なので、先輩の顔を、立ててやってくれませんか？」 田園都市の目を見ないように。みなとみらいは言った。多分、彼は複雑な表情をしているのだろう。 「お兄ちゃんが居るから、大丈夫ですよ。僕も、東急グループの一員なんですから。少しくらい、役に立ちたいんです」 これが年の功なのかと、みなとみらいはあきれる。内情を知っていれば、少しも『子供らしい言動』ではないのだが。 「そうだな。行くのは君が居るから、大丈夫だろうし…」 田園都市線はそう言って、すべてをこどもの国線に任せると言った。 「じゃあ、行ってきま〜す」 無邪気にこどもの国が手を振れば、田園都市線は苦笑しながらも手を振り、二人の乗った多摩川線を見送ってくれた。 |
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世田谷線は昔乗ったことがあります。
良いローカル線（ごほごほっ）でした。
でも、色々曲がってそうです。
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